- 著者
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玉井 湧太
- 出版者
- 同志社大学
- 雑誌
- 特別研究員奨励費
- 巻号頁・発行日
- 2018-04-25
本研究の目的は、外科手術を必要としない、赤外光レーザー人工内耳の開発である。現在、我が国では補聴器を用いても言葉の聞き取りが困難な高度難聴者が約15万人存在する。高度難聴者の聴覚再建方法として、人工内耳の装用が挙げられる。しかし、人工内耳は電極を蝸牛内に挿入する侵襲性の高い外科手術を行う必要がある。そのため、実際に人工内耳を装用しているのは、高度難聴者のわずか数%程度である。赤外光レーザーによるレーザー刺激は、電気刺激とは異なり、生体外のレーザー刺激プローブを組織に接触させることなく神経を刺激できる。本研究では、レーザー刺激を人工内耳に応用することで、イヤホンのように気軽に装着可能な人工内耳の開発を目標として実験を行った。具体的には、外耳道から鼓膜を介して蝸牛神経を刺激する経鼓膜レーザー刺激方法を確立した。 音刺激(クリック音)と経鼓膜レーザー刺激(パルスレーザー)を提示した時の蝸牛応答を記録した。音刺激では、刺激を提示してからl ms以内に有毛細胞由来の蝸牛マイクロフォン電位(CM)が生じ、1-4 msの間に蝸牛神経由来の複合活動電位(CAP)が計測された。レーザー刺激を提示した際には、CMはほとんど計測されずに、CAPのみが、刺激提示後1-4 ms後に計測された。この結果は、経鼓膜レーザー刺激が、有毛細胞をバイパスして蝸牛神経を直接刺激したと考えられる。人工内耳装用者の対象となる感音性難聴者は、有毛細胞に障害を持っているが、蝸牛神経は機能する。このことから。経鼓膜レーザー刺激は感音性難聴に対して有効であると考えられる。また、本研究では、経鼓膜レーザー刺激方法の安全性についても評価した。1時間の連続レーザー照射を提示することで生じる蝸牛応答の変化は、統計学的に有意の変化ではなかった。この結果は、少なくともレーザー刺激が急性の障害を生じさせないことを示唆している。