著者
後藤 多可志 宇野 彰 春原 則子 金子 真人 粟屋 徳子 狐塚 順子 片野 晶子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.38-53, 2010 (Released:2010-04-16)
参考文献数
72
被引用文献数
24 9

本研究の目的は, 日本語話者の発達性読み書き障害児における視覚情報処理過程を体系的に評価し発達性読み書き障害の背景となる認知障害構造を明らかにすることである. 対象は日本語話者の発達性読み書き障害児20名と定型発達児59名である. 視機能, 視知覚, 視覚認知機能および視覚性記憶機能を測定, 評価した. 本研究の結果から, 視機能の問題は読み書きの正確性に大きな影響を与えないのではないかと思われた. 線分の傾き知覚と視覚性記憶機能は本研究で対象とした発達性読み書き障害児全例で低下していた. 視知覚と関連のあるvisual magnocellular systemとvisual parvocellular systemを検討した結果, 双方の視覚経路で機能低下を認める発達性読み書き障害児が20名中8名いた. 日本語圏の発達性読み書き障害児は海外での報告とは異なり2つの視覚経路の問題を併せもつことが多いのではないかと思われた.
著者
宇野 彰 春原 則子 金子 真人 粟屋 徳子 狐塚 順子 後藤 多可志
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.267-271, 2018-09-30 (Released:2019-10-02)
参考文献数
21
被引用文献数
3 1

発達性ディスレクシアでは, 読みだけの障害例は 40 年近く報告されていない。音読だけでなく書字にも障害が認められることから発達性読み書き障害と翻訳されることが多い。その背景となる認知障害について, 英語圏での音韻障害仮説を中心とする報告および他言語における共通点と相違点について解説し, 日本語話者の発達性ディスレクシア 84 名のデータに関して解説した。その結果, 日本語話者の発達性ディスレクシア児童・生徒の 65% 以上は複数の認知障害の組み合わせで生じており, 音韻障害のみが背景と思われる群は 20% 以下であり, 音韻障害のない群は 20% 以上とむしろ音韻障害を認めない発達性ディスレクシア例が多いことが分かった。
著者
宇野 彰 春原 則子 金子 真人 後藤 多可志 粟屋 徳子 狐塚 順子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.171-179, 2015 (Released:2015-05-21)
参考文献数
25
被引用文献数
15 2

ひらがな,もしくはカタカナ1モーラ表記文字に関して1年間以上習得が困難であった発達性読み書き障害児36名を対象として,音声言語の記憶力を活用した訓練方法を適用した.全例全般的知能が正常で,かつReyのAVLT (Auditory Verbal Learning Test)の遅延再生課題にて高得点を示していた小学生である.また,訓練開始前に練習をするとみずからの意思を表明していた児童,生徒である.訓練は,次に示す3段階にて実施した.すなわち,1)50音表を音だけで覚える,2)50音表を書字可能にする,3)文字想起の速度を上げる,であった.また,4)児童によっては拗音の音の分解練習を口頭で実施した.その結果,平均7週間以内という短期間にて,ひらがなやカタカナの書字と音読正答率が有意に上昇し,平均98%以上の文字が読み書き可能になった.さらに,1年後に測定したカタカナに関しては高い正答率が維持され,書字の反応開始時間も有意に短縮した.今回の症例シリーズ研究にて,良好な音声言語の記憶力を活用した練習方法の有効性が,正確性においても流暢性においても示されたのではないかと思われた.
著者
粟屋 徳子 春原 則子 宇野 彰 金子 真人 後藤 多可志 狐塚 順子 孫入 里英
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.294-301, 2012-06-30 (Released:2013-07-01)
参考文献数
25
被引用文献数
12 3

発達性読み書き障害児に対し, 春原ら (2005) の方法に従って漢字の成り立ちを音声言語化して覚える学習方法 (聴覚法) と書き写しながら覚える従来の学習方法 (視覚法) の 2 種の漢字書字訓練を行い聴覚法の適用を検討した。対象は発達性読み書き障害の小学 3 年生から中学 2 年生の 14 名で, 全例, 全般的知的機能, 音声言語の発達, 音声言語の長期記憶に問題はなかったが, 音韻認識や視覚的認知機能, 視覚的記憶に問題があると考えられた。症例ごとに未習得の漢字を選択し, 視覚法と聴覚法の 2 通りの方法で訓練を行い, 単一事例実験研究法を用いて効果を比較した。その結果, 2 例では両方法の間の成績に差を認めなかったが, 12 例では聴覚法が視覚法よりも有効であった。この 12 例はいずれも, 視覚的認知機能または視覚的記憶に問題を認めた。この結果は, 聴覚法による漢字書字訓練の適用に関する示唆を与えるものと思われた。
著者
三盃 亜美 宇野 彰 春原 則子 金子 真人 粟屋 徳子 狐塚 順子 後藤 多可志
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.218-225, 2018 (Released:2018-09-15)
参考文献数
11

