著者
大門 大朗 渥美 公秀 稲場 圭信 王 文潔
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.18-36, 2020 (Released:2020-08-20)
参考文献数
53
被引用文献数
1

本研究は,2016年に発生した熊本地震後の2町村(益城町・西原村)の災害ボランティアセンター(災害VC)の運営の事例について,インタビューと参与観察により,組織論的観点から分析したものである。災害VCの組織モデルの比較研究からは,混乱を回避することを主眼に据える管理・統制モデルが益城町災害VCを,課題の解決を主眼に据える即興・自律モデルが西原村災害VCを捉える上で有効であることを明らかにした。そして,熊本地震においては,被害の最も大きかった益城町から,管理・統制モデルは現場に根ざした支援から垂直的に,即興・自律モデルは支援の届かないところ(西原村)へ向かうことで水平的に支援が離れていってしまうことで,構造的空隙が生じていた可能性があることを指摘した。その上で,多様なボランティアによる支援を展開する上で,即興・自律モデルを目指す必要があるものの,被害の大きいエリアでは管理・統制モデルが現れやすい。結果的として構造的空隙が生じないよう,即興・自律モデルを被害の大きいエリアで意図的に生成する必要があることを,災害ボランティアの社会運動的側面から提示した。
著者
宮前 良平 置塩 ひかる 王 文潔 佐々木 美和 大門 大朗 稲場 圭信 渥美 公秀
出版者
日本質的心理学会
雑誌
質的心理学研究 (ISSN:24357065)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.73-90, 2022 (Released:2022-04-01)

エスノグラフィは長らく単独の調査者によって書かれてきた。本稿では,それに対して,地震の救急救援期にお けるチームエスノグラフィの事例をもとに,チームとしてエスノグラフィを行うことの方法論的可能性を論じる。 まず,チームエスノグラフィには,超克しなくてならない問題として羅生門問題と共同研究問題があることを確 認する。次に,既存のチームエスノグラフィにおけるチームには3 つの形態があることを整理し,本稿ではその 中でも同じタイミングで同じ対象を観察する,あるいは同じタイミングで異なる対象を観察した事例を扱うこと を述べる。具体的には,熊本地震の際にあらかじめチームを結成してから現地で活動を展開していった過程をエ スノグラフィとして記述していく。最後に,これらの事例をもとに,チームエスノグラフィには①新たな「語り」 を聞きに行く原動力となること②現場で自明となっている前提に気づくことで新たな問いを立てること③「調査 者-対象者」という非対称性を切り崩す可能性があること④現場に新たな規範を持ち込むことで現場の変革をも たらすことの4 点について議論した。