著者
内田 直 宝田 雄大 渡邉 丈夫 宮崎 真 宝田 雄大 後藤 一成 関口 浩文 宮崎 真
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

近年、国民の健康に対する関心の高まりとともに身体運動への関心も高まっている。しかしながら、このような関心は、身体的な健康が主体となっている。一方で、精神的なあるいは脳の健康も同様に重要であることは疑い。このような、精神的なあるいは脳の健康と、これに対する身体運動の効果についての研究は、いまだ十分に行われているとはいえない。本研究では、身体運動と精神活動あるいは脳活動の関連について焦点をあて、これについて健康科学的な側面から実証的な研究を行った。このような研究は、身体活動と身体の健康に関連した研究に比べると新しいものであり、今後うつ病や認知症予防のための運動療法としての活動につながるものである。研究は、以下の5つのテーマ(方法)によって行った。すなわち(1)身体運動が睡眠に及ぼす影響について、(2).睡眠中の代謝活動についての予備的研究、(3)朝行う身体運動が、その後の認知機能に及ぼす影響について、(4)身体運動と児童の発達の関連について、(5)観察学習の効果とスキルの転移、である。(1) 身体運動が睡眠に及ぼす影響については、二つの実験を行った。昼寝により人工的に作成した不眠状態への運動の影響をみたが、これは大きな影響が観察されなかった。次に睡眠直前に高強度の運動を行わせ、これが睡眠にどのような影響を及ぼすのかを観察した。これまでの研究では、ストレス反応により睡眠が悪化すると言う説があったが、我々の研究では変化無く、悪化は無かった。しかしながら、睡眠中の体温が睡眠中期で運動後運動しないときよりも有意に高いという興味深い結果が得られた。(2) はヒューマンカロリーメータを用いた睡眠中の代謝の連続測定と言う新しい分野の研究であり、今後運動後の代謝の変化など興味がもたれた。(3) 朝の運動については、日常的に行われる健康運動と似たパタンであるが、これが日中の活動にどのように影響を及ぼすのかを見た。しかしながら、結果としては一過性の効果は認められたが、一日の中での変化は無かった。このような運動を習慣的にした場合の影響が今後の課題として残った。(4) 小学生を対象とした研究のまとめが一部完成した段階である。現状では、認知機能のうち、判別と抑制の発達パタンが小学生年代では異なっている可能性が示唆された。(5) 観察学習は、運動学習の一部であるが、観察学習により獲得された手続き記憶は、必ずしも転移しないことが示唆される結果であった。全体として基礎研究と応用研究の両方から成果が得られ、身体運動が脳と心に及ぼす効果の解明と健康科学への応用についての業績がえられた。期間は終了しているが、この結果を国際論文として発表している作業を持続して行っている。
著者
内田 直 堀野 博幸 矢島 忠明 泰羅 雅登 渡邉 丈夫 宮崎 真
出版者
早稲田大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

成果をまとめる。○スポーツに使われる脳機能を形態学的研究により行った。この研究は、機能的に発達した皮質の部位が肥大することを根拠に、皮質各部位の大きさを比較する研究である。この研究からは、バレーボール選手では両側楔部・楔前部の灰白質が大きいことが示された。これは視空間的注意・処理、運動技能を、長期間に渡って獲得・反復することに適応して生じた構造の変化を表していると考えられた。○手足の屈伸運動を運動習熟者、非習熟者にfMRI撮影中に行わせ、脳の賦活部位を調べた。その結果、補足運動野、運動前野などの皮質部位は非習熟者で、大脳基底核は習熟者でより賦活が見られ、日常的運動でも習熟者では運動学習が進んだ脳機能を用いていることが想像された。○Go/No-Go課題によるソフトボール選手と非アスリートの脳機能の比較では、ソフトボール選手でNo-Go課題の際に両側前頭前野の賦活が有意に強く見られた。これは、ソフトボール選手ではより強い運動の抑制があるということを示しており、実際のバッティングの場面でも、より強い抑制が選球に関連している可能性を示唆していた。○サッカーなどでは、しばしば2次元⇔3次元の認知的置き換えを行っている。このような置き換えに使われる脳機能について明らかにした。コンピュータグラフィックスを用い円筒の配置を2次元⇔3次元で置き換える課題を用いた。これにより、3D→2Dでは上頭頂小葉、下頭頂小葉、前頭前野、右海馬傍回、左小脳後葉の賦活が見られた。2D→3Dにおいて、上頭頂小葉、下頭頂小葉、前頭前野、右海馬傍回、左小脳後葉の賦活が見られた。以上、多くの成果を得たが、今後さらに競技スポーツだけでなく健康スポーツという視点からも、運動と脳機能の関連についての研究を発展させてゆきたいと考えている。