著者
稲垣 善之 倉本 惠生 深田 英久
出版者
森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.103-112, 2010-09
被引用文献数
1

四国地域の標高の異なる2つのヒノキ林において、間伐区と対照区を設定し、落葉量の動態を5年間評価した(2002-2006年)。この地域には2004年に多くの台風が接近したが、この年の年間落葉量は台風前(2002-2003年)の1.17-2.25倍の値を示した。台風の影響は高標高域で低標高域よりも大きく、間伐区で対照区よりも大きかった。一方、台風後(2005-2006年)の年間落葉量は、台風前(2002-2003年)の1.05-1.41倍を示した。台風の影響は間伐林分で大きかったものの、台風後の回復は間伐区と対照区の間に差が認められなかった。高標高域では2004年の落葉時期(落葉が年間量の50%に達する時期)が早い傾向が認められた。一方、低標高域では2004年の落葉時期は変化せずに落葉期間(落葉が年間量の10%から50%に達するまでの期間)が長かった。この結果は、台風に対する落葉の反応が標高によって異なることを示す。すなわち、高標高域では、台風後直ちに落葉するが、低標高域では台風後にすぐには落葉せず、しばらく経過してから徐々に落葉した。これらの結果、ヒノキ人工林において台風後に落葉生産は速やかに回復しており、台風後に新しい葉の生産が急速に増加することが示唆された。
著者
深田 英久 渡辺 直史
出版者
高知県立森林技術センター
巻号頁・発行日
no.35, pp.1-10, 2010 (Released:2013-10-08)

電気牧柵で囲んだ試験地内にヒノキ苗木を植栽し、放牧区内にメスの土佐褐毛牛を2~4頭放牧して無放牧区との群落高の変化および下刈り時間、ススキなどの優占種別の下刈り効果を比較し、苗木の状況を調査した。また、高知県のニホンジカの生息密度が高い地域で電気牧柵の内外にスギ・ヒノキ苗木を植栽し、電気牧柵の有無、また土佐褐毛牛放牧によるシカ害軽減効果を調査した。下刈り省力化試験は、ススキが優占する造林地において顕著な効果がみられたが、放牧日数の増加とともに苗木の踏付けによる枯死が、また、牛の体重が放牧開始時に比べて減少し始めた頃から牛による苗木への食害が増加した。シカ害軽減効果試験は、傾斜の緩やかな試験区(傾斜10deg 程度)では、電気牧柵のみで被害を十分に防ぐことができなかったが、牛を放牧することでシカ害軽減効果が確認された。また、比較的傾斜が急な試験区(傾斜20deg 以上)では、電気牧柵のみを設置した試験区でもシカ害がほとんどみられず、放牧による軽減効果は不明確であった。
著者
深田 英久 徳久 潔 中西 麻美
出版者
高知県立森林技術センター
雑誌
高知県立森林技術センター研究報告 (ISSN:13486004)
巻号頁・発行日
no.39, pp.83-110, 2015-03

仁淀川上流域の標高640~910mの北向き斜面にあるスギ・ヒノキ人工林に調査プロットを設置し、間伐後概ね5年間の林分変化に伴う下層植生への影響を調査した。間伐前のRyはスギが0.82~1.00、ヒノキが0.69~0.96で、相対的にスギのRyが高かったが下層植生タイプの貧植生型を示す割合はスギが50%、ヒノキが100%であった。スギは材積間伐率が20%までの間伐によって貧植生および落葉木本型からより土壌保全効果の高い草本・地表植物型に移行したが、ヒノキは材積間伐率が20%以上必要であった。また材積間伐率が41%および45%のヒノキ間伐区では高木性広葉樹の樹高成長および植被率の増加がみられた。高知県内での間伐効果の持続期間を10年とした場合の材積間伐率はスギが15%程度、ヒノキが25%程度である。また、個体サイズのバラツキが大きい林分では下層間伐となることが多く、材積間伐率が本数比に比べて大きく低下する。現在、高知県の森林整備では概ね本数間伐率30%以上の間伐率とされているが、水土保全機能の増進または維持を目的とした場合は、ヒノキ林ではスギに比べて間伐強度を高く設定する必要性が考えられた。
著者
深田 英久 渡辺 直史 梶原 規弘 塚本 次郎
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.88, no.4, pp.231-239, 2006-08-01 (Released:2008-01-11)
参考文献数
26
被引用文献数
7 4