本研究では,発達性ディスレクシアのある児童生徒(ディスレクシア群)を対象に,漢字を刺激とした文字/非文字判別課題と語彙判断課題を行い,定型発達児童生徒(定型発達群)の成績と比較して,視覚的分析と文字入力辞書の発達を検討した.文字/非文字判別課題では,実在字刺激に対してディスレクシア群と定型発達群の正答率に有意差は見られなかったが,実在字と形態が類似する非実在字に対してディスレクシア群の正答率は定型発達群よりも有意に低かった.また語彙判断課題においては,実在語,同音擬似語,実在語と形態が類似する非同音非語に対して,ディスレクシア群の正答率は定型発達群よりも低かった.実在語と形態が類似していない非同音非語に対しては正答率に有意差はなかった.以上の結果から,本研究のディスレクシア群の視覚的分析と文字入力辞書は定型発達群ほど発達していないと考えられた.
著者
蔦森 英史 宇野 彰 春原 則子 金子 真人 粟屋 徳子 狐塚 順子 後藤 多可志 片野 晶子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.167-172, 2009 (Released:2010-04-06)
参考文献数
20
被引用文献数
6 2 7

発達性読み書き障害は複数の認知的要因が関与しているとの報告がある (Wolf, 2000;宇野, 2002;粟屋, 2003) . しかし, 読み, 書きの学習到達度にそれぞれの情報処理過程がどのように影響しているのかはまだ明確になっていない. 本研究では全般的な知能は正常 (VIQ110, PIQ94, FIQ103) だが漢字と英語の書字に困難を示した発達性書字障害例について報告する. 症例は12歳の右利き男児である. 要素的な認知機能検査においては, 日本語での音韻認識力に問題が認められず, 視覚的記憶力のみに低下を示した. 本症例の漢字書字困難は過去の報告例と同様に, 視覚性記憶障害に起因しているものと考えられた. 英語における書字困難の障害構造については, 音素認識力に関しては測定できなかったが, 日本語話者の英語読み書き学習過程および要素的な認知機能障害から視覚性記憶障害に起因する可能性が示唆された.
著者
後藤 多可志 宇野 彰 春原 則子 金子 真人 粟屋 徳子 狐塚 順子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.187-194, 2014 (Released:2014-09-05)
参考文献数
26

本研究では,日本語話者の発達性読み書き障害児群を対象に有色透明フィルム使用が音読速度に与える影響を,明るさを統制しない場合の色の要因に焦点を当てて検討した.対象は8~14歳の発達性読み書き障害児と典型発達児,各12名である.音読課題(ひらがな,カタカナの単語と非語および文章)をフィルム不使用条件,無色透明フィルム使用条件および有色透明フィルム使用条件の3条件で実施し,音読所要時間を計測した.実験手続きは後藤ら(2011)に従ったが,有色および無色透明フィルム使用時に低下した刺激の表面照度の補正は行わなかった.両群ともに,所要時間はすべての音読課題において3条件間で有意差は認められなかった.明るさを統制しない場合でも有色透明フィルムの使用は発達性読み書き障害児の音読速度に影響を及ぼさない可能性が考えられた.
著者
鈴木 香菜美 宇野 彰 春原 則子 金子 真人 WYDELL Takeo N. 粟屋 徳子 狐塚 順子 後藤 多可志
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.1-11, 2010-01-20
被引用文献数
3 5

本研究の目的は, 発達性読み書き障害児の診断評価の補助的な指標となる書字特徴を明らかにすることである. 対象は専門機関にて診断を受けた1年生から6年生の発達性読み書き障害児45名と, 定型発達児560名である. 小学生の読み書きスクリーニング検査のひらがな, カタカナ1文字と単語の書取課題にて分析した結果, 発達性読み書き障害児の書字特徴は, 特殊音節で誤りやすく, その誤りは学年が上がっても減少しにくい点, 低学年ではひらがなの単語よりも1文字で誤りが多い点, ひらがなに比べてカタカナの習得の遅れが著しい点であると思われた. 一方, 主に1年生から3年生でひらがな単語の心像性効果が両群で認められる可能性が示唆された. したがって, ひらがなやカタカナに関して1文字と単語双方の書取課題を実施し, これらから得られた書字特徴を確認することが発達性読み書き障害児の診断評価における補助的な指標となりうるのではないかと考えられた.
著者
猪俣 朋恵 宇野 彰 伊澤 幸洋 春原 則子 金子 真人 粟屋 徳子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.246-253, 2011 (Released:2011-10-06)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

