著者
上井 雅史 平野 弘之 伊藤 昭 田中 隆晴 伊東 馨
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.C4P1153, 2010

【目的】変形性膝関節症(以下膝OA)は関節組織の慢性の退行性変化と増殖性変化のため、関節の変形をきたす疾患である。老化現象に機械的な影響が加わり関節軟骨や骨の変形、半月板の変性、磨耗、筋萎縮、筋短縮、結合組織の変性がおきる。関節変形が初期から中期までの場合、保存治療が選択される場合が多い。膝OAに対する一般的なリハビリテーション(以下リハ)の内容は筋力強化が中心で、姿勢調整、動作パターンの改善、減量および生活指導などが行われる。近年では股関節周囲筋の筋力訓練を行うことで歩行能力や姿勢アライメントが改善するという報告がある。大腿四頭筋強化に股関節周囲筋の強化を加えて実施することがすすめられる。運動リハは可動域訓練、筋力訓練など痛みや疲労を伴う。敬遠される場合も少なくない。筋力強化のプログラム内容の増加が患者の負担になり、リハの継続を妨げる可能性がある。膝OAの運動療法は長期にわたるとリハ脱落群の増加が増える。モチベーション維持が大切である。今回、当医院の膝OA患者に大臀筋強化を実施した。その結果、実施前に比較し疼痛の軽減をみた。大臀筋訓練の影響を、文献的考察を交え検討した。<BR>【方法】対象は当医院に通院する、屋外歩行が自立レベルの患者11名14膝。通常の訓練後、歩行時VASを測定し大臀筋トレーニングを実施後、歩行時VASを測定しその前後で比較した。大臀筋トレーニングをMMT測定と同じ腹臥位、膝関節を90度程度屈曲した状態で行った。1クール10回を3セット実施した。腹臥位をとれない患者には側臥位で実施した。疼痛はVisual analog scale(VAS)を使用し0から100の目盛りを患者に示してもらい測定した。統計処理の手法にはt検定を用いた。<BR>【説明と同意】今回の研究は、内容、意義を説明して了解を得た患者に対してのみ実施した。<BR>【結果】大臀筋強化トレーニング実施前のVAS値が2.36±2.84であったものが、実施後には1.64+2.23と実施前に比較し減少(p<0.05)していた。<BR>【考察】膝OAの運動療法は、数多くの研究によって有効であることが知られている。いくつかの前向き、無作為の研究でSLR訓練をはじめとする膝関節伸展筋の強化で、それ単独でも膝OAの疼痛とADL障害の軽快に有効であるといわれる。その効果はNSAIDに優るとも劣らない。大殿筋の強化も骨盤帯の安定性増加や、関節軟骨の変形による股関節内転モーメント減少を緩和し、下肢、膝関節の姿勢アライメントの改善が期待できる。一方、運動療法で一定の効果を得るには、比較的長期の継続が必要である。時により疲労や筋肉痛をともない、長期にわたる筋力強化はモチベーションが大切となる。今回の研究で、大臀筋トレーニング実施前後で、VAS値が2.36±2.84から1.64+2.23と減少を示し、短期でも疼痛の軽減に有意な効果があることがわかった。一時的であっても、膝OAの主症状である疼痛の緩和によって、リハの満足度の向上、モチベーションの維持につながる可能性がある。大臀筋トレーニングは膝関節自体にストレスがない利点もある。疼痛緩和の継続が短いなどの意見や、運動方法、運動強度の設定などがあいまいだともいわれ、今後、比較検討が待たれる。<BR>【理学療法学研究としての意義】膝OAは日本全体で高齢化が進む中でますます増加しつつある。本研究は、大臀筋強化訓練による疼痛の一時的軽減が、膝OA患者のADL維持および、人工関節への移行時期を遅らせるための運動療法の継続を促すと考え行った。
