著者
國島 正彦 小澤 一雅 渡邊 法美 野城 智也 吉田 恒昭
出版者
東京大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

本年度は、工事入札契約制度と安全管理の調査研究に焦点を当て、公共工事執行過程の構造分析と問題点の抽出、コスト縮減のための手段としてVE制度の導入に関する研究、建設労働災害の構造的特性を探るとともに、施工の生産性についての研究を行った。公共事業の妥当性、納税者の不信感、高いと思われているコストが問題とされているが、必要と思われることは、事業決定のプロセスを透明にすること、市民社会と市場メカニズム双方に基づく開かれたシステムを構築していくこと、コストに関しては物価水準が違うことから単純にアメリカと比べて3割高いわけではないがコストダウンの余地はあるため、コストの総合的な解明、発注規模の大型化や平準化、生産性の向上などを行ってコスト縮減に取り組む必要があることが示唆された。コスト縮減の手段としてVEについては、費用・品質・技術開発の3つの視点から、発注者と元請企業の行動を目的・制約条件・手段・評価の4項目に分類した。評価結果をもとに公共工事執行過程の問題点を抽出し、契約後VEの導入について、「減額変更を伴わず工法責任は乙が取る方式」から契約後VE方式を実施させることが現実的であると考えられた。安全と生産性について研究を行った。建設業者の多様性と施工の生産性を考慮しながら、現場の安全管理と事故・災害との関連を表現できる概念モデルを構築した。ガス管の埋設工事を例に取り、施工の生産性に影響を与える要因を明らかにし、それらの影響要因と生産性との関係を定量的に表現することのできる統計モデルを構築した。
著者
寺井 康文 渡邊 法美
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.7, pp.22-00178, 2023 (Released:2023-07-20)
参考文献数
21

多くの土木事業の基礎条件となる地質は,その不確実性のため重大なコスト損失をもたらすリスク因子である.事業に関わる担当者が地質リスクや事業を“我がこと”とする役割認識がリスクマネジメントにおいて重要とされるが,これまで役割認識の効果を明らかにした研究はない.本研究では,道路事業における地質調査~設計の過程で,事業者,地質技術者,設計者がどのような役割認識を有し,どのような妥当性でリスクの特定や評価が行われるかを整理した.その結果から事業コストの期待値を求めたところ,地質リスクを“我がこと”と認識する担当者と“他人ごと”と認識する担当者では10%以上の事業コストの差が生じるとともに,事業において地質リスクが存在しないケースは少数であることが示唆された.
著者
二宮 仁志 渡邊 法美
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.3, pp.22-00144, 2023 (Released:2023-03-20)
参考文献数
48

近年,我が国では,建設業従事者・技術者の大量退職,若年層の入職率低迷や離職率の高さなど技術者不足が深刻化している.優秀な人材確保には,労働条件の改善のほか,建設業の魅力・やりがいを感じ高めていく必要がある.働き方改革をはじめ,職場環境や処遇の改善等が推進されてきたが,激甚災害の増加やインフラの大量更新など業務量の増大,感染症拡大に伴い労働環境が急変する中,建設技術者のモチベーションは,必ずしも向上していないとの懸念もある.更なる生産性向上には,その維持・向上は極めて重要な課題といえる.本研究は,ライフストーリー法を用いて建設技術者のワークモチベーションの変遷プロセスについて調査・分析することを目的とする.有機的統合理論を援用して,自律性の程度を評価・プロセスの可視化を試みる.
著者
二宮 仁志 渡邊 法美
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集F4(建設マネジメント)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.I_93-I_102, 2011

現在,地方公共事業においては,一般競争入札の適用範囲の拡大を進めるとともに,簡易な総合評価方式など,各自治体に実情に応じた入札制度の導入・適応が模索されている.価格競争入札では,応札者の多くが最低制限価格狙いで応札し,くじ引きくじ引きで受注者が決定される工事が頻出するなど,受注社側の品質確保・確実な施工への懸念が高まっている.総合評価方式は,品質確保やダンピング防止等の効果が期待される一方,取引コストの増大は避けがたく,総合評価方式が建築業の中長期経営に及ぼす影響について必ずしも十分に議論されているとは言い難い.本稿は,地方公共団体における「くじ引き」と「総合評価方式」が建築業経営に与える影響・メカニズムについて分析し,その特性と可能性について考察することを目的とする.先行研究において開発した入札・契約・経営シミュレーションモデル(SUMM)を発展させた新たなモデルを構築し,くじ引き入札と総合評価方式について比較分析した.また,地方建築業の健全な経営環境を"正直者"の業者による競争としてモデリングし,入札・契約制度改革の将来像をイメージ・議論する材料の提案を試みた.
著者
渡邊 法美 小澤 一雅
出版者
高知工科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

日本の公共発注者に必要な「発注力」を明らかにし、今後の技術調達モデルの方向性を検討した。今後も維持すべき発注力とは「信任」の精神であり、具体的には技術者の良心、Win-Win、規準作成、自己管理、努力者評価である。向上すべき発注力は、透明性の向上である。そのためには、リスクとコストの関係明確化、プロセスマネジメントシステムの構築・運用、利用者・納税者への説明、発注者に不足する機能を補完する新しい職能の創設・導入、各リスクを最も適切に取ることが出来る主体を選抜する仕組みの構築が必要である。