漢字学習過程を想定し, 意味を付与した非言語的な図形を繰り返し模写, 再生する長期記憶検査 (図形学習検査FLT;Figure Learning Test) を新たに作成し, 小学校1~6年生の典型発達児75名と発達性読み書き障害児6名に実施した. 典型発達児では FLTの遅延再生得点と漢字の書き取り成績との間に有意な相関関係を認めなかった. 非言語的図形の長期記憶力に明らかな低下がない場合, 非言語的図形の長期記憶力以外の他の要因も漢字書字成績に影響しやすいのではないかと考えた. 一方, 発達性読み書き障害児では, 高学年児においてFLTの遅延再生得点が典型発達児に比べて-1.5SDもしくは-2SD以下と低下していた. また, 繰り返しの学習の効果が十分に得られないという特徴や意味との対連合学習で困難を示すといった特徴がみられた. 非言語的図形の長期記憶力が漢字書字の学習到達度に影響しうることが示唆された.
著者
土方 彩 宇野 彰 春原 則子 金子 真人 粟屋 徳子 狐塚 順子 後藤 多可志
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.221-229, 2010 (Released:2010-08-31)
参考文献数
30
被引用文献数
2 2

小学5, 6年生の定型発達児28名と発達性dyslexia児8名を対象に, 漢字単語の読解力に対する音読力と聴覚的理解力の貢献度を検討した. その結果, 定型発達児群における漢字単語の読解力に対して聴覚的理解力が有意に, そして音読力は有意傾向の影響力を示した. また, 読解力も音読力と聴覚的理解力の双方に対し有意に影響していた. 一方, 発達性dyslexia児群における漢字単語の読解力には音読力のみが有意に影響しており, 読解力も音読力に対して有意な影響力を示した. これらの結果から定型発達児の漢字単語の読解力には音読力と聴覚的理解力の双方が重要であり, 読解力もまた音読力と聴覚的理解力に対して影響力をもっていること, 発達性dyslexia児は音読力が低いため, たとえ聴覚的理解力が高かったとしても, その能力を読解力に対して十分に活用できていないことなどが推測された. また定型発達児群における読解力と音読力, 聴覚的理解力に関して, 一貫して心像性が有意な説明変数として抽出され, 3つの能力に対し意味の思い浮かべやすさが影響していると思われた.
著者
井村 純子 春原 則子 宇野 彰 金子 真人 Wydell Taeko N. 粟屋 徳子 後藤 多可志 狐塚 順子 新家 尚子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.165-172, 2011 (Released:2011-04-28)
参考文献数
24
被引用文献数
4

典型発達児と発達性読み書き障害 (DD) 児における漢字書字の特徴の相違を明らかにするため, 「小学生の読み書きスクリーニング検査 (STRAW) 」を用いて, 通常学級在籍の典型発達児708名とDD児21名の漢字単語書取の反応を比較, 検討した. DD児21名全員に音韻情報処理過程と視覚情報処理過程双方の障害を認めた. 漢字書字においてDD群は典型発達群に比べ無反応が多く, また形態的に似ていない非実在文字を書く傾向があった. さらに漢字の構成要素間の間隔が広いという特徴や, 文字が傾く特徴が認められた. DD群の漢字書字には視覚的な情報処理機能の低下が影響している可能性が示唆された. 典型発達群では正答率と音声提示による親密度との間に有意に高い相関を認めた一方, DD群では正答率と音声提示による単語心像性および画数との間に有意に高い相関を認めた. これらの知見は, DD児の漢字書字指導において考慮されるべきであると考えられた.
著者
後藤 多可志 宇野 彰 春原 則子 金子 真人 粟屋 徳子 庄司 信行
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.322-331, 2007-10-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
33
被引用文献数
1 1

英語圏では発達性読み書き障害の障害構造の一仮説に, 視覚情報処理における大細胞システムの障害仮説が提唱されている.本研究では, 日本語話者の発達性読み書き障害児の大細胞システムの機能をFrequency Doubling TechnologyとVision Contrast Test Systemを用いて検討した.対象は日本語話者の発達性読み書き障害児5名である.読み書きに関する学習到達度検査, 認知機能検査, 大細胞システムの機能測定および眼球運動の観察を実施した.その結果, 全例視力の問題はなかったが, 動的刺激と静的刺激のコントラスト閾値は健常群に比して低下し, 3例には眼球運動の異常が見られた.以上より, 日本語話者の発達性読み書き障害児にも海外での報告と同様に大細胞システムの障害が認められるのではないかと思われた.大細胞システムの障害は視覚情報処理過程や文字の読み書きに影響を及ぼす可能性が考えられた.
著者
宇野 彰 春原 則子 金子 真人 粟屋 徳子 片野 晶子 狐塚 順子 後藤 多可志 蔦森 英史 三盃 亜美
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.245-251, 2010 (Released:2010-08-31)
参考文献数
8
被引用文献数
1 1

