著者
江尻 愛美 河合 恒 安永 正史 白部 麻樹 伊藤 久美子 植田 拓也 大渕 修一
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
pp.21-155, (Released:2022-06-30)
参考文献数
27

目的 住民主体の通いの場の支援では運営に関わる住民の負担軽減と心理社会的健康の維持が必要である。本研究では,通いの場における役割の違いによる課題認識について把握し継続支援方法を検討すること,役割と心理社会的健康との関連を明らかにすることを目的とした。方法 2018年に,島嶼部を除く東京都内53区市町村の担当者を通じて住民主体の通いの場活動を行う自主グループへ調査員訪問による自記式質問紙調査への協力を依頼し,40区市町155グループ2,367人より回答を得た。グループの運営における役割は,グループのメンバーをまとめるリーダー,リーダーとともにグループを運営するサポーター,とくにグループの取りまとめに関する役割のない参加者の3種類から選択させた。対象者を,通いの場活動における課題(10種類)を1つでも感じている者とそうでない者に分けた。心理的健康はWHO-5精神的健康状態表を,社会的健康はLubben Social Network Scale短縮版(LSNS-6)を尋ねた。役割と認識している課題の内容との関連をカイ二乗検定で,役割および課題認識の有無と心理社会的健康の関連を二元配置共分散分析で検討した。結果 有効回答者数は2,096人で,リーダー174人,サポーター296人,参加者1,626人だった。課題を感じていない者は,リーダー8.6%,サポーター27.7%,参加者53.6%であり有意な関連が認められた(P<0.001)。リーダーは運営メンバー不足,グループの高齢化などの課題を参加者よりも多く認識していた。二元配置共分散分析の結果WHO-5とLSNS-6のいずれも役割の主効果のみ有意であり(いずれもP<0.001),役割と課題認識の交互作用は認められなかった(それぞれP=0.729, P=0.171)。役割間の多重比較の結果リーダーとサポーターは参加者よりWHO-5とLSNS-6の得点が有意に高かった。結論 通いの場において運営に関わる役割を担う者ほど活動時の課題を多く認識し,運営に関わる課題は役割間の認識の差が大きく,役割間での課題の認識のされやすさに応じた支援が有効であると考えられた。一方,課題認識の有無に関わらず,リーダーやサポーターは参加者より心理社会的健康が高かった。通いの場で役割を持つことが心理社会的健康に良い影響を与える可能性について今後は縦断研究による検証が期待される。
著者
小林 江里香 植田 拓也 高橋 淳太 清野 諭 野藤 悠 根本 裕太 倉岡 正高 藤原 佳典
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.7, pp.544-553, 2022-07-15 (Released:2022-07-13)
参考文献数
10

目的 介護保険施策では,近年,介護予防に資する住民活動として,体操など機能訓練中心の「通いの場」だけではなく,多様な「通いの場」の推進が期待されている。本研究では高齢者が参加する自主グループを通いの場として,その類型別の特徴を「参加者の多様性」と「住民の主体性」の点から比較検討した。方法 東京都内の38自治体の介護予防事業関連担当課より,1)3人以上の住民が月に1回以上集まって活動,2)高齢者の参加が多い,または高齢者を含む多世代の住民が参加,3)活動の運営に住民が参加の3条件を満たす175の自主グループの推薦を受け,うち165グループの代表者等よりアンケートの回答を得た。グループの類型化は,活動目的と活動内容により潜在クラス分析を用いて行った。参加者の多様性は,年齢,性別,健康状態等,住民の主体性は,グループの運営や活動実施の支援を行う住民の人数と,活動において住民が果たしている役割から評価した。結果 グループは,体操・運動を中心とした「体操・運動型」,活動目的や実施する活動内容が多い「多目的型」,参加者との交流を目的とし,体操・運動は行わない「交流重視型」,参加者との交流を目的としない「非交流型」の4類型に分かれた。多目的型は,体操・運動型や交流重視型に比べ,幅広い年齢層の参加があり,「移動に介助が必要」「認知症」「虚弱・病弱」など健康に問題を抱える人も参加する傾向があった。また,運営・支援者数も多く,住民が担う役割も多様であった。結論 参加者の多様性,住民の主体性とも多目的型が最も高かった。しかしながら,通いの場の類型は固定的なものではなく,住民のニーズや状況に応じて新たな活動を追加するなどの柔軟な変化を支援する体制も必要と考えられる。
