著者
坂田 完三 水谷 正治 清水 文一
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

東方美人茶(Oriental Beauty)はチャノミドリヒメヨコバイ(Jacobiasca formosana,通称ウンカ)に吸汁されたチャ葉から作られる香り豊かな烏龍茶である。この高級烏龍茶の製法の秘密の解明を目指し、天然物化学と酵素・遺伝子の両面から研究を進め、下記の成果を得た。1)本烏龍茶製造時のウンカの関与の詳細な実態調査を行い、実際にウンカの加害チャ葉が使用されていることを確認した。2)ウンカ食害有りと無しのチャ葉からそれぞれ烏龍茶を製造し、製造工程の各段階においてサンプリングを行い、官能検査、香気分析を行った。そして、加害葉から作られた茶は遙かに香気の豊かなものであることを確認した。さらにこの茶の香気特性も明らかにし、hotrienolおよび関連化合物の2,6-dimethyl-3,7-octadiene-2,6-diolはウンカ加害だけでも生成していることが明らかとなった。3)ウンカ加害および製造工程で誘導される遺伝子をMegasort法によるディファレンシャルスクリーニングにより網羅的に取得した。ウンカ加害および製造工程でのストレスにより非常に多くの遺伝子の発現が変動していることが明らかになり、その中にはストレス応答遺伝子が多数同定された。4)それらのうち、ストレス応答物質であるraffinoseやabscisic acidの生合成に関わる遺伝子に着目した。これらの遺伝子の発現量は製造工程中最初の日光萎凋で急激に増加した。それらの化合物の消長を明らかにするためHPLCにより定量的分析を行ったところ、これらは日光萎凋の段階で急激に増加することを確認した。以上のように本課題により、東方美人茶の香気特性を明らかにし、ウンカ吸汁および製造工程での様々なストレスにチャ葉が防御応答した結果、東方美人茶は香り高い茶となっていることを明らかにした。
著者
水谷 正治 坂田 完三 清水 文一 木下 朋美 水谷 正治
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

調査研究には、Tocklai Tea Experimental Station(TTES)の母体であるインドTea Research Association(TRA)の全面的協力が得られることとなり、2年間の共同研究契約を締結し、調査研究を下記のように実施した。1)ダージリン高級紅茶“Second flash"の実態調査06年5月末、日本側から3名の研究者がアッサム地方トクライにあるTTBSとダージリンを訪ね実態調査を行った。インド側2人の研究者とともにダージリンの代表的茶園を順次訪ねて、虫害の状況と製茶状況を視察した。また、2カ所の茶園では“Second flash"製造時の各製造段階でのサンプルの採取を行った。ダージリンではヨコバイ(英名:jassid(green fly):Empoasca flavescens Fabr.)の他にアザミウマ(英名: thrips: Taeniothrips setiventris Bagnall)の食害が多かった。いずれの虫害がダージリン茶の香気形成に重要かを明らかにする必要がある。07年6月、日本側から3名の研究者がTTESを訪問し調査研究を行った。ヨコバイとアザミウマを実験室で飼育できるよう指導し人工飼育に成功した。人工飼育した虫を用いて実験室レベルでチャ葉に虫害を与え、それを材料にして香気分析を行なうようインド側研究者に指導した。2)虫害チャ葉から作られる“Second flash"特有香気生成機構の解明06年にダージリン茶園試料をGC-MS香気分析に供した結果、台湾の東方美人の場合と同様に、ダージリン紅茶でもhotrienolなどのモノテルペンアルコールの生成に虫害が密接に関与していることが示唆された。07年にTTESにて人工飼育したヨコバイおよびアザミウマを用いた加害試験を行った結果、“Second flash"紅茶特有の香気生成には虫害の関与が大きいことが明らかとなった。また、日本のやぶきた種茶園にて採集した農薬処理を行ったチャ葉と虫害を受けたチャ葉とで香気成分を比較し、diolの生成にはヨコバイ吸汁刺激が引き金になっていることが示唆された。3)新しい簡易紅茶製造法開発に向けた調査研究高品質な紅茶を簡便に製造するための新しい技術として、烏龍茶の製造技術を応用することをTTESの研究者に指導し、TTESにてパイロット機器を用いた製茶を行った。萎凋工程および撹拌工程の追加改良により、紅茶香気の改善が期待された。