著者
石沢 賢二 イシザワ ケンジ Kenji Ishizawa
雑誌
南極資料 = Antarctic Record (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.52-70, 2014-03-31

昭和基地の建物周辺と除雪した道路のスノウドリフトを少なくし,ひいては第53 次日本南極地域観測隊による越冬中の除雪作業を軽減するため,次に挙げるいくつかのスノウコントロールを実施した.まず,汚水処理棟高架通路下部の雪と氷を排除し,吹き払い柵を設けて高架通路下部を風が高速で流れるようにした.基地中心部から離れた2 つの高床式建物では,建物と風下のスノウドリフトの間を除雪し,高床下部を風が通り抜けるように維持した.また,空ドラム缶を連結して導風ダクトを製作し,建物のドア前にスノウドリフトが発生しないようにした.さらに,幹線道路の除雪に際し,道路の風下側に排除した雪を置き,新たなスノウドリフトを少なくする工夫をした.以上のような日常的なメンテナンスを行うことにより,除雪の労力を減らすことができた.特に前次隊までたびたび行っていた汚水処理棟と倉庫棟屋根の雪下ろしは,A 級ブリザード後に数時間行うだけで済んだ.また,清浄大気観測小屋や大型大気レーダー小屋でも除雪の労力は大幅に減った.さらに,基地燃料ポンプ小屋とプロパンボンベ庫ドア前のスノウドリフト付着は最小限に食い止められた.見晴らし道路除雪後のスノウドリフトもほとんどなく,再度除雪することはなかった.
著者
和田 誠 古賀 聖治 野村 大樹 小達 恒夫 福地 光男 Makoto Wada Seizi Koga Daiki Nomura Tsuneo Odate Mitsuo Fukuchi
雑誌
南極資料 = Antarctic Record (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.271-278, 2011-11-30

2009年に就航した新「しらせ」には,改造した20 ftコンテナを船上実験室として搭載するスペースが確保された.第51次日本南極地域観測隊では,このコンテナ実験室の内部に大気中の硫化ジメチル濃度を測定するためのプロトン移動反応質量分析計を収納し,観測を実施した.本稿では,コンテナ実験室の概要と今後改良すべき点等について報告する.
著者
有田 真 井 智史 仰木 淳平 高橋 幸祐 門倉 昭 源 泰拓
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 = Antarctic Record (ISSN:2432079X)
巻号頁・発行日
vol.64, pp.1-20, 2020-01

南極の昭和基地では,基線値(絶対観測値と連続観測値との差)が特に夏期間において顕著な変化を示す.この変化の要因としては,例えば重機のような磁性体によるノイズや磁力計センサーの傾斜変動や温度変化といった設置環境の変化が考えられる.磁力計センサーの傾斜変動が夏期間の基線値変化に及ぼす影響を調査するために,電子水管傾斜計を用いて傾斜変化を連続観測するとともに,絶対観測を通常より高頻度で実施した(2013 年1 月~2 月,2013 年11 月~2014 年2 月).調査の結果,東西方向で30 秒角から50 秒角程度,南北方向で10秒角程度の顕著な傾斜変化があることが判明した.基線値変化には傾斜変化が大きく寄与していることが分かり,傾斜変化の基線値変化への寄与率は最大で,D成分で60% から100%,H 成分とZ 成分で30% から40% と推定された.At Syowa Station, Antarctica, the baseline values, or the difference between the absolute and continuous measurements, vary relatively significantly in summer. They are possibly due to artificial disturbances from magnetized objects, and/or changes of the instrumental environment such as involving the tilt and temperature of the sensor for continuous observations. To evaluate the effect of the sensor tilt, we continuously monitored its behavior with electronic tiltmeters over two successive summer seasons (Jan.-Feb. 2013, Nov. 2013-Feb. 2014), while also intensifying the frequency of the absolute observation. The variability of the tilt was found such that, its angular changes in the East-West and North-South directions were 30 to 50 and 10 arcseconds, respectively. The observed variations of the baseline values can be attributed primarily to the sensor tilt changes, with its contribution estimated to be up to 60 to 100% for the D component and 30 to 40% for the H and Z components.
著者
金戸 進 Susumu Kaneto
雑誌
南極資料 = Antarctic Record (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.285-290, 1997-03

