著者
高橋 有里
雑誌
岩手県立大学看護学部紀要 = Journal of the Faculty of Nursing, Iwate Prefectural University (ISSN:13449745)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.31-41, 2007-01-01

本研究の目的は,乳児の母親の育児ストレス状況とその関連要因を明らかにすることである.対象は,岩手の2村に住む乳児の母親199人である.6つの尺度,育児ストレス,対児感情,母性意識,夫との関係性のストレス,特性不安,そして特性怒りについて調査した.その結果,育児ストレスは,パーソナリティとしての不安になりやすさをベースに,夫との関係性のストレスや子どもへの否定的感情,母親役割の非受容感が影響していた.しかし,怒りやすさや子どもに対する肯定的感情は影響していなかった.乳児期の育児ストレスは怒りよりも不安や抑うつ感が主となっていると考えられた.また子どもに対して肯定的感情を持っていても育児ストレスが低いとは言えないことが明らかとなった.また出産直後からの人的支援は子どもの肯定的受容を促進すると考えられるが,それだけでは育児ストレス軽減には充分ではないことが分かった.また,生後6ヵ月頃からの子どもの発達の特徴は,母親の育児困難感を高める要因となり乳児期の育児ストレスに影響していると推測された.さらに,専業主婦や働いている母親よりも産休中・育休中の母親のほうが積極的・肯定的な母性意識が低く,逆に消極的・否定的な母性意識が高く,子どもに関連した育児ストレスが高いことが明らかとなり,産休・育休中の母親への支援が重要であると考えられた.
著者
田辺 有理子
出版者
岩手県立大学看護学部
雑誌
岩手県立大学看護学部紀要 (ISSN:13449745)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.9-22, 2008

本稿では,岩手県の精神障害者の処遇に関する歴史の一部として,1903(明治36)年から1941(昭和16)年の監置の動向を明らかにした監置に関する資料に,『岩手県警察統計書』および『府県統計書岩手県』を用いた.また,同時期の岩手県内の精神科医療に関する論文,警察資料,新聞などを用い,全国調査や法律に照らして岩手県の監置の特徴を検討した.各年末の監置者数は43人から170人,男性が多かった.精神病者監護法における監置は一生解かれないという一般的な認識とは異なり,一度監置されても監置を解かれる人数が死亡の人数よりも多かった.監置場所は,私宅監置が最も多かったが,他に精神科病院や精神病者収容所が用いられた.また,岩手県の精神科病院開設は1932(昭和7)年で,他県に比べて遅れていたため,一部の精神障害者は県外の精神科病院や,病院の機能を持たない精神病者収容所に監置された岩手県の精神障害者の多くは治療を受けられないまま,都市部から離れた地方且つ厳寒の過酷な環境で,私宅監置を余儀なくされた.しかし,岩手県取締規則や新聞記事から,当時の処遇は保安だけでなく人権擁護の姿勢があったと推察された.
著者
高橋 有里
出版者
岩手県立大学看護学部
雑誌
岩手県立大学看護学部紀要 (ISSN:13449745)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.31-41, 2007
被引用文献数
6

本研究の目的は,乳児の母親の育児ストレス状況とその関連要因を明らかにすることである.対象は,岩手の2村に住む乳児の母親199人である.6つの尺度,育児ストレス,対児感情,母性意識,夫との関係性のストレス,特性不安,そして特性怒りについて調査した.その結果,育児ストレスは,パーソナリティとしての不安になりやすさをベースに,夫との関係性のストレスや子どもへの否定的感情,母親役割の非受容感が影響していた.しかし,怒りやすさや子どもに対する肯定的感情は影響していなかった.乳児期の育児ストレスは怒りよりも不安や抑うつ感が主となっていると考えられた.また子どもに対して肯定的感情を持っていても育児ストレスが低いとは言えないことが明らかとなった.また出産直後からの人的支援は子どもの肯定的受容を促進すると考えられるが,それだけでは育児ストレス軽減には充分ではないことが分かった.また,生後6ヵ月頃からの子どもの発達の特徴は,母親の育児困難感を高める要因となり乳児期の育児ストレスに影響していると推測された.さらに,専業主婦や働いている母親よりも産休中・育休中の母親のほうが積極的・肯定的な母性意識が低く,逆に消極的・否定的な母性意識が高く,子どもに関連した育児ストレスが高いことが明らかとなり,産休・育休中の母親への支援が重要であると考えられた.
著者
藤村 由希子 安藤 広子
出版者
岩手県立大学
雑誌
岩手県立大学看護学部紀要 (ISSN:13449745)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.83-91, 2004-03
被引用文献数
6

