著者
滝沢 隆俊 大島 慶一郎 牛尾 収輝 河村 俊行 榎本 浩之
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.335-346, 1997-03

コスモノート海(60-68°S, 35-65°Eの水域)において, コスモノート・ポリニヤの特徴を明らかにするため, 1987年から1992年の間, JAREの夏観測で得られた水温データの解析を行った。沿岸域には水温-1.5℃以下の冷い水塊が広範囲に存在した。その沖合い北東から北西にかけて, 水温1℃以上の暖かい周極深層水が150m以深に認められた。1987年から1991年のSSM/I画像の解析によると, 持続性のある典型的コスモノート・ポリニヤが1988年に現れた。その他の年は小規模なポリニヤが散発的に出現するのみでポリニヤ活動は弱い年であった。一方, 約66°S, 50-60°Eの沿岸域には例年頻繁に沿岸ポリニヤが現れた。また, コスモノート・ポリニヤから東に向けて, 点在するポリニヤ列がしばしば認められた。このポリニヤ列は, 大気の南極収れん線と海洋の南極発散域に沿って形成されると考えられる。
著者
河村 俊行 滝沢 隆俊 大島 慶一郎 牛尾 収輝 Toshiyuki Kawamura Takatoshi Takizawa Kay. I. Ohshima Shuki Ushio
雑誌
南極資料 = Antarctic Record (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.367-383, 1997-03

海氷の特性と成長過程を解明するための観測がリュツォ・ホルム湾の定着氷で1990年から1991年の2年間にわたって行われた。湾内の積雪深は沖合いの観測点で, 冬季に1.0から1.5mと非常に厚くなった。積雪深と氷厚の観測から, 多雪域の海氷は冬にはほとんど成長しないにもかかわらず, 夏には非常に厚くなることが確認された。海氷の構造・塩分・酸素同位体比の結果から, この海氷は通常の成長とは異なり, 海氷の表面で上方に成長していることが分かった。その上方成長は雪ごおりと上積氷の形成により起こっていると結論された。南極の海氷での上積氷の形成は以前に報告されていない。上積氷の生成条件である積雪の融解の証拠も得られた。この様な夏の上方成長は少雪域の海氷では見られなかった。従って, 積雪は海氷の成長過程と構造に多大な影響を及ぼす。この報告の前半で, 海氷の一般的な構造や南極域での海氷の特性が述べられている。Observations of multiyear land fast sea ice were made in Lutzow-Holm Bay, Antarctica over a period of two years from 1990 to 1991 to determine the snow and ice characteristics and ice growth prowth processes. The snow depth in the bay reached remarkably high values of 1.0 to 1.5m during the winter season at offshore stations. From analysis of ice thickness measurements, it is confirmed that fast ice with deep snow cover shows little growth during winter but substantially thickens during the summer months. On the basis of ice core structure, salinity and stable isotopic composition, it is concluded that the sea ice grows not downward as in ordinary growth but upward at the top of the sea ice. It is also concluded that the upward growth is caused by snow ice and superimposed ice formation. Superimposed ice formation on sea ice in Antarctica has not been reported previously. Evidence for snow cover melting, which is a prerequisite for superimposed ice formation, was also found. The summer upward growth was not found in sea ice with low snow accumulation. Snow cover, therefore, significantly affects the growth processes and structure of sea ice. General sea ice structure and characteristics of Antarctic sea ice are reviewed at the beginning of this report.
著者
牛尾 収輝 若林 裕之 西尾 文彦
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.299-305, 2006-07-15 (Released:2010-02-05)
参考文献数
19
被引用文献数
2 4

1990年代後半から2005年までの間,南極リュツォ・ホルム湾では沿岸定着氷の崩壊・流出が頻繁に観測されている.南極沿岸海氷の変動特性を把握するために,同湾で生じる海氷流出の履歴に着目して衛星画像を解析した.その結果,流出発生の有無,つまり海氷の安定/不安定は数年間ずつ続いていること,それらの発現時期は海氷上積雪深や地上気温・風系の年々変化の傾向と符合していることが見出された.また,同湾南端に流れ込む白瀬氷河の浮氷舌の動態を加えて,過去50年間の沿岸定着氷の変動を推定したところ,1980年代初期以降の約25年間は不安定で,それ以前に長期間続いた安定な氷状と顕著に異なることがわかった.南極リュツォ・ホルム湾の沿岸定着氷の変動を解析した結果,以下のことがわかった.