- 著者
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豊口 禎子
仲川 義人
渡辺 皓
- 出版者
- 公益社団法人 日本薬理学会
- 雑誌
- 日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
- 巻号頁・発行日
- vol.107, no.2, pp.53-66, 1996 (Released:2007-02-06)
- 参考文献数
- 36
- 被引用文献数
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MRSA感染症治療薬である塩酸バンコマイシン(VCM)の腎における薬物相互作用を検討した.VCMはグラム陽性菌に抗菌作用を有し,混合感染発症患者ではグラム陰性菌にも有効な抗生物質,特にイミペネム(IPM)―シラスタチンナトリウム(CS)合剤などと併用されることがある.VCM,IPMは腎障害を惹起する作用を有しているが,CSはIPMの腎障害を抑制する作用を有することから,IPMに配合されている.そこで,これら3つの薬物の腎における相互作用を明らかにすべく,家兎を用い,VCMの腎障害,体内動態をIPM-CS併用時,CS併用時と比較検討した.家兎にVCM300mg/kg静注時に血清クレアチニン,BUN,組織学的変化等の明らかな腎障害がみられたが,CS300mg/kg併用時,IPM300mg/kg-CS300mg/kg併用時,IPM150mg/kg-CS150mg/kg併用時には臨床検査値の異常はみられず,組織学的にも変化はほとんど認められなかった.また,VCM体内動態に関しても,VCM単独投与時に比べ,CS併用時またはIPM―CS併用時には明らかにVCMクリアランスの増加がみられ,尿中VCM排泄率も増加した.さらに,家兎腎皮質スライス取り込み実験を行ったところ,VCMが能動的に腎皮質に取り込まれることが示唆された.また,CSの併用により腎皮質スライスへのVCMの取り込み抑制効果傾向がみられ,CS併用時の腎障害抑制効果には,CSによるVCMの腎細胞への取り込み抑制作用が関与している可能性が考えられた.