著者
植田 拓也 倉岡 正高 清野 諭 小林 江里香 服部 真治 澤岡 詩野 野藤 悠 本川 佳子 野中 久美子 村山 洋史 藤原 佳典
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.7, pp.497-504, 2022-07-15 (Released:2022-07-13)
参考文献数
13

抄録 一般介護予防施策としての「地域づくりによる介護予防」において「通いの場」への支援は自治体にとって主要事業の一つである。「通いの場」の多様性が求められる一方で,行政が把握し,支援・連携すべき「通いの場」の概念や類型は明確ではない。そこで,東京都健康長寿医療センター研究所(東京都介護予防・フレイル予防推進支援センター)と東京都は「通いの場」の概念整理検討委員会を設置し,東京都内62自治体が,一般介護予防施策のPDCAサイクルに沿って「通いの場」を把握し展開する際の目安として概念および主目的による類型を提示した。 「通いの場」の類型は,3つのタイプ(タイプⅠ:趣味活動,他者と一緒に取り組む就労的活動,ボランティア活動の場等の「共通の生きがい・楽しみを主目的」,タイプⅡ:住民組織が運営するサロン,老人クラブ等の「交流(孤立予防)を主目的」,タイプⅢ:住民組織が運営する体操グループ活動等の「心身機能の維持・向上等を主目的」)に分類した。この類型に基づき,地域資源としての「通いの場」を把握することにより,市区町村・生活圏域単位での地域のニーズと照らし合わせた戦略的かつ系統的な「通いの場」づくりの一助となると考えられる。
著者
長田 美沙季 植田 拓也 柴 喜崇
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】高齢者が運動をすることの意義は数多く報告されているが,いかにして長期にわたり運動継続するかが問題となっている。地域在住高齢者が運動を継続するための要因としてグループでの運動が必要であるとの報告がある(吉田,2006)。一方,体操グループへ自主的に参加している地域在住高齢者における参加継続に関連する要因について縦断的に検討している研究はない。そこで本研究では自主参加型体操グループ(以下,体操会)に参加している地域在住高齢者における,5年間の体操会への参加継続に関連する要因を縦断的に検討することとした。【方法】対象は神奈川県内のR公園でのラジオ体操会会員から募集し,2010年のベースライン調査に参加した地域在住高齢者の内,調査不参加者に対する電話調査を得られなかった13名を除外した84名(男性43名:平均年齢73.2±6.3歳,女性41名:平均年齢70.1±5.2歳)とした。参加者には体力測定および質問紙調査を実施した。調査項目は,基本的属性,握力,開眼片脚立位時間,立位体前屈,Timed Up and Go Test(TUG),5m最速および快適歩行時間,膝伸展筋力,老研式活動能力指標,WHO5精神的健康度評価表(WHO-5),Falls Efficacy Scale International(FESI)である。調査への不参加者には電話調査を実施し,体操会への参加の有無を調査した。また,参加中止者には中止の理由も聴取した。統計解析は,体操会への参加継続の有無を従属変数(継続=1/中止=0)とし,変数減少法による多重ロジスティック回帰分析を行った。【結果】2010年の調査参加者の内,5年後の体操会への参加継続者は53名(63.1%;平均年齢71.8±5.1歳),参加中止者は31名(36.9%;平均年齢71.7±7.4歳)であった。多重ロジスティック回帰分析の結果,5年後の体操会への参加継続に関連する要因として,ベースライン時のFESI(オッズ比:0.953,95%信頼区間:0.978-0.990,p=0.012,平均点±標準偏差;継続群:25.7±10.3点,中止群:33.3±14.9点)が抽出された。