南極域における気候変動に関する総合研究(ACR)期間の最終年である1991年は, 6月にフィリピンのピナツボ火山が, 8月にはチリのハドソン火山の噴火がおき, 大量の噴出物が成層圏にまで到達して気候システムは大きな影響を受けた。昭和基地で行われた観測結果を全球などの観測結果と比較して, この影響がどのようなものであったかを見た。噴煙の直接的な影響を受ける混濁度観測や日射観測では1991年末から影響が見られた。しかし, 気温やオゾン全量など大循環の結果のような間接的な要素では, 影響がはっきりしなかったり(成層圏気温), 影響と思われる偏差が見られたものの発現時期に全球とのズレが考えられるもの(地上気温やオゾン全量)があった。
著者
山内 恭 Takashi Yamanouchi
雑誌
南極資料 = Antarctic Record (ISSN:2432079X)
巻号頁・発行日
vol.60, pp.1-18, 2016-03

今,北極・南極は温暖化しているのだろうか? この質問に答えられるように,解説を試みた.近年の地球温暖化の中で,強い温暖化の現れている地域は北極域と南極半島域である.北極域の温暖化は全球平均の2倍以上の温暖化で,北極海の夏の海氷も著しく減少している.何がこの北極温暖化増幅をもたらしているのか,その原因を探った.一方,南極では,南極半島や西南極で温暖化が激しいのに対し,東南極では温暖化が顕著にはみえない.なぜ,温暖化が抑えられているのであろうか.オゾンホールが関係しているという説を述べる.さらに,北極温暖化の影響で,中緯度に寒冷化が起こる現象がみつけられ,様々な議論を呼んでいる.今後の研究が期待される.
著者
Goderis Steven Yesiltas Mehmet Pourkhorsandi Hamed 白井 直樹 Poudelet Manu Leitl Martin 山口 亮 Debaille Vinciane Claeys Philippe
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 = Antarctic Record (ISSN:2432079X)
巻号頁・発行日
vol.65, pp.1-20, 2021-01

2019-2020 年の夏期に,東南極セール・ロンダーネ山地南部においてベルギー南極観測隊(BELARE)により隕石探査を実施した.ナンセン氷原には,2020 年1 月15 日から2 月6 日まで23 日間滞在し,採取した隕石の総数は66 個,合計重量は約8 kg であった.ナンセン氷原での隕石集積機構を解明するために,隕石の他に氷,火山灰層や岩石の破片も採取した.採取した隕石は,凍結したまま国立極地研究所に輸送された.これら採取した隕石が国際隕石学会の隕石命名委員会に認可された後,分類データはMeteorite Newsletter で公開される.This report summarizes the Belgian Antarctic Expedition (BELARE) 2019-2020 meteorite search and recovery expedition near the Sør Rondane Mountains of East Antarctica during the 2019-2020 field season. This expedition took place from 15 January to 6 February 2020 within the area defined as "C" of the Nansen Ice Fields (S72°38'−72°48'S, 24°35'−25°06'E). The expedition team consisted of four scientists and two field guides, who systematically searched the ice field area and collected 66 meteorites. The total weight of the meteorites was determined to be ~8 kg. In addition to meteorites, blue ice samples, volcanic ash layers, and wind-blown terrestrial rock fragments were collected from the area to study in detail the nature of the mechanisms concentrating meteorites on the Nansen Ice Fields. The recovered meteorites were transported in a frozen state to the National Institute of Polar Research, Japan for dry-thawing and subsequent classification.
著者
神山 孝吉 渡辺 興亜 Kokichi Kamiyama Okitsugu Watanabe
雑誌
南極資料 = Antarctic Record (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.232-242, 1994-11