本研究の目的は, 発達性ディスレクシア (DD) と後天性の大脳損傷によって生じる失読失書例との共通点と相違点について要素的認知機能の発達や局在化に関して検討することである. DD群は10名の右手利き例である. 失読失書例は右利きの男児2名である. 失読失書症例KYは8歳にてモヤモヤ病術後, 脳梗塞にて軽度失語症を発症し, その後軽微な失語症とともに失読, 失書症状が認められた発症半年後から追跡している症例である. 症例MSは, 8歳時の脳梗塞により健忘失語が観察された10年以上追跡してきている現在21歳の症例である. いずれも, 失語症状は軽微で失読失書症状が中心となる症状であった. SLTAではDD群, 失読失書例ともに読み書きに関連する項目以外は定型発達児群と差がなく音声言語にかかわる項目は正常域であった. DD群における局所血流低下部位は左下頭頂小葉を含む, 側頭頭頂葉結合領域であった. また, 機能的MRIを用いた実験により, 左下頭頂小葉にある縁上回の賦活量に関して典型発達群と比較して異なる部位であった. 一方, 失読失書2例における共通の大脳の損傷部位は左下頭頂小葉であった. DD群ではROCFT (Rey-Osterrieth Complex Figure Test) において遅延再生得点が平均の-1SDよりも得点が少なかったが, 失読失書2例においてはともに得点低下はなかった. 一方, 発達性ディスレクシアと後天性失読の大脳機能低下部位は類似していたが, 非言語的図形の処理能力は, 発達性ディスレクシア群で低く, 後天性失読例では保たれていた. 後天性言語的図形である文字と非言語的図形の処理は, 少なくとも8歳までの発達途上で機能が分離されてきているように思われた.
著者
春原 則子 宇野 彰 朝日 美奈子 金子 真人 粟屋 徳子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.263-270, 2011 (Released:2011-10-06)
参考文献数
21
被引用文献数
11 7

近年発達性dyslexiaにおいて注目されている音読の流暢性に関して, 音読所要時間を評価尺度として, 872名の小学1年から6年生の典型発達児を対象に, その発達と背景にある認知機能を検討した. 刺激として, ひらがな, カタカナの単語と非語, および文章を使用した. 単語の音読速度は小学3年生までに急速に発達し, その後も緩やかに発達すること, 非語と文章の音読速度は高学年になっても発達する可能性のあることが示された. 日常生活上の必要性を鑑みて, 音読速度も文章での評価が重要と考えられた. 重回帰分析の結果, 音読速度に影響する要因として自動化能力と音韻認識力が示されたが, それぞれの寄与率は学年によって変化し, 単語の音読速度に対する音韻情報処理能力の影響は学年が上がるにつれて小さくなり, 自動化能力の影響が大きくなった. また, 単語と文章については語彙力の寄与も示唆された.
著者
明石 法子 宇野 彰 春原 則子 金子 真人 Taeko N. Wydell 粟屋 徳子 狐塚 順子 後藤 多可志
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.1-7, 2013 (Released:2013-04-03)
参考文献数
10
被引用文献数
2 1

発達性読み書き障害児における漢字単語音読の特徴を明らかにすることを目的とし,小学校2年生から6年生の発達性読み書き障害児37名と典型発達児991名を対象に,「小学生の読み書きスクリーニング検査(STRAW)」漢字単語音読課題における誤反応の分析および単語属性効果の検討を行った.誤反応分析の結果,発達性読み書き障害児は典型発達児に比べ,課題語を他の実在語に読み誤る語性錯読および無回答が多く,文字と音の対応は正しいが語単位では誤っている読み方である類音性錯読の出現率が低いという特徴が認められた.単語属性効果に関しては,親密度の高低にかかわらず,心像性の低い語,すなわちイメージが思い浮かべにくい語で誤りやすいことが明らかになった.こうした特徴には,音韻情報処理過程と視覚情報処理過程双方の障害という発達性読み書き障害児の認知能力が背景となっている可能性があり,診断の補助的指標や有効な学習法の開発に役立つと考えられた.