体操会への参加中止の理由は疼痛の出現1名(3.2%),疾病の罹患・増悪6名(19.4%),家族の怪我・介護2名(6.5%),死亡2名(6.5%),人間関係2名(6.5%),身内の不幸1名(3.2%),朝起きるのが辛い5名(16.1%),他の運動を始めた1名(3.2%),時間を自由に使いたい2名(6.5%),歳だから1名(3.2%),不明8名(25.8%)であった。【結論】本研究では5年後の体操会への参加継続を低減させる要因として,ベースライン時の転倒自己効力感が関連しており,ベースライン時の転倒自己効力感が低いほど5年後の体操会継続が難しいことが明らかとなった。また,体操会への参加中止理由から,自主参加型体操グループに参加している高齢者においては,疾患への罹患・増悪などの身体的な要因だけでなく,人間関係,家族の介護など,環境及び社会的な要因も参加継続に関係していると推察された。
著者
田中 瞳 植田 拓也 安齋 紗保理 山上 徹也 大森 圭貢 柴 喜崇
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】高齢者における睡眠は加齢性変化によって中途覚醒の増加,午睡の増加,睡眠効率の低下などが認められる。高齢者の中でも認知症の前駆段階である加齢関連認知的低下(以下,Aging-associated Cognitive Decline:AACD(Levy R, 1994))者と類似概念の軽度認知障害高齢者において,健常高齢者より日中の眠気が弱い傾向であるという結果が示されている(Jia-Ming Yu, 2009)が,AACD者の睡眠の特徴を示したものは少ない。そこで本研究の目的は,健常高齢者とAACD者の夜間睡眠と日中の眠気を比較し,違いを明らかにすることとした。</p><p></p><p>【方法】対象はA県B市在住の認知症の確定診断がなされている者と要支援・要介護者を除く65歳以上の高齢者116名で,B市の広報誌と基本チェックリストの返送により募集した。除外基準は認知症の可能性(Five Cognitive Functions(以下,ファイブ・コグ)の総合ランク得点が5~10点),うつ症状(Geriatric Depression Scale-15が5点以上),睡眠剤の使用,脳血管障害による片麻痺・高次脳機能障害,データ欠損がある場合とした。調査は郵送で自記式アンケート,会場でファイブ・コグを実施した。調査項目は基本属性,認知機能(ファイブ・コグ),主観的な睡眠習慣や睡眠の質(ピッツバーグ睡眠質問票日本語版(以下,Japanese version of Pittsburgh Sleep Quality Index:PSQI-J)),日中の眠気(日本語版Epworth Sleepiness Scale(以下,Japanese version of ESS:JESS))である。分析方法はファイブ・コグの総合ランク得点が15点を健常群,11~14点をAACD群として,2群においてPSQI-JとJESSの総得点はMann-Whitney U Test,カットオフ値を基準とした良否はχ二乗検定を行った。なお,有意水準は5%未満とした。</p><p></p><p>【結果】健常群37名,AACD群18名の計55名(男性:18名,女性:37名)を選定し,AACDの出現頻度は母集団の19.83%,基本属性(年齢:健常群72.73±4.91歳,AACD群73.50±4.96歳,教育年数:健常群12.62±2.74年,AACD群12.72±2.08年)に有意差は認められなかった。除外者は,認知症の可能性4名,うつ症状41名,睡眠剤の使用7名,データ欠損9名であった。2群において,PSQI-Jの総得点と良否(健常群31名,AACD群16名),JESSの良否(健常群35名,AACD群16名)に有意差は認められなかったが,JESSの総得点(健常群35名,AACD群16)に有意差(p=0.003)が認められ,健常群に比べ,AACD群の日中の眠気が弱かった。</p><p></p><p>【結論】高齢者において健常群とAACD群の主観的な睡眠習慣や睡眠の質に差は認められなかったが,健常群に比べ,AACD群の日中の眠気が弱かった。</p>