さまざまな物質が南極内陸部上空に運ばれ, 雪面上に蓄積している。内陸部の降雪・積雪の化学組成は, 大気中の内陸部への物質輸送過程と内陸部大気中の物質の存在量を反映している。いくつかの物質濃度は内陸部の降雪で増加傾向にあり, 南極内陸部は特異な堆積環境の下にあることを示唆している。なぜなら広大な雪面の続く内陸は, 物質の供給源から隔たっており, 降雪中の一部物質濃度の増加は単純には説明できないからである。本報告では, 南極氷床内陸部に堆積する降雪・積雪の化学組成についての研究を概観し, 内陸積雪の化学的性質の特異性を指摘する。すなわち積雪中のトリチウムなどに代表されるようにいくつかの物質濃度が内陸内部で増加している。南極内陸部では大気が著しい低温を示すという地域的な要因に, 成層圏を通して遠隔地域からの物質輸送過程が存在し地球規模での物質循環過程を反映するという要因が加わって, 内陸部の特異性を生みだしていると考えられる。南極内陸部の積雪の化学的特異性を考慮することによって, 雪氷コアを通して地球環境を探る研究はさらに有効になると思われる。
著者
澤柿 教伸 神山 孝吉 Takanobu Sawagaki Kokichi Kamiyama
雑誌
南極資料 = Antarctic Record (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.258-272, 2007-11

第47次南極地域観測隊では,昭和基地に整備されたLAN及びインテルサット衛星回線を活用して,Wiki(ウィキ)とよばれるシステムを試験的に導入・運用し,基地運営における情報共有システムを構築した.観測隊では本システムの下で基地情報を整理し,各隊員が互いに協調しながら基地の運営に携わった.運用の過程で日常の業務形態に合わせてWikiのカスタマイズを繰り返し,昭和基地運営に関する情報を隊員個人個人が容易に参照し,また入力可能なように最適化を進め,最終的には国立極地研究所のローカルネットワークにも公開した.スケジュール管理,野外行動予定と実行経過の周知,通信記録の参照,リアルタイムな気象情報提供などをWiki上のWebページ上で実施するとともに,外部のWebページにリンクを貼り,第47次観測隊昭和基地の情報ポータルとして位置づけた.このような情報共有システムを用いた基地運営マネージメントが有効であると感じた隊員も多く,特に夏期に情報の流れが複雑になった時など,隊員間や基地-国内間の情報共有体系に非常に有用であることが確認できた.
著者
石輪 健樹 徳田 悠希 板木 拓也 佐々木 聡史
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 = Antarctic Record (ISSN:2432079X)
巻号頁・発行日
vol.64, pp.330-350, 2020-11

将来の気候変動に対する南極氷床の応答の理解には,過去の南極氷床変動史の復元およびその変動メカニズムの解明が不可欠である. しかし,地質学的データの時間的・空間的な欠落により南極氷床変動史は十分に復元されていない. 第 61 次日本南極地域観測隊では,活動の一部として宗谷海岸のラングホブデでゾディアックボートを用いた海底地形測量・生物調査・堆積物採取をはじめとする水上調査を展開した. また,ラングホブデ・西オングル島で陸上調査を実施し,表層・陸上堆積物の採取および地中探査レーダーによる地層調査を行った. 取得した海底地形データおよび堆積物は,過去の南極氷床変動史を復元する上で重要な要素となることが期待される. 本報告書では,野外調査の計画および実施内容について報告する. The Antarctic Ice Sheet is a major source of future sea-level rise due to global warming. Reconstruction of the past Antarctic Ice Sheet is essential to understand the mechanism of the Antarctic Ice Sheet response to global and regional climate changes. However, the shortage of geological evidence of sea-level and ice-sheet records makes it difficult to reconstruct the Antarctic Ice Sheet changes. The geomorphological survey is conducted in the 61st Japanese Research Antarctic Research Expedition, and the objective of this survey is to obtain sea-level and ice-sheet records from Lützow-Holm Bay in East Antarctica. We measured the bathymetry and collected sediment samples in shallow water of Langhovde. We also collected the rocks for measuring cosmogenic nuclide and the terrestrial surface sediments, and took an interference pattern under the ground by the ground-penetrating radar in both the Langhovde and West Ongul Island. The data collected will be used to obtain geological evidence of the Antarctic Ice Sheet changes in the future expedition. We report the summary of the geomorphological survey such as planning, logistics, and records.
著者
金戸 進 山内 恭 Susumu Kaneto Takashi Yamanouchi
雑誌
南極資料 = Antarctic Record (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.459-476, 1999-11

