- 著者
-
渡辺 守之
三浦 雅彦
茂田 洋史
- 出版者
- Japan Poultry Science Association
- 雑誌
- 日本家禽学会誌 (ISSN:00290254)
- 巻号頁・発行日
- vol.7, no.1, pp.23-29, 1970-01-25 (Released:2008-11-12)
- 参考文献数
- 29
これまで著者らの行なって来た Dry ice alcohol および液体窒素 (LN2) による鶏精液の凍結保存においてはすでに報告した如く, 融解後かなり活発な運動力を示しているにもかかわらずその受精率は30%を越えず, 融解後の精子を顕微鏡下で詳細に観察すれば頸曲り現象を呈するものが非常に多いことがわかった。凍結過程において生ずると思われるこれら頸曲りを含む異常精子を少なくすることが受精率向上の一因と考えられるので, 若し鶏精子にDE SILVA (1961), 突永 (1968) らの報告している如く採取直後約15分間は温度の急激な変化にあってもショックを受けにくい前段の時期所謂 pre-shocking があるとすれば, この時期に凍結処理操作を完了することが必要であり, さらに渡辺 (1966) の成績ではグリセリン平衡時間は15分間の場合に64.2%と最高の蘇生率を示していることから, ここに以下のような新急速凍結法による保存試験を試みた。方法: 精液の採取に使用した雄鶏は7内至9ケ月令のWhite Leghorn 種の若雄5羽で, 採取法は山根ら (1962) の腹部マッサージ法により朝7時から8時の間に行なった。採取精液は直ちに含グリセリン7%稀釈液Aで4倍に稀釈して5°Cに15分間保持し, この間にストロー管に移して同管の閉封も行なう。その後LN2気化蒸気中に2分間予凍した後LN2中に浸漬して凍結を完了する。すなわち採精より凍結完了まで約17分間で処理完了するようにした。かような新急速凍結法と従来の旧凍結法により7日から62日間にわたる6回の凍結試験後それぞれ各サンプルを融解してその活力, 頸曲りを含む異常精子の出現状況につき500ケの精子について算定した。さらにこの新急速凍結法によって35日から95日間にわたって保存した精液を用いて授精実験を実施した。人工授精に使用した雌鶏は9内至10ケ月令の産卵成績良好な White Leghorn 種11羽である。結果: 上述の実験結果は次の如く要約される。1) 精液採取から凍結完了までわずか17分で完了する新急速凍結法によって7, 41, 46, 55及び62日間凍結した精子の融解後の平均活力は88.3%で, これは同じ操作を完了するのに約87分もかかった従来の方法により同期間凍結した精子の融解後の平均活力80.7%にくらべるとより活発である。2) 上述の融解精子の実験で本急速凍結法による neck-bending spermatozoa の平均出現率は14.9%で従来の凍結法による平均出現率29.0%にくらべると明らかな差異が認められた。3) 本法による1週目受精率は60.0%で従来の凍結法による30%以下の受精成績にくらべると飛躍的な向上を示し人工授精への実用化が期待される。4) 本法による受精卵の持続日数は平均6日, 最長10日であった。