著者
江尻 愛美 河合 恒 安永 正史 白部 麻樹 伊藤 久美子 植田 拓也 大渕 修一
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.7, pp.459-467, 2021-07-15 (Released:2021-07-20)
参考文献数
26

目的 住民主体の通いの場の増加に伴い,住民がよりよい活動を継続できるよう自治体や専門職が支援する「継続支援」の重要性が増している。しかし,有効な通いの場の継続支援方法に関する知見は十分に蓄積されておらず,通いの場参加者が活動時に感じている課題の内容についても明らかになっていない。そこで本研究では,参加者が抱える課題の内容を活動期間に基づいて分析し,活動の時期によって変化する課題を明らかにすることで継続支援の方法を考察することを目的とした。方法 2018年に,島嶼部を除く東京都内53区市町村の担当者を通じて住民主体の通いの場活動を行う自主グループへ調査員訪問による自記式質問紙調査への協力を依頼し,40区市町で活動する155グループ2,367人より回答を得た。通いの場における課題は,10種類の提示からあてはまるものを選択させた。活動期間は,自己申告を基に,1年未満,1年以上2年未満,2年以上4年未満,4年以上の4群に分類した。活動期間と課題認識の関連を検討するため,活動期間を独立変数(参照カテゴリ:1年未満),各課題の認識の有無を従属変数としたロジスティック回帰分析を,Crude,性・年齢で調整したModel1,Model1に加えてグループの活動内容で調整したModel2の3つのモデルで行った。結果 分析対象者は2,194人(男性14.5%,平均年齢76.9歳)だった。活動期間により有意差が認められた課題(オッズ比)は,2年以上4年未満群では,グループの高齢化(1.92),グループの運営メンバーの不足(1.61),参加者の健康・体調(1.47)であり,4年以上群では,グループの高齢化(3.24),グループの運営メンバーの不足(2.63),参加者の不足(2.12),参加者の健康・体調(1.95),活動内容のマンネリ化(1.62),場所の確保(1.48)だった。結論 通いの場の参加者が感じている課題は活動期間により異なっており,継続支援においては活動期間を考慮した支援を実施する必要性があることが示唆された。2年以上の段階では,高齢者特有の健康問題への対処についての情報提供,運営メンバー確保のためのマッチングが必要である。また,4年以上では口コミによる新規参加者獲得促進のため,参加効果を実感させる働きかけが必要である。
著者
植田 拓也 柴 喜崇 畠山 浩太郎 中村 諒太郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.EaOI1038, 2011

【目的】<BR> 脊柱後彎変形(以下,円背)は加齢に伴い進行する高齢者特有の姿勢であり(Milne,1974),高齢者の約60%に認められると報告されている(川田,2006).高齢者の円背の増加はバランス能力低下(坂光,2007),呼吸機能の低下(草刈,2003)などと関係があり,円背の定量的測定の開発が求められている.また,円背進行予防運動の効果を検討するためにも,時間的な制約のある臨床現場ではより効率的で簡便な円背の測定が必要であると考えられる.<BR> 現在,円背の定量的測定のGold standardとして脊柱矢状面レントゲン画像から算出するcobb角がある(Kado,2009).また,自在曲線定規による円背指数(Kyphosis Index(%):以下,KI)が最も安価で簡便な測定方法であるとされている(Lumdon,1898).<BR> そこで本研究の目的は臨床で使用可能であり,簡便な円背の定量的測定方法の開発を目的とし,小型ジャイロセンサーを用いた円背の定量的測定の妥当性及び再現性を検討することとした.<BR>【方法】<BR> 参加者は神奈川県S市のラジオ体操会会員から募集した56歳~86歳の地域在住中高齢者96名(男性50名:平均年齢70.1±5.0歳,女性46名:平均年齢72.7±6.2歳)であった.