第38次南極地域観測隊ドームふじ観測拠点越冬隊9名は, 1997年1月25日から1998年1月24日までの1年間, ドームふじ観測拠点での3年目, 最終年の越冬観測を実施した。今次隊では, 気水圏系プロジェクト研究観測の「氷床変動システム研究観測」と「南極大気・物質循環観測」を主に実施した。前者では, 36次隊から続けられた氷床深層掘削が中心課題として計画されていたが, 前次隊末のドリルスタック以来, 液封液の補充を続けたがドリルを回収できず, 深層掘削の再開には至らなかった。しかし, 前年までに掘削された氷床コアの現場処理・解析を続け, 多くのコア試料を持ち帰った他, 雪氷観測, 浅層掘削, 内陸旅行観測を行った。後者では, 新たな観測として, ライダーによる極域成層圏雲の観測やGPSゾンデによる高層観測, 大気循環場の観測等を精力的に実施し, 初めて内陸での極成層圏雲の通年の盛衰を捉えたり大気循環場のブロッキング高気圧に伴う熱や水蒸気の流入を捉えるといった成果を上げることができた。これら観測を支える設営面では, 水作りのための雪取りや, 燃料ドラムの搬入, 低温下での車両の立ち上げに苦労した。燃料事情は厳しかったが, 昭和基地からの補給を行ったことで内陸調査旅行が可能となった。越冬最後に, 基地の閉鎖作業を行い, 基地を後にした。
著者
大野 義一朗 宮田 敬博 Giichiro Ohno Takahiro Miyata
雑誌
南極資料 = Antarctic Record (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.42-50, 2000-03

1998年9月, 越冬中の各国基地医師にファックス, 電子メールを送り医療現状調査をおこない昭和基地と比較した。7基地から直接回答があり10ヵ国14基地の情報を収集した。医師数は日本隊が2名で他は1名であった。医師以外の医療従事者がいるのは1基地のみ。手術室のある基地は多いが実際に手術を行っている基地は少ない。集計死亡数76件のうち病死9%, 事故死72%, 不明19%。病死では急性心疾患が最多で, 事故死の73%が航空機事故だった。日本隊の死亡1名は実数でも比率でも少ない。その理由は隊員選抜の健康診断が有効に機能していてこれまで致命的な疾患が発生していないことと, 大陸間航空路がなく航空機関連事故が起きていないためと考えられる。昭和基地でも重症患者の救命に不可欠な緊急搬出用航空路をどのようにして安全に導入するかが課題である。In September of 1998,we sent questions about base medical systems to Antarctic wintering team doctors by facsimile and e-mail and we obtained information about 14 stations of 10 nations. Syowa has two doctors. Most other stations have one. Only one has paramedical workers. Many stations have an operation room but only few operations have been done. There have been 76 deaths : 9% from disease, 72% from accidents and 19% from unknown causes. The major fatal disease was the heart attack, 73% of fatal accident involved airplanes and helicopters. The very low mortality of Syowa may be because effective personnel selection avoids severe disease and there are no severe accidents by intercontinental aircraft. The problem is how JARE can establish an indispensable air-evacuation system safely.
著者
内藤 靖彦 Boeuf Burney J. Le 浅賀 朋宏 Huntley Anthony C. Yasuhiro Naito Burney J. Le Boeuf Tomohiro Asaga Anthony C. Huntley
雑誌
南極資料 = Antarctic Record (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.1-9, 1989-03

