著者
田中 瞳 植田 拓也 安齋 紗保理 山上 徹也 大森 圭貢 柴 喜崇
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】高齢者における睡眠は加齢性変化によって中途覚醒の増加,午睡の増加,睡眠効率の低下などが認められる。高齢者の中でも認知症の前駆段階である加齢関連認知的低下(以下,Aging-associated Cognitive Decline:AACD(Levy R, 1994))者と類似概念の軽度認知障害高齢者において,健常高齢者より日中の眠気が弱い傾向であるという結果が示されている(Jia-Ming Yu, 2009)が,AACD者の睡眠の特徴を示したものは少ない。そこで本研究の目的は,健常高齢者とAACD者の夜間睡眠と日中の眠気を比較し,違いを明らかにすることとした。</p><p></p><p>【方法】対象はA県B市在住の認知症の確定診断がなされている者と要支援・要介護者を除く65歳以上の高齢者116名で,B市の広報誌と基本チェックリストの返送により募集した。除外基準は認知症の可能性(Five Cognitive Functions(以下,ファイブ・コグ)の総合ランク得点が5~10点),うつ症状(Geriatric Depression Scale-15が5点以上),睡眠剤の使用,脳血管障害による片麻痺・高次脳機能障害,データ欠損がある場合とした。調査は郵送で自記式アンケート,会場でファイブ・コグを実施した。調査項目は基本属性,認知機能(ファイブ・コグ),主観的な睡眠習慣や睡眠の質(ピッツバーグ睡眠質問票日本語版(以下,Japanese version of Pittsburgh Sleep Quality Index:PSQI-J)),日中の眠気(日本語版Epworth Sleepiness Scale(以下,Japanese version of ESS:JESS))である。分析方法はファイブ・コグの総合ランク得点が15点を健常群,11~14点をAACD群として,2群においてPSQI-JとJESSの総得点はMann-Whitney U Test,カットオフ値を基準とした良否はχ二乗検定を行った。なお,有意水準は5%未満とした。</p><p></p><p>【結果】健常群37名,AACD群18名の計55名(男性:18名,女性:37名)を選定し,AACDの出現頻度は母集団の19.83%,基本属性(年齢:健常群72.73±4.91歳,AACD群73.50±4.96歳,教育年数:健常群12.62±2.74年,AACD群12.72±2.08年)に有意差は認められなかった。除外者は,認知症の可能性4名,うつ症状41名,睡眠剤の使用7名,データ欠損9名であった。2群において,PSQI-Jの総得点と良否(健常群31名,AACD群16名),JESSの良否(健常群35名,AACD群16名)に有意差は認められなかったが,JESSの総得点(健常群35名,AACD群16)に有意差(p=0.003)が認められ,健常群に比べ,AACD群の日中の眠気が弱かった。</p><p></p><p>【結論】高齢者において健常群とAACD群の主観的な睡眠習慣や睡眠の質に差は認められなかったが,健常群に比べ,AACD群の日中の眠気が弱かった。</p>
著者
小田中 瞳 下地 伸司 竹生 寛恵 大嶌 理紗 菅谷 勉 藤澤 俊明 川浪 雅光
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.9-21, 2016 (Released:2016-02-29)
参考文献数
48
被引用文献数
1

目的 : 歯科治療に対して恐怖心を有している患者は多く, そのなかでも局所麻酔は全身的偶発症の発生頻度が高いため, 局所麻酔時の恐怖心や不安感を軽減させることは, 安心・安全な歯科治療を行うために重要である. そのための簡便な方法の一つとして音楽鎮静法があるが, 歯科領域ではまだ十分には検討されていない. 本研究の目的は, 健全な若年成人に対して局所麻酔を行った際の音楽鎮静法の効果について, 筆者らが開発したモニターシステムを用いて自律神経機能の変化によって評価することである.  対象と方法 : 22名 (26.5±1.9歳) の健全な若年成人ボランティアを対象とした. 同一被験者に対して, 音楽鎮静法を行わない非音楽鎮静群と音楽鎮静法を行う音楽鎮静群を設けた. 非音楽鎮静群と音楽鎮静群の順序は, 中央割付法でランダム化して決定した. 最初に, 質問票 (DAS) を用いて歯科治療に対する恐怖心を評価した. 次に非音楽鎮静群では, 麻酔前座位 (5分間), 麻酔前仰臥位 (5分間), 局所麻酔 (1/80,000エピネフリン添加塩酸リドカイン, 2分間), 麻酔後仰臥位 (5分間) を順に行った際の血圧・心拍数および自律神経機能について, 本モニターシステムを用いて評価した. 音楽鎮静群では音楽鎮静開始後に同様の評価を行った. また, 麻酔前後の不安感についてVASによる評価を行った. 自律神経機能は, 心電図のR-R間隔を高周波成分 (HF) と低周波成分 (LF) に周波数解析することで, 交感神経機能 (LF/HF) を評価した. 統計学的分析は, Friedman test, Wilcoxon signed-rank testを用いて行った (p<0.05).  結果 : 血圧, 心拍数およびVASは, 各段階でほとんど変化がなく, 有意な差は認められなかった. LF/HFは, 両群ともに局所麻酔薬注入時に麻酔前座位時よりも有意に低い値を示した. また, 麻酔前座位時および麻酔前仰臥位時に非音楽鎮静群よりも音楽鎮静群で有意に低い値を示した.  結論 : 健全な若年成人では, 音楽鎮静法を行った際は, 音楽鎮静法を行わなかった際と比較して局所麻酔前の座位時および仰臥位時において交感神経機能が低下する.
著者
下地 伸司 小田中 瞳 宮田 一生 菅谷 勉 川浪 雅光
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.431-441, 2013

目的:歯周治療を安心・安全に行うためには,その治療が全身状態に及ぼす影響を解明することが重要である.そこで著者らは,歯科治療の影響を評価するための自律神経活動モニターシステムを開発してきた.本研究ではパイロットスタディとして,新規開発モニターシステムを用いて健全な20歳代のボランティアに対して歯周基本治療を行った際の自律神経活動の変化について検討を行うとともに,システム自体の使用感についても評価を行った.対象と方法:10名(25.4±1.4歳)のボランティアに対して口腔内検査,歯周ポケット検査,スケーリングおよび印象採得を行った際の血圧,心拍数,経皮的動脈血酸素飽和度および自律神経活動について,新規開発モニターシステムを用いて評価した.自律神経活動は,心電図のR-R間隔を高周波成分と低周波成分に周波数解析することで,交感神経活動および副交感神経活動を評価した.またシステム自体の使用感については,質問票による調査を行った.成績:質問票への回答から,システムを装着すること自体をつらいと感じる者はいなかった.血圧,心拍数および経皮的動脈血酸素飽和度については,歯周基本治療時には処置開始前と比べてほとんど変化がなく,有意な差は認められなかった.交感神経活動は,処置前のユニット着席時や処置の開始直後に上昇する傾向がみられた.このことから,健全な20歳代に対する歯周基本治療では,処置中の侵害刺激の影響よりも精神的なストレスの影響が大きい可能性が示唆された.結論:新規開発自律神経モニターシステムを用いることで,簡便かつ非侵襲的にストレスなく歯科治療が自律神経活動に及ぼす影響を評価することができる.また,健全な20歳代に対して歯周基本治療を行うと,実際の処置中よりも処置を待つ開始直前や処置開始直後に交感神経活動が活発になる傾向がある.