岩手県内における死産,早期新生児死亡における助産師・看護師の対応の現状について把握し今後のケアの検討資料とすることを目的に実態調査を行なった.24施設で勤務する助産師・看護師を対象に割り当て抽出法により質間紙を205部郵送し,178名から有効回答を得た (有効回答率86.8%).調査期間は2003年3-4月であった.調査対象者の年齢は30代が61名(34.2%)と最も多く,臨床経験年数は15.9(±8.7)年であった.児が亡くなった場合スタッフ間で毎回カンファレンスを行っているのは57名(32.0%)であった.亡くなった児の写真や足形などの遺品を渡しているのは28名(15.7%)であった.亡くなった児と母親との面会を積極的にすすめていろのは47名(26.4%),父親との面会を積極的にすすめているのは86名(48.3%)であった.退院後に何らかのケアを行っているのは54名(30.4%)であった.児を亡くした母親や家族と接する時に「悩んだことがある」は156名(87.6%)で,言葉かけや態度などについで悩んでいた.亡くなった児との面会は母親よりも父親の決定に委ねられていることや退院後のケアが行われていないことから,母親およびその家族への対応についての検討が必要である.また看護職者の多くがケアへの戸惑いや悩みを抱えているにもかかわらず,カンファレンスも少ないことから,今後のケアのあり方として,スタッフ間での情報や知識の共有の機会が必要である.
著者
高橋 有里
雑誌
岩手県立大学看護学部紀要 = Journal of the Faculty of Nursing, Iwate Prefectural University (ISSN:13449745)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.29-36, 2014-03-01

本研究の目的は,皮下注射および筋肉内注射の副反応に関する書籍・研究論文における記載内容について概観し,本邦において皮下注射・筋肉内注射の副反応としての硬結がどのように捉えられているのか,また,硬結に関する研究の動向を明らかにすることである.医学辞典,看護学辞典,病理学および皮膚科学の専門書,治療指針等の専門書,医学中央雑誌web 版で「硬結」「注射部位」をkeyword として検索した研究論文を対象とした.その結果,辞典では「硬結」がどの組織のどのような具体的変化なのか記載が曖昧なものが多く,注射後の硬結については,皮膚科学書の1冊に「注射後脂肪組織炎」と紹介されているのみで,病理学書にも病理学的な説明はなかった.研究論文は2005 年以降に増えているが,硬結の定義がされていたものはなかった.症例報告にあった硬結は,薬剤の使用開始直後から数年経過後など発生時期は様々であった.硬結発生部位への注射回数は記載のなかったものが多く,詳細は明らかでない.また,硬結は,大きいものでは10cm大にもなり,疼痛,潰瘍の形成など,重症化していた.
著者
蛎崎 奈津子 安藤 明子 安藤 広子 角川 志穂 遊田 由希子 野口 恭子 福島 裕子 石井 トク
出版者
岩手県立大学看護学部
雑誌
岩手県立大学看護学部紀要 = Journal of the Faculty of Nursing, Iwate Prefectural University (ISSN:13449745)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.65-76, 2007-01-01
被引用文献数
1

