著者
渡邊 正孝
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.1-8, 2016-03-31 (Released:2017-04-03)
参考文献数
25
被引用文献数
3 1

高次機能の中枢としてヒトで最も発達した前頭連合野は, 外側部, 内側部, 腹側 (眼窩) 部に区分される。外側部は行動の認知・実行制御, 内側部は心の理論・社会行動, 腹側部は行動の情動・動機づけ制御, に重要な役割を果たす。また前頭連合野内でより前方の部位はより抽象的かつ高次な情報処理を担う。前頭連合野の腹内側部 (内側部と腹側部の前部) は, 情動・動機づけに基づく意思決定に関わる。前頭連合野の最前部 (前頭極) の特に外側部はヒトに特有な脳部位であり, 複雑, 抽象的な認知操作に重要な役割を果たす。サルを用いた私たちの研究において, (1) 競争における勝ち負けを捉えるような社会行動に関係する前頭連合野ニューロンがあること, (2) PET で調べると, 前頭連合野内側部において, 安静時に活動性が増すこと, (3) 前頭連合野ドーパミンは認知課題遂行中に比して安静時に前頭連合野外側部では減少し, 内側部では増加すること, が示された。
著者
渡邊 正孝
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.5-17, 2013-04-30 (Released:2014-01-07)
参考文献数
47

安静時には認知課題遂行時より大きな活動を示す脳部位がある。“デフォルト脳部位”と呼ばれるもので,主に大脳内側部に位置する前頭連合野内側部,前帯状皮質,後帯状皮質,楔前部などの部位からなる。デフォルト脳活動は“内的思考過程”に関係していると考えられており,それは言語的になされると考えられることから,デフォルト脳活動は動物にはないと考えられてきた。しかし最近の研究では,チンパンジー,サル,ラットにもデフォルト脳活動が認められ,動物にも言語を介さない原初的な内的思考過程があるのではないかとも考えられる。最近は社会性認知,社会性行動を支える社会脳に注目されているが,デフォルト脳部位と社会脳は大きくオーバーラップしていることがヒトでも動物でも示されており,デフォルト脳活動の機能的意義は,社会性認知,社会性行動に関わる内的思考を担うことにあるのではないか,と考えられている。
著者
筒井 健一郎 渡邊 正孝
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.5-16, 2008-04-30 (Released:2012-11-27)
参考文献数
43
被引用文献数
3

本論文では, 脳内の報酬系にかかわる最新の知見を取り上げてレビューする。黒質緻密部 (SNc) および腹側被蓋野 (VTA) のドーパミン細胞は, 側坐核, 背側線条体, 辺縁系, および前頭連合野など, さまざまな報酬関連領域に軸索を投射しており, 報酬の脳内表現に重要な役割をはたしている。ドーパミン細胞が報酬の予測誤差の検出に関わっているのに対して, 側坐核や辺縁系に属する複数の脳領域は, 報酬から快感や喜びを生じさせることに関わっている。背側線条体は, 特定の刺激や行為の価値を学習することに関わっており, パブロフ型および道具的条件づけの成立に重要な役割を果たしている。前頭連合野は, 行為を実行したり将来の行動を組織化したりするための動機づけの支えとなる, 短期および長期の報酬期待に関わっている。また, 行動選択肢の評価, 行おうとする行為の検討や, 行為の結果のモニタリングなどに関わることにより, 報酬情報に基づいた意思決定に重要な役割を果たしている。
著者
渡邊 正孝
出版者
日本動物心理学会
雑誌
動物心理学研究 (ISSN:09168419)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.131-139, 2011 (Released:2011-12-19)
参考文献数
20
被引用文献数
1

Recent human neuroimaging studies indicate that by using fMRI we can “see” what people are thinking. In animals, we can more accurately see what the animal has in mind by using invasive methods that cannot be used in human subjects. Here I introduce experimental studies where single neuronal activities were examined in the monkey prefrontal cortex in relation to working memory and reward expectancy. We found that by monitoring the neuronal activity while the animal is waiting for the next event, we can see what the monkey is retaining or expecting in mind. Human neuroimaging studies have well documented “default mode of brain activity”, which is higher activity during the resting state than during cognitively demanding task, and is concerned with internal thought processes, in the medial prefrontal and medial parietal areas. In our PET study, we also found higher activity during rest in these medial cortical areas of the monkey. The result suggests that there are primitive-level internal thought processes in the monkey.