<BR> 姿勢測定は((株)ユーキ・トレーディング社製,ホライゾンKS08010:以下,姿勢測定装置)を使用し,脊柱後彎角度(Kyphosis Angle;以下,KA)を算出した.本装置は小型ジャイロセンサーが内蔵された測定器(±0.7°の精度)であり,三次元的な角度の測定が短時間かつ正確に可能である.KAは,第7頸椎棘突起(以下,C7)と脊柱の最大後彎部を結ぶ線,脊柱の最大後彎部と両側上後腸骨棘の中点(以下,PSIS中点)を結ぶ線のなす角度である.また,外的基準として円背の程度の測定をKIにて算出した.KIは身体に非侵襲的であり,高値になるほど円背が重度と判断される指標である.また,Cobb角との高い相関が確認され(Milne,1974),検者内,検者間の再現性のある測定方法である(Lundon,1998).KIの算出は,測定を立位にて実施した.C7と両側上後腸骨棘を触診し,C7からPSIS中点までの脊柱アライメントを自在曲線定規で型どりそのアライメントを紙にトレースした後,C7からPSIS中点を結ぶ線との交点までの長さL(cm)と直線Lから彎曲頂点までの高さH(cm)を記録し,H/L×100で算出した.<BR> 統計解析は姿勢測定装置による円背測定の妥当性について,KIとKAの関連をPearsonの積率相関係数を用いて検討した.また,2回及び3回連続測定の再現性について,級内相関係数(Intraclass Correlation Coefficient:以下 ICC(1,1),ICC(1,2),ICC(1,3))を算出し,適切な測定回数を検討した.なお,有意水準は1%未満とした.<BR>【説明と同意】<BR> 参加者には事前に書面及び口頭で本研究について十分な説明を行い,書面にて自署において同意を得た.<BR>【結果】<BR> 参加者全体のKA及びKIの平均値はKA:163.8±6.8°,KI:8.4±2.6%であった.KAとKIの間には,全参加者(r=-.63,<I>P=.00</I>,n=96),男性(r=-.64,<I>P=.00</I>,n=50),女性(r=-.62,<I>P=.00</I>,n=46)において統計学的有意な中等度の相関が確認された.<BR> KAの連続測定の再現性の検討では,2回連続ではICC(1,1):0.967(99%Confidence interval(99%CI);0.935-0.983),ICC(1,2):0.983(99%CI;0.966-0.991),3回連続ではICC(1,1):0.958(99%CI;0.9267-0.9766),ICC(1,3):0.985(99%CI;0.974-0.992)であった.<BR>【考察】<BR> 本研究では姿勢測定装置による円背の定量的測定の妥当性と再現性を検討した.結果,姿勢測定装置による円背測定の妥当性が確認された.また,ICCは0.9以上で"優秀"と定義されていること(Shrout,1979)から,2回及び3回連続測定の高い再現性が確認された.これは3回の連続測定の再現性に関しては,本装置による体幹前傾角度の計測法を検討した先行研究(Suzuki,submission)とも一致する結果となった.姿勢測定装置による円背測定の回数はKAのICC(1,1)が0.95以上であったことから1回の測定でも十分再現性は高いといえる.つまり,姿勢測定装置による円背の測定は1人の検者が1回測定すれば十分であるということができる.以上のことから,姿勢測定装置による円背測定は,妥当性,連続測定の再現性が高く,臨床現場において簡便に実施可能な円背の定量的測定方法であることが示唆された.<BR> しかし,本研究では姿勢測定装置での日の違いによる検者内再現性及び検者間再現性は検討しておらず,今後はこれらについても検討する必要がある.<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 現在,求められている科学根拠に基づく理学療法の確立には治療効果を定量的,客観的に測定することが必要である.また,その測定方法は簡便であり,時間に制約のある臨床場面で容易に使用できることが前提となるべきである.本研究において,効率的かつ正確に円背の定量的測定が可能になることで,円背の進行予防に対する効果的な訓練方法の確立につながると考えられる.