著者
吉野 直行 深尾 光洋 池尾 和人 中島 隆信 津谷 典子 木村 福成 古田 和子 竹森 俊平 和気 洋子 嘉治 佐保子 友部 謙一
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特別推進研究(COE)
巻号頁・発行日
1999

1997年に発生したアジア通貨危機は、資本自由化・為替制度・コーポレートガバナンスなど、さまざまな問題に起因している。本研究では、最終年度において、通貨危機に対する各国の対応(資本流出規制)の効果について、理論的・実証的な分析を行い、輸出入依存度の高い経済においては、資本規制も短期的には有効であることが導出された。為替制度のあり方についても、日本の経験、通貨危機の影響を踏まえ、中国の(実質的な)固定相場制をどのように変更することが望ましいか、アジアの共通通貨のベネフィットに関する議論もまとめることが出来た。また、バブルを発生させた各国の銀行行動の分析では、(i)金融機関の数(オーバーバンキング)、(ii)担保価値への影響を与える地価の変動、(iii)経営能力とガバナンス、(iv)地域経済の疲弊などの要因を、クラスター分析で導出した。アジア各国への日系企業の進出では、工業団地の役割について、現地調査を含めた分析をまとめた。日系企業の進出の立地として、労働の質、市場としての魅力を背景とした立地が多いことも、調査により明らかとなった。日本からの企業進出は多いが、海外から日本国内への直接投資は非常に少ない。地価・賃料の高さ、労働賃金の高さ、通信コストの高さなど、アジアにおける日本の劣位も明らかにされた。歴史パートでは、人口成長率の違いが経済発展に与える効果を、タイ・日本について比較分析を行った。COE研究における5年間の研究成果は、海外との研究協力や、海外のジャーナルへの論文発表、国内・海外の学会での発表、国内外での書籍の出版などを通じて、発信することができた。こうした研究成果を基礎に、アジアとの結びつきが重視されている現状も踏まえ、さらに研究を発展させる所存である。
著者
深尾 光洋
出版者
慶應義塾大学出版会
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.123-140, 2006-06

唐木圀和教授退任記念号 中国経済特集中国は1978年の改革開放政策の実施以降,従来の社会主義に基づく統制経済から市場経済に移行してきた。それに伴い,国内市場でも価格統制と配給制が徐々に廃止され,自由な国際貿易が可能となる経済に変貌してきた。1993年には国内における配給切符が全廃されたあと,1996年には国際的な経常取引に関する為替管理が撤廃され,財・サービスの国際取引が自由に行えるようになった。こうした中国の国際金融政策は,日本における敗戦直後の戦時統制から1964年の経常取引の自由化に至る動きと似た側面があるので,二国の経験を対比することで,中国の国際金融政策の展望を試みる。中国は90年代後半以降の経常収支黒字の定着と近年の外貨準備の急増に伴い,米国や日本から人民元の切り上げ圧力を受けるようになった。中国は資本取引については厳しい為替管理を行っているが,中国経済の国際化に伴って資本移動を押さえ込むことが困難になってきている。この結果,中国の外貨準備高は発展途上国としては異例のGDP 比40パーセント程度に達し,さらに増加を続けている。外貨準備を保有する中国人民銀行(中央銀行)は,外貨買い入れ代金の支払いによる金融緩和効果を打ち消すために,保有する人民元建て国債を大量に売却するとともに,自ら人民銀行債券を発行して資金を吸収している。しかし国内金融政策を国内均衡のために運営することと,固定相場制を維持することの両立が困難になりつつある。本稿では,日本における1970年代前半のインフレの原因は,変動相場制移行前後の日銀の金融政策運営の失敗にあることを指摘し,人民銀行はこうした失敗を繰り返すべきではなく,早期に固定相場制から変動相場制に移行すべきであると論ずる。