本研究の目的は,ケアの受け手である妊産婦を対象に,私たち助産師に対する認知状況や役割期待を明らかにし,課題を把握することである.自記式質問紙調査票を用い,産後1か月健診を受診した褥婦959名を対象とした実態調査を行った.その結果378名(回収率39.4%)の回答を得,以下3点の課題が見いだされた.1.岩手県の地域特性については,義父母または実父母と同居している者は約3割ほどであるものの,親世代が同じ市町村,近隣の市町村など距離的に近い場所に居住して者の割合が高かった.通院に関しては,9割以上の者が自家用車を利用していた.所要時間の平均は34.1分であり,病院選択時に困惑した経験を持つ者は95名(25.1%)であった.2.助産師の認知状況については,90%以上の者が認知していた.しかし,「自分が出産した病院に『助産師』がいた」と回答した者に対し,その理由をたずねた結果では,「助産師から名乗りを受けた」と直接的に認知した者は3割にも満たず,多くは「名札をみた」,「掲示板をみた」など間接的な認知状況であった.業務内容の認知については「出産」,「産後の母子のケア」についての認知が高く,妊娠期~産褥期・新生児期に各時期における健康診断に関する項目の認知が低かった.3.助産師の役割期待として,妊娠期では「超音波写真など思い出品がほしい」,「児の世話についての指導」,「不安や訴えをゆっくり聞いてほしい」など,今後の助産師外来開設の広がりにより改善できる項目が多かった.分娩時には,「好きな姿勢で出産したい」,「自宅分娩をしたい」といった主体的な出産に対するケア内容よりも「いきみののがし方を教えてほしい」,「そばに付き添っていてほしい」といったスタンダードなケアを求める声が多かった.また産褥期には「児の健康状態の判断方法の説明」,「児の健診や予防接種に関する説明」,「母乳栄養支援」など退院後の生活を見通した支援内容の期待が高かった.A study was conducted to clarify the qualities recognized, and those expected, of a midwife using a questionnaire distributed to 959 women after childbirth in Iwate Prefecture. Responses were obtained from 378 of these women, and the data obtained revealed the following. 1. About 30% of the surveyed women were cohabiting with their parents, or living within a short distance from them. At least 90% of the women went regularly to hospital by car, taking an average of 34.1 minutes. Ninety-five (25.1%) of the women had a trouble when they chose the hospital. 2. At least 90% of the surveyed women recognized the role of a midwife, although the role was considered to be an indirect one by the majority. A high proportion of the women recognized that the midwife's role was valuable with regard to "Birth" and "Care after childbirth", whereas only a low proportion recognized a midwife's role in diagnosis. 3. With regard to expectations of a midwife, some items during the pregnancy period were considered to have been enhanced by the midwife's care. A large proportion of women requested the need for set standards of care at the time of delivery. After childbirth, many aspects of after-care after discharge from hospital were considered to require midwife support.
著者
千田 睦美 水野 敏子
出版者
岩手県立大学
雑誌
岩手県立大学看護学部紀要 (ISSN:13449745)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.11-17, 2014-03

目的:本研究の目的は,認知症高齢者の看護を実践する場面における困難について明らかにすることである.方法:認知症高齢者の看護を行っている看護師26 名に半構成的面接を行い,得られたデータを質的帰納的に分析した.結果:認知症高齢者を看護する看護師の困難は,29 のサブカテゴリーから,【認知症の症状への対応】【認知・コミュニケーション障害】【患者の自律性と看護の両立】【患者同士の関係性】【患者の症状・状態の理解】【看護方針と看護の継続】の6 カテゴリーとして表された.特に,BPSD に関連した困難の内容が目立った.結論:認知症の症状に関連する困難,患者と看護師のかかわりに関連する困難,認知症患者への看護に関連する困難という,認知症看護に特有の困難が抽出された.今後は早急に認知症の理解と看護方法の模索,看護態勢の充実など,困難を乗り越える取り組みを検討する必要性が示唆された.
著者
木内 千晶 吉田 千鶴子 Chiaki KINOUCHI Chizuko YOSHIDA
出版者
岩手県立大学看護学部
雑誌
岩手県立大学看護学部紀要 = Journal of the Faculty of Nursing, Iwate Prefectural University (ISSN:13449745)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.77-82, 2004-03-01