南極アザラシの冬季潜水行動を知るために開発した長期潜水記録計の現場実験を, 回収が容易なキタゾウアザラシ(Mirounga angustirostris)を用いて行った。現場実験はキタゾウアザラシの連続的な深い潜水行動を知ることを主要な目的としてカリフォルニア, アニュ・ノエボ海岸で行った。1987年2月繁殖終了後の雌の成獣に記録計を装着し, 換毛のため再上陸した5月に記録計の回収を行い, 潜水行動記録として初めて73日間におよぶ長期連続記録を得た。潜水回数は, 73日間5024回であり, 1時間平均2.9回の潜水を行った。全潜水の平均深度は463.9±147mであり, 平均潜水時間は17.1±3.4分であつた。最大潜水深度と最大潜水時間は, 934mと33.5分であつた。最大潜水深度は実測された鰭脚類の深度としては最も深い記録であった。潜水は初めの4日間は深度を徐々に増し, 500m深度に達すると安定した。しかし, 潜水深度は昼夜で変わり, また約20日単位でも変化した。潜水時間は長期にも安定していた。ESI (Extended Surface Interval)直後の潜水は非常に浅い潜水から再開され, 数回の深度を増す潜水を経て通常の深度に達した。以上の実験の結果, 本記録計は装着による動物行動への影響がないことが判明し, 南極アザラシでも有効に利用できることがわかった。Seventy-three days long diving record of an adult female northern elephant seal (Mirounga angustirostris) was obtained using the long-term time depth recorder which was developed for Antarctic seal research by the National Institute of Polar Research, Tokyo. It was observed that the female northern elephant seal dived to a great depth continuously for a long period. It dived 5024 times during 73 days, 2.9 times per hour on the average. The mean dive depth and duration were 463.9±147m and 17.1±3.4min, the maximum values being 934m and 33.5min. The dive depth increased gradually on the first 4 days. After that, it fluctuated diurnally, while the dive duration remained rather stable. Following the extended surface intervals (ESIs : defined as surface intervals longer than 10min) dives were shallow but the depth increased gradually.
著者
半貫 敏夫 岸 明 平山 善吉 佐野 雅史 Toshio Hannuki Akira Kishi Zenkichi Hirayama Masashi Sano
雑誌
南極資料 = Antarctic Record (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2A, pp.456-472, 2002-09

昭和基地で約29年間、居住施設として使われてきた木質プレハブ建築システムを日本に持ち帰り、その耐久性を調査した。先ず、持ち帰った部品を用いて基礎を除く鉄骨架台から上の建物部分を組み立てて復元し、建物全体の劣化状況を観察した。復元工事は5日間、延べ22人の労働力によって完成した。工事は建築専門職人によって行われたが、短期間の人力作業という条件で設計された建築システムの優れた性能が証明された。それぞれの部品はまだ数回の組み立て、解体に耐えられる性能を維持していると判断された。 復元建物の耐久性目視調査の結果、部分的に補修を要する個所もあったが、建物全体としては、まだ設計条件をクリアする性能を維持していることが分かった。パネル外装のめっき鋼板は防火が目的であったが、木質パネルの保護層として有効に作用し、合板の劣化を遅らせた。防水設計を改良すればさらに建物全体の耐久性を増すことが可能である。
著者
半貫 敏夫 高橋 弘樹 石鍋 雄一郎 佐野 雅史 平山 善吉 Toshio Hannuki Hiroki Takahashi Yuichiro Ishinabe Masashi Sano Zenkichi Hirayama
雑誌
南極資料 = Antarctic Record (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2A, pp.490-503, 2002-09