林分密度管理をヒノキ人工林における土壌保全目的での下層植生管理に応用するために, 高知県下のヒノキ人工林に28の調査プロットを設け, 下層植生に対する強度間伐の影響と, 通常の管理下での下層植生の動態を調べた。強度間伐試験地では設定後2~3年間の収量比数 (Ry) の推移と2~3年後の植被率を調べた。通常施業試験地では設定時を0年次として, 0, 5, 10~13年次のRyと植被率を調べた。その際, 調査プロットの海抜高 (温量指数) に基づいて三つの温度域 (ウラジロ・コシダ域, カシ域, 落葉樹域) を区別し, 植被率を6段階評価した被度指数を土壌侵食抑制効果と光要求度の異なる六つの生活型 (ウラジロ・コシダ, 陽性草本, 林床草本・地表植物, 常緑木本, 落葉木本, ササ) のおのおのについて別個に求めた。強度間伐が被度指数に及ぼす影響は生活型によって異なった。また, 同じ生活型でも温度域によって異なる反応を示すものがあった。通常施業試験地では調査期間を前期 (0→5年次) と後期 (5→10~13年次) に分け, 期間ごとに求めた各生活型の被度指数の期間変化量 (dC) とRyの期間累積偏差 (ΣdRy×100) との関係を調べた。両者の関係には生活型間での差や, 温度域間での差が認められた。また, 生活型別の被度指数の合計値が40未満の林分 (貧植生型林分) と40以上の林分を区別すると, dC とΣdRy×100との関係が両林分間で異なっていた。以上の結果に基づいて, 生活型, 温度域, 貧植生型林分か否か, を区別してRy-植被率関係のデータを集積することにより, 下層植生管理を目的とした密度管理モデルの実用性が高められることを指摘した。
著者
中西 麻美 稲垣 善之 深田 英久 渡辺 直史
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第127回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.113, 2016-07-08 (Released:2016-07-19)

樹木の成長は土壌中の窒素や水分などの資源量と資源利用効率に影響を受ける。葉の窒素濃度は窒素吸収量の指標として、葉の炭素安定同位体比(δ13C)は水分利用効率の指標として用いられている。これらの指標を用いて窒素利用と水分利用がヒノキの成長量に及ぼす影響を高知県内の林齢28~73年のヒノキ人工林30林分で評価した。葉の窒素濃度は7.8~12.3mg/g、δ13Cは-28.4~-26.2‰を示した。窒素濃度とδ13Cには有意な関係は認められず、窒素濃度が高く、光合成活性が高い条件でδ13Cが増加する傾向は認められなかった。樹高成長量は0.08~0.53m/年、材積成長量は1.4~11.0Mg/ha/年を示した。林齢と窒素濃度を説明変数として成長量を予測する重回帰モデルでは、林齢が若く、生葉窒素濃度が高い林分ほど樹高および材積成長量が大きい傾向を示した。これらの重回帰モデルで、樹高成長量では53%、材積成長量では30%を説明できた。δ13Cと樹高や材積成長量には有意な傾向は認められなかった。したがって、高知県におけるヒノキの成長には窒素資源が重要であり、水分資源の制限は小さいことが示唆された。
著者
稲垣 善之 深田 英久 倉本 惠生 三浦 覚
出版者
応用森林学会
雑誌
森林応用研究 (ISSN:13429493)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.69-75, 2005-10-31

高知県の3地域(高知,大豊,津野)のヒノキ8林分において,落葉の季節性と窒素利用様式の関係を明らかにした。落葉が年間量の10%に達する開始時期(T_<10>)は,9月7日〜10月22日,50%に達する落葉時期(T_<50>)は,10月25日〜1月3日,10%から90%に達するまでの期間は30〜189日であった。これらのヒノキ林分における年平均気温は9.6〜16.7℃であったが,年平均気温と落葉の季節性には有意な相関関係はみられなかった。一方,T_<10>とリターフォールの窒素濃度には有意な負の相関関係がみられた。窒素の資源の乏しい環境では,ヒノキは長い間葉をつけるため生育期間が長くなると考えられた。T_<50>は樹高成長の指標が小さいほど早い傾向がみられた。樹高成長の小さい林分では水分ストレスが強いために落葉時期が早いと考えられた。以上の結果,ヒノキの落葉は水分ストレスが強いほど早く,窒素欠乏によって遅くなる傾向が示唆された。