著者
田中 寧
出版者
京都産業大学
雑誌
京都産業大学論集. 社会科学系列 (ISSN:02879719)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.63-82, 2010-03

本稿の主旨は大学進学の経済的メリットを内部収益率の概念を使って説明することであるが、従来の内部収益率の定義にいくつかのバリエーションを加えた分析を試みた。費用については学費以外でも生活費や家庭の負担なども考慮し、賃金については産業別の賃金を使って、様々な内部収益率を算出した。 その結果、現在の日本では、(1)まだ大学進学に経済的メリットはあるが、(2)家庭の負担は大きくメリットをかなり下げる、(3)国立・私立大、自宅・下宿などの違いがメリットの大小に大きく影響を与える、(4)産業間格差がかなり大きく、就職先産業が大学進学のメリットを決めてしまう、(5)教育機会の平等化とそれに伴う社会の平等化が不十分である、(6)グローバル化される国際社会において日本の高等教育市場や労働市場の競争力の低さが懸念される、などの点が指摘された。 このことから本稿は、(1)教育ローンの充実化、(2)授業料の再検討、(3)産業別賃金プロファイル格差の再検討、などを提案する。
著者
山田 昌孝 片岡 佑作 田中 寧
出版者
京都産業大学
雑誌
京都産業大学論集. 社会科学系列 (ISSN:02879719)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.3-46, 2015-03

マーケティングにおける広告の重要性については言うまでもない。広告媒体には数多くのものがあるが、近年におけるweb 関連には特に注目してよい。そこで本論文では、動画CM の評価y を決定的にする考慮要素x(j) j=1,..., 6 は何か、という問題を視聴者へのアンケート結果(15 本のCM × 60 名の回答)をもとに、特に統計解析の立場から考える。具体的にy, x(j) は以下の形をとる。情緒的要素; x(1):演出 x(2):物語の分かり易さ x(3):キャラクターの適切さ認知的要素; x(4):商品適合度 x(5):購買意欲喚起度 x(6):ブランドへの好意 y=1 ... 動画CM に肯定的評価 0 ... 否定的評価 x(j)=1 ... y=1 を引き出す有効な考慮要素と考えられる 0 ... そうでない j=1,..., 6こうしたとき、(1)y, x(j) について2 × 2 等の分割表を作成すると、これらの変数y, x(j) の間には有意な関連があることが分かる。(2)分割表の結果を見ると、CM 評価肯定確率Pr(y=1) が考慮要素 x(j) j=1,..., 6 の部分和の増加関数になっている点が読み取れるので、これを説明する質的回帰モデル(従属変数の取りうる上下の範囲が限定される回帰)を導入し、そうした操作が極めて有効な点を示す。(3)対象の集団はy=1(肯定的評価)、y=0(否定的評価)を構成するものに区分されるが、それぞれの特性を決めるであろう考慮要素x(j) j=1,..., 6 の分布に違いはあるかをAnderson の判別関数によってつきとめる。(4)統計処理上のテクニカルな箇所について追加点を言えば、先行研究の広告評価、要素群は複数回のステップを経て合成される量的変数であり、導入された回帰モデルのフィットはあまり良くない。他方、ここで扱う考慮要素x(j) は0, 1 のみを取る簡単な質的変数であり、single index Σx(j) と評価肯定確率に関する分割表を注意深く点検したのち、Σx(j) によって広告評価を説明する質的回帰を見ると、その結果は評価−要素間の関係をうまく捉えているのが分かる(フィットは極めて良い)。 本稿の新規性と寄与はまさに以上のような点にある。特に(4)は考慮要素群を情緒的な成分x(j) j=1, 2, 3、認知的成分x(j) j=4, 5, 6 に分割した場合、それぞれの成分で、物語の分かり易さx(2)、商品適合度x(4) が動画CM 評価に最も貢献している点を示す。これらの結果は、企業のマーケティング部門に携わる広告担当者、あるいは広告の依頼を受ける動画CM 制作企業にとって有効な情報の1 つとなるであろう。
著者
筑田 真 宮倉 幹夫 田中 寧 小原 喜隆
出版者
医学書院
雑誌
臨床眼科 (ISSN:03705579)
巻号頁・発行日
vol.45, no.6, pp.979-981, 1991-06-15

両眼の老人性白内障と左眼の黄斑部網膜上膜形成による視力低下および変視症を訴える症例に対して,右眼に白内障手術,左眼に白内障手術と同時に硝子体手術を施行した。左眼白内障は硝子体手術が可能な程度の後嚢混濁であったが,黄斑機能の改善を言的に早期に網膜増殖膜の除去と白内障手術を行った。その結果,網膜機能の回復は順調で,視力は改善し,変視症も消失した。また,両眼視機能も良好となった。高齢者の増加に伴って白内障と黄斑病変を有する症例に遭遇することが多くなる。黄斑上膜の手術予後は良好なことから,白内障との同時手術は視機能の回復のために試みる方法と考える。