南極昭和基地で約29年間使われてきた居住棟の主要構造部品、屋根、壁、床の各木質パネルの耐久性を評価するための曲げ強度試験を行った。その結果外気に接するパネルの構成材に部分的劣化が認められ、それが構造強度に影響していることが確かめられた。パネルの強度は総体的に落ちているとはいえ、設計強度はまだ十分に維持しており、南極で安全に使用できる構造性能を保っていることが確かめられた。 実験結果を整理すると、南極のような極限環境にある木質サンドイッチパネルの耐久性設計では、表面合板の保全が構造上最も重要な課題であることが分かった。
著者
菅沼 悠介 三浦 英樹 奥野 淳一 Yusuke Suganuma Hideki Miura Jun'ichi Okuno
雑誌
南極資料 = Antarctic Record (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.85-90, 2012-07-31

宇宙線生成核種を用いた表面露出年代測定法は,地球表層における様々な現象を理解するために非常に重要な年代測定法である.この年代測定法には,年代決定精度が試料形状に依存するという特徴があり,試料採取の際に試料の厚さと形を高精度で測定することが必要となる.しかし,ハンマーやタガネを用いた従来の手法では,このような要求を満たす試料採取は時として困難であった.そこで本研究では,新たに携帯型電動カッターを用いた試料採取手法を提案する.この手法は,迅速かつ精密な試料採取および形状測定を可能とすることから,結果として年代測定精度の向上につながるものである.簡単な理論計算に基づき不完全な試料形状に起因する年代差を求めたところ,試料の採取深度が大きくなるにしたがって年代差が大きくなることが分かり,表面露出年代測定法における精密な試料形状測定の重要性が示された.
著者
松島 健 山下 幹也 安原 達二 堀口 浩 宮町 宏樹 戸田 茂 高田 真秀 渡邉 篤志 渋谷 和雄 Takeshi Matsushima Mikiya Yamashita Tatsuji Yasuhara Koh Horiguchi Hiroki Miyamachi Shigeru Toda Masamitsu Takada Atsushi Watanabe Kazuo Shibuya
雑誌
南極資料 = Antarctic Record (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.395-408, 2003-11

南極氷床上のクレバス帯等の,地上からは到達困難な地域での人工地震観測を目的とした投下型地震観測装置(南極ペネトレータ)を開発し,第43次日本南極地域観測隊で実施する東南極みずほ高原における人工地震探査で使用するために,22本のペネトレータを昭和基地に持ち込んだ.しかし,開発の遅れに伴う国内試験の不足から種々の不具合が発生し,今回は本観測での使用をあきらめざるを得なかった.当初の目的は果たすことができなかったが,国内では得られない環境でのペネトレータ投下実験を行い,投下姿勢,着地衝撃力,温度変化等の貴重なデータを得るとともに,南極内陸部での実際のヘリコプター運用への知見を得ることができた.これらの成果はペネトレータ型地震計の改良のみならず,今後の各種投下型観測機器の開発・製作に多いに役に立つものと考えられる.
著者
西尾 文彦 Fumihiko Nishio
雑誌
南極資料 = Antarctic Record (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.29-52, 2013-03-29