著者
上井 雅史 伊藤 昭 田中 隆晴 平野 弘之
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.D3P2516, 2009 (Released:2009-04-25)

【はじめに】ベゲタミンの大量服用で横紋筋融解症を呈した統合失調症症例の大腿四頭筋麻痺の1例を経験した.リハビリテーション(以下リハ)の経過につき報告する.今回の報告はヘルシンキ宣言に従い症例に説明をして了承を得た.【症例】31歳、女性.既往歴:統合失調症、糖尿病.【現病歴】2007年6月中旬にベゲタミンを大量服用し意識障害が出現.某大学病院救命センターに搬送され血液浄化療法を受ける.発症10日目からリハが開始され、7月12日に退院となった.7月13日に当院を受診しリハ開始となった.【初期評価】徒手筋力テスト(MMT)の結果:両股関節屈曲4および外転が4であった.両膝関節伸展が0、屈曲が4であった.両足関節伸展が4、屈曲が4であった. ADL能力:Barthel index 55点、起居動作は手すりつき椅子自立、歩行能力はロフストランド杖使用で屋内監視、屋外歩行は軽介助であった.【経過】2007年7月17日から筋力およびADL訓練を開始した.8月11日に歩行が自立、階段昇降も監視で可能となった.9月1日には大腿四頭筋に筋収縮が感じられMMTが1となった.9月14日に階段の上りが自立した.9月21日には階段の下りが自立した.11月6日に膝関節伸展が2となった.1月28日には膝関節伸展が3となった.4月22日には膝伸展筋力が4であった.春先になると思考がまとまらないなど統合失調症の症状が増悪、および筋力訓練が辛いとなどの理由で通院頻度が減少した.そのため運動プログラムを一時中止、ストレッチや温熱療法などに変更することで、通院中止による社会参加の機会が減少するのを防止した.その後、活動面は徐々に増加し10月中旬より授産施設に復帰が可能となった.【考察】統合失調症を合併する横紋筋融解症の経過報告は我々のみた限りで少ない.類似した事例として阪神大震災時のクラッシュ症候群の報告がある.それによると16週以降でも歩行に至らなかった症例が10例中3例と筋力回復には長期要すると予想された.統合失調症へのリハが社会適応を目的としている事も考慮し、筋力回復主体ではなくclose packed position(CPP)で骨靭帯性の支持力を利用した歩行をさせることで、早期に歩行を自立させ早期社会復帰に向けモチベーションを維持させた.筋力が十分でない場合Closed kinetic chainでは靭帯、軟部組織に対し負担を増加させる.そのためOpen kinetic chainから開始するのが良いといわれている.本症例でもADL自立度が改善する一方で、膝関節に力学的負担が増加し膝関節痛が出現し筋力改善がプログラムを中断してしまった.統合失調症は自己管理能力が必要以上に乏しく肥満、関節負担の軽減が困難である.歩行動作を優先しプログラムが中断した点は反省すべき点であった.筋力訓練の停滞はあったが、一旦獲得した機能が著しく低下することがなかった.通院による身体活動および社会への参加の増加が身体機能維持につながったためと考えられた.