高齢者の終末期を考えていく上では,その主体となる高齢者自身が,終末期に対し,どのような考えをもっているのか,実態を把握することが大変重要であり不可欠である.今回,M市老人クラブの,自宅で生活する高齢者を対象に,自由記述により終末期の迎え方に対する希望を調査した.284名,平均年齢74.6歳 (SD=5.41) より有効回答を得た.記述内容を意味の共通性に従いカテゴリー化し「(1)死に方の希望」「(2)死ぬ時の身体的,精神的状態の希望」「(3)死ぬ時の環境・状況の希望」「(4)死ぬまでの身体的状態の希望」「(5)死ぬまでの生活・生き方の希望」「(6)死後の希望」の6つのサブカテゴリーに分類できた.さらに,「1.死ぬ時に関する希望」「2.死ぬまでに関する希望」「3.死後に関する希望」の3つのカテゴリーに分類できた.希望の内容は,死ぬ時のことに限らず,現在から死後のことに及んでおり,高齢者の終末期のとらえ方は個人により異なることが明らかになった.また,終末期の希望に現在のことが含まれていたことから,死ぬ時だけでなく,死を迎える以前の生活や生き方もケアすることが重要であると示唆された.一方,希望は抱いていても,それを,他者に伝えている高齢者は少ないことが明らかとなり,高齢者の希望を尊重するためには,終末期に対する考えや希望を表出できるように援助する必要があると考えられた.When considering the elderly's period of life immediately before death, it is important, if not essential, to grasp how the elderly themselves actually feel. We surveyed members of a senior citizens club in M City on elderly people who live in their own home and about they wanted to see out the last days of their lives. We received 284 valid responses, with an average respondent age of 74.6 (standard deviation of 5.41 years). We were able to categorize the responses of the free form survey into the following subcategories: (1) Preferred way of dying; (2) Preferred symptoms and emotions at death; (3) Preferred environment and circumstances at death; (4) Preferred physical condition up until death; (5) Preferred lifestyle up until death; and (6) Posthumous preferences. These six subcategories were further classified into the following three categories: 1. Preferences up until death; 2. Preferences at death; and 3. Preferences after death. Their preferences were not limited to just at death, but rather extended from the present to after death, and it became apparent that the way they saw this final chapter of their lives depended on the individual. Their preferences for this end-of-life period included current events.This indicates that it is important to care about how the elderly live during the lead up to death, not just at death. It is apparent that even if they have preferences, those that share their views with others are few and far between. Accordingly, to respect the wishes of the elderly, we need to support them in venting their thoughts and hopes in this lead up to death.
著者
安保 寛明
出版者
岩手県立大学
雑誌
岩手県立大学看護学部紀要 (ISSN:13449745)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.135-143, 2004-03
被引用文献数
2

近年,わが国でも精神障害者に村する治療的介入の評価指標として生活の質 (Quality of Life: QOL) が注目されている.本論文は,本邦におけるQOL介入研究の傾向を概観すると共に,地域に暮らす精神障害者のQOL向上を評価対象とした海外の研究動向を概観し,QOLに対する介入研究の一助となる事を目的とするものである.精神障害者に対する地域での支援体制は国によって大きな違いがあるため,系統的レビューではなく介入方法などにより研究結果を分類し俯瞰した.結果,地域に暮らす精神障害者のQOLの向上には,支援サービスへの満足度と生活への不安 (陰性症状と関連) が強く影響することが示唆された.また,生活技能訓練などの心理社会的支援が精神障害者のQOL向上に寄与することが示唆された.一方で, QOLの向上は必ずしも再入院の抑止には関連しかいことも示唆された.今後は,地域に暮らす精神障害者支援のアウトカム尺度として再入院率とQOLを重視し,サービス満足度や不安とともに調査することが望ましいと考えられる.