著者
吉野 直行 羽方 康恵
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.184-205, 2007 (Released:2022-07-15)
参考文献数
30

本稿は,戦後からの租税政策や租税体系の変化を踏まえ,税の所得弾力性の変化とそのマクロ経済への影響について実証分析を行う。まず第1節で,所得税・法人税改革を概観する。第2節で,本稿で用いる分析手法を説明する。そして第3.1節で,税の所得弾力性を構造方程式により計測する。その結果,ほとんどの税目において前期(1955~1979年)と比較し後期(1980~2004年)は所得弾力性の値が小さくなり,近年の税制改革を考慮すると,さらにその値は低下していることが明らかになる。第3.2・3節で,税収とマクロ変数との相互関係を,構造型VAR(SVAR)を用いて分析する。これにより変数間の時間的な効果のラグ関係を考慮することができる。税目により経済に与える影響や経路が異なるため,税収を主要税目(所得税・法人税・消費税)に分けて分析を行う。最後に第4節で,税の所得弾力性計測の結果をもとに,将来の税収のシミュレーション分析を行う。
著者
吉野 直行 深尾 光洋 池尾 和人 中島 隆信 津谷 典子 木村 福成 古田 和子 竹森 俊平 和気 洋子 嘉治 佐保子 友部 謙一
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特別推進研究(COE)
巻号頁・発行日
1999

1997年に発生したアジア通貨危機は、資本自由化・為替制度・コーポレートガバナンスなど、さまざまな問題に起因している。本研究では、最終年度において、通貨危機に対する各国の対応(資本流出規制)の効果について、理論的・実証的な分析を行い、輸出入依存度の高い経済においては、資本規制も短期的には有効であることが導出された。為替制度のあり方についても、日本の経験、通貨危機の影響を踏まえ、中国の(実質的な)固定相場制をどのように変更することが望ましいか、アジアの共通通貨のベネフィットに関する議論もまとめることが出来た。また、バブルを発生させた各国の銀行行動の分析では、(i)金融機関の数(オーバーバンキング)、(ii)担保価値への影響を与える地価の変動、(iii)経営能力とガバナンス、(iv)地域経済の疲弊などの要因を、クラスター分析で導出した。アジア各国への日系企業の進出では、工業団地の役割について、現地調査を含めた分析をまとめた。日系企業の進出の立地として、労働の質、市場としての魅力を背景とした立地が多いことも、調査により明らかとなった。日本からの企業進出は多いが、海外から日本国内への直接投資は非常に少ない。地価・賃料の高さ、労働賃金の高さ、通信コストの高さなど、アジアにおける日本の劣位も明らかにされた。歴史パートでは、人口成長率の違いが経済発展に与える効果を、タイ・日本について比較分析を行った。COE研究における5年間の研究成果は、海外との研究協力や、海外のジャーナルへの論文発表、国内・海外の学会での発表、国内外での書籍の出版などを通じて、発信することができた。こうした研究成果を基礎に、アジアとの結びつきが重視されている現状も踏まえ、さらに研究を発展させる所存である。
著者
根本 直子 吉野 直行 大久保 豊 稲葉 大明 柳澤 健太郎
出版者
日本ファイナンス学会 MPTフォーラム
雑誌
現代ファイナンス (ISSN:24334464)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.49-71, 2019-03-29 (Released:2019-03-31)
参考文献数
16

金融機関にとって中小企業向け融資は中核業務だが,信用力の判定が難しく,効率性も低いといった課題がある.金融機関の用いる内部格付け制度は,財務データの正確性が不十分であるといった限界が指摘されている.本稿は,従来の内部格付けには必ずしも十分に織り込まれていなかった入出金などの銀行の口座情報が,中小企業のデフォルト予測の精度に与える影響を検証した.本稿の分析により,従来の財務情報に基づくデフォルト推計モデルに銀行口座情報の指標を追加した場合,デフォルト予測の精度が高まることが実証された.特に,企業規模が小さい場合,改善幅が大きくなる傾向がみられる.また,財務モデルと銀行口座情報に基くモデルの示す信用力には相関関係があること,ケースによっては銀行口座情報のみを使用したモデルでもデフォルト推計の正確性は財務モデルと大きく変わらないことが実証された.銀行口座情報の活用が広がれば,銀行は信用コストを抑えるとともに,審査時間やコストを削減でき,中小企業向け融資の円滑化につながりうる.