著者
伊藤 昭 田中 隆晴 上井 雅史 平野 弘之(MD、PhD)
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第28回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.117, 2009 (Released:2009-08-11)

【目的】平成18年4月に厚生労働省が「医療機能の分化・連携と在宅生活への早期復帰」を掲げた。平成20年8月時の一般病床平均在院日数が18.8日と、平成15年の20.7日に比べ短縮した。在宅リハビリテーション(以下:リハ)を担う診療所リハの役割が重要になってきた。今回、我々は診療所の運動器リハ開設から1年8ヶ月間の運動器リハの来院数の推移、疾患群別来院比率及び天気変化による来院数変化の関係について検討した。 【対象】平成19年6月~平成21年1月の間に運動器リハを行った512例(男性131、女性381)平均年齢が66.2±16.3歳であった。 【方法】平成19年6月~平成21年1月までの月別来院数を集計した。対象の疾患を肩関節疾患群(以下:肩群)腰部疾患群(以下:腰群)膝関節疾患群(以下:膝群)頸部疾患群(以下:頸群)2種類以上の疾患複合群(以下:複合群)骨折後リハ群(以下:骨折群)手術後リハ群(以下:手術群)及びその他群(脳血管障害、難病等)に分け検討した。天気と来院数の変化の関係を気象庁のデーターを参考に検討した。 【結果】平成19年6月の一日平均リハ施行者数が40.3名で、平成20年12月には66.3名となった。対象疾患割合がそれぞれ、肩群8.3%腰群23.9%膝群15.7%頸群8.7%複合群25.7%骨折群1.9%手術群5.3%及びその他群10.5%であった。開設後に手術治療を施行した症例が6例であった。晴れ曇り雨の日及び日内気温変化が7度以上の来院率に有意差がなかった。悪天候日に来院率が上昇した群がその他群及び複合群で、下降した群が肩群及び膝群であった。前日との気圧が10hPa降下したとき肩群及びその他群の来院率が上昇し、腰群が下降した。他の群に変化がなかった。 【考察】平成19年6月から平成20年12月までに一日平均リハ施行者数が64.5%増加した。1998年の厚生労働省調査で日本の有訴率が腰痛、肩こり及び四肢関節痛の順に多く、日常生活及び外出に影響ある者が65歳以上で11%あった。当院の約8割の対象症例に同様の症状を認め、痛みで日常生活に影響する程になると症状の悪化防止・改善目的で来院すると考えられる。天気の変化では悪天候日及び気圧下降でその他群の来院率が上昇した。その他群の内訳が52%が脳血管障害、パーキンソン氏病等の難病疾患で19%が50歳以下の症例であった。他群と異なり付き添い者が多く、若く、ニーズ及びモチベーションが高い為天候に左右されず来院したと考えられる。また、その他群と肩群が気圧変化に伴う疼痛の変化が少ないと考えられた。一方、腰群は佐藤らと同様に気圧降下で痛みが増強し外出を控えたと考えられた。
著者
伊藤 昭 上井 雅史 田中 隆晴 平野 弘之
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第27回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.24, 2008 (Released:2008-08-01)

【目的】肩関節周囲炎の治療期間に関する先行研究及び報告は多い。治療期間と運動療法の頻度及び注射療法の頻度に関する統一見解がない。今回、我々は肩関節周囲炎の治療期間と運動療法の頻度及び注射療法の関係について検討したので報告する。【対象】平成18年6月から平成20年1月の間に当院を受診した肩関節周囲炎患者28例34肩(右肩19肩、左肩15肩)であった。男性4例、女性24例、平均年齢64.7±9.6歳であった。リタイヤ患者及び変形性肩関節症など病変部位が明らかな患者は除外した。【方法】治療期間を、短期間群(1~4ヶ月間通院、n=17)及び長期間群(5ヶ月間以上通院、n=17)の2群に分けた。運動療法を週2回未満施行群(n=21)と週2回以上施行群(n=13)に分けた。注射療法をヒアルロン酸ナトリウム(以下、ヒアルロン注)の注射頻度及びステロイドの注射回数に分けた。ヒアルロン注の頻度がそれぞれ月1回(n=10),2週間に1回(n=13)及び2週間に1回以上(n=11)に分けて検討した。