著者
太田 静佳 宇野 彰 猪俣 朋恵
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.9-15, 2018 (Released:2018-03-15)
参考文献数
5
被引用文献数
10 8

文字教育を行っていない幼稚園3園に在籍する年長児230名を対象に,国立国語研究所(1972)および島村,三神(1994)の調査と同様の方法で,ひらがな71文字についての音読課題,書字課題,拗音,促音,長音,拗長音,助詞「は」「へ」についての音読課題を実施し,現代の幼児のひらがな読み書き習得度について検討した.ひらがな71文字における平均読字数は64.9文字,平均書字数は43.0文字であり,島村,三神の調査結果と近似していた.また,本研究における71文字の音読,書字課題成績について,性別および月齢による違いを検討するため分散分析を行った結果,71文字の書字課題のみで性別の有意な主効果が認められ,男児に比べて女児の成績が高かった.月齢の影響はなかった.書字において女児の成績が男児の成績に比べて高かった点で,先行研究を支持していた.
著者
宇野 彰 猪俣 朋恵 小出 芽以 太田 静佳
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.260-264, 2021-09-30 (Released:2022-07-04)
参考文献数
9

本研究では, ひらがな音読に焦点を当て, ひらがな習得困難児の出現頻度, 年長児の習得度, 年長児への指導の効果, 年長時に習得が困難だった幼児の追跡調査結果を報告する。その結果, ひらがな音読困難な小学生児童は 0.2% ( ひらがな書字に関しては 1.4% ) であった。年長児では, 70% 以上の幼児が拗音以外の 71 文字のうち 1 文字読めないだけか, 全て読むことができた。年長児を対象に, ひらがな音読成績を従属変数とした重回帰分析の結果, 認知能力のみが有意な予測変数であり, 環境要因は有意な貢献を示さなかった。別な集団でも同様の結果であった。また, 介入研究として統制した指導をしても, 指導群と非指導群との成績間に有意な差が認められなかったことから, 年長児へのひらがな指導は効果的ではないと思われた。この結果も別の集団にて再現性が認められた。しかし, ひらがな習得度の低い年長児の 90% は小学1 年時の夏休み直後に追いついていたことから, ひらがな習得に関するレディネスはそのころに完成するのではないかと思われた。
著者
猪俣 朋恵 宇野 彰 伊澤 幸洋 春原 則子 金子 真人 粟屋 徳子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.246-253, 2011 (Released:2011-10-06)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

漢字学習過程を想定し, 意味を付与した非言語的な図形を繰り返し模写, 再生する長期記憶検査 (図形学習検査FLT;Figure Learning Test) を新たに作成し, 小学校1~6年生の典型発達児75名と発達性読み書き障害児6名に実施した. 典型発達児では FLTの遅延再生得点と漢字の書き取り成績との間に有意な相関関係を認めなかった. 非言語的図形の長期記憶力に明らかな低下がない場合, 非言語的図形の長期記憶力以外の他の要因も漢字書字成績に影響しやすいのではないかと考えた. 一方, 発達性読み書き障害児では, 高学年児においてFLTの遅延再生得点が典型発達児に比べて-1.5SDもしくは-2SD以下と低下していた. また, 繰り返しの学習の効果が十分に得られないという特徴や意味との対連合学習で困難を示すといった特徴がみられた. 非言語的図形の長期記憶力が漢字書字の学習到達度に影響しうることが示唆された.
著者
猪俣 朋恵 宇野 彰 酒井 厚 春原 則子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.208-216, 2016 (Released:2016-05-20)
参考文献数
30
被引用文献数
8 12

年長児の読み書き習得に関わる認知能力と家庭内の読み書きに関連した環境要因を検討した.年長児243名に対し,ひらがな1から3文字の音読と書取,音韻認識課題(単語逆唱,非語復唱),RAN課題,図形の模写と記憶課題,語彙課題を実施した.保護者には,家庭内で子どもが読書活動に従事する頻度,および家庭内で子どもに文字の読み書きを教える頻度について聴取した.重回帰分析の結果,RAN,単語逆唱,非語復唱の成績は音読成績を有意に予測したものの,環境要因に関する尺度は,音読成績に有意な貢献を示さなかった.書取については,RAN,単語逆唱,非語復唱,図形模写の成績,および家庭での書き指導頻度が有意な予測変数であった.年長児におけるひらがなの読み書き習得には,これまでに報告されている認知能力の貢献度が高い一方,書字の習得においては,家庭での文字指導頻度も関与している可能性が示唆された.