第43次隊は総勢60名で構成され,このうち夏隊は20名,越冬隊は40名であった.ほかに夏隊同行者として7名が参加した.南極観測船「しらせ」は,2001年11月14日に晴海埠頭を出港,観測隊本隊は11月28日に航空機で成田を出発し,西オーストラリアのフリーマントルで「しらせ」に乗船した.「しらせ」は12月3日に同地を出発し,海洋観測を実施しつつ12月14日に氷縁へ到着した.12月18日に昭和基地第一便が飛び,12月23日に昭和基地に接岸して氷上輸送,その後の本格輸送が開始された.2002年2月12日の最終便までの間に,第43次越冬成立に必要な物資の輸送と越冬隊員の交代を滞りなく完遂した.また,観測隊ヘリコプターは12月23日に「しらせ」から昭和基地へ移動し,その後2002年2月3日まで氷床内陸域も含めた観測支援作業に従事した.人工地震の観測では内陸に雪上車行動を展開したが,適宜ヘリコプターを利用し空路支援した.基地作業では,昭和基地内の多くの地域で土木・建築作業,基地設備の更新などが行われた.なお,夏隊員のうち4 名は専用観測船「タンガロア号」を利用した観測を実施し,国内出発から帰国まで完全に別行動であった.
著者
半貫 敏夫 小石川 正男 平山 善吉 佐野 雅史 佐藤 稔雄 Toshio Hannuki Masao Koishikawa Zenkichi Hirayama Masashi Sano Toshio Sato
雑誌
南極資料 = Antarctic Record (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.61-102, 1993-03

昭和基地建設の歴史的経緯をふまえて, 基地建物の現状と計画的な建物更新の必要性およびその概要を述べた。次いで昭和基地に建つ南極観測用建物の設計・製作に関する制約条件を整理し, これまでに昭和基地で試みられてきた極地建築システムについて概観した。国立極地研究所観測協力室の立案による昭和基地整備計画の最初の事業として企画された「管理棟」の基本構想をまとめるまでの経緯と基本設計の概要を紹介し, 建築・防災・構法などの新しい試みについて解説した。また, これからの南極観測用建築のありかたについても言及した。
著者
井上 正鉄 Masakane Inoue
雑誌
南極資料 = Antarctic Record (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.271-284, 1991-11

第27次観測隊に参加した筆者によって採集された標本を中心に基準標本等と比較検討した結果, 広義のヘリトリゴケ属地衣類の1新種, 1新組み合わせ種を含む3属5種を認めた。すべて, 昭和基地周辺地域では新産種である。各々について形態・地衣成分・地理分布を記載し, 近縁種との関係を論じた。(1) Carbonea capsulataは亜南極地域に分布する近縁のC. vorticosaと, 子器殻excipulumの菌糸の太さ及び地衣成分の異同で区別できる。本種は大陸性南極の数ヵ所で知られている。本地域では大陸周縁の露岩域に普通にみられる。(2) Lecidea andersoniiは, 北半球に広く分布し南極地域でも数ヵ所から報告されているLecidea auriculataに酷似するが, これとは子嚢下層hypotheciumの着色の有無や胞子サイズで区別できる。本種はウイルクスランドから新種として記載されて以来, 他地域からは報告されていないが, 昭和基地周辺地域では比較的普通にみられる。(3) Lecidea cancriformisは光沢のある褐色の地衣体を有する点で他の種と容易に区別がつく。北半球に広く分布し, 亜南極の数ヵ所にもその生育が知られている近縁のLecidea atrobrunneaとは地衣成分の違い, 地衣体髄層のヨード反応で区別できる。本種は大陸性南極に広く分布し, 昭和基地周辺地域でも普通にみられる。(4) Lecidea soyaensisは子嚢下層下部の髄層がクモの巣状の菌糸で構成され, よく発達した子器殻を有する点, また本種と近縁なLecidea auriculata群にみられない地衣成分スチクチン酸を産する点で新種として区別された。宗谷海岸ラングホブデ産。(5) Lecidella sipleiは側糸と子器殻を構成する菌糸の形状, 及び子嚢頂部の構造からLecidella属のもとに置くのが妥当と考えられる。北半球に広く分布し, 亜南極からもその生育が報告されているLecidella bullataに最も近縁と思われるが, これとは地衣体の形状, 地衣成分の異同で区別できる。本種は大陸性南極のマリーバードランドとビクトリアランドの2ヵ所から報告されているにすぎないが, 昭和基地周辺地域では普通にみられる。