治療開始時と最終時の肩関節屈曲及び外転角度で治療成績を評価した。統計処理にStatcel2を用いた。各群間の比較に対応のあるt検定を用いた。治療期間と運動療法の頻度及びヒアルロン注頻度の相関関係をPearson’sの相関係数検定を用いた。有意水準を1%未満とした。【結果】長期間群の治療開始時と最終時の屈曲及び外転角度の間に有意差を認めた(p<0.01)。運動療法の週2回未満群と週2回以上群の治療開始時と最終時の屈曲及び外転角度の間に有意差を認めた(p<0.01)。ヒアルロン注の2週間に1度群の治療開始時と最終時の屈曲及び外転角度の間に有意差を認めた(p<0.01)。ステロイド注射回数の1回(n=12)と3回以上(n=6)の治療開始時と最終時の外転可動域の間に有意差を認めた(p<0.01)。治療期間と運動療法及びヒアルロン注との間には相関関係が認められなかった。治療期間とステロイド注射回数との間に正の相関関係が認められた(r=0.58)。【考察】先行研究で運動療法とヒアルロン注を併用することで関節可動域の改善と自覚・他覚所見(自発痛、夜間痛、運動時痛及び圧痛)の改善が得られるといわれている。今回の検討では、運動療法が週2回以上おこなっている症例でヒアルロン注を2週間に1度実施し、かつ通院期間中1回のステロイド注射をうけていた症例は有意に関節可動域の治療成績がよかった。治療期間が5ヶ月以上必要でだった。それぞれ治療期間、運動療法の頻度及びヒアルロン注頻度の間に相関関係が認められなかった。この理由として、肩関節の運動痛の強さがあげられる。
著者
上井 雅史 伊藤 昭 田中 隆晴 平野 弘之
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.73, 2008

【目的】<BR> プライマリケア診療ではうつ病患者の80% に頭痛、腹痛、腰部・関節・首など骨格筋系の疼痛のような身体症状がみられる。気象各要素と痛みの度合いの関係に関する報告が多い。能力障害、VAS(Visual alanogue scale)および抑うつの相関関係をみる報告もある。しかし、VAS増減値から比較した報告は少ない。今回、我々は当クリニックを受診した患者に対しアンケートを行い、VASの増減、うつ傾向の度合いおよび天候に注目して検討した。これらの結果につき文献的考察を交え報告する。<BR>【対象】<BR> 対象者は運動器疾患を有し運動療法を実施している患者52名(男3名、女49名)であった。アンケート調査の実施に合意を得られたのは30名(男1名 女29名)、平均年齢は72.8±8.1歳であった。データ欠損、回答の拒否などを対象から除外した。<BR>【調査の方法と内容】<BR> 調査期間を2008/2/4より2/10の一週間とした。VAS測定時間を全例午前9時頃に行った。うつの評価にSDS(Self-rating Depression Scale)を用いSDS40未満を正常群、40点以上を抑うつ群とした。疼痛の評価にVASを使用した。疼痛の期間内でのVAS最大値から最小値を引いたものを疼痛の増減値とした。気象データは東京管区気象台の午前9時のデータを用いた。期間内での最大、最小VAS値を測定した。検討項目がVAS増減値とSDS、および天候それぞれのデータの、最大および最小の日時のVAS変化とした。統計学解析にMann-whitney U testを用いた。<BR>【結果】<BR> SDS40点未満の正常群が15例であった。40点以上の抑うつ傾向群15例であった。SDSとVAS増減値(p<0.05)の間には関連性が認められた。SDS40点未満の正常群ではVAS増減値の平均が1.34±0.89であった。一方SDS40点以上の抑うつ傾向群VAS増減値平均が3.80±2.86であった。期間内での気圧、温度および湿度とVAS値の間に相関関係を認めなかった。<BR>【考察】<BR> 今回の調査でVAS測定を9時としたのは、運動量による変動を極力除外するためであった。抑うつ群にVAS値の増減が有意に高かった。気象条件よりもうつ因子の方が疼痛の増悪に影響していた。現在セロトニン系とノルアドレナリンの下行経路に異常が発生すると機械的な感覚刺激が、不快なまたは痛みを伴う身体症状へと転換されることがわかっている。よって運動器疾患であっても、身体と心理面の疼痛原因の判別が重要で、精神心理面を考慮した評価、治療が必要である。