著者
小林 裕生 森田 伸 田仲 勝一 内田 茂博 伊藤 康弘 藤岡 修司 刈谷 友洋 板東 正記 田中 聡 金井 秀作 有馬 信男 山本 哲司
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Fb0802, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 温熱療法は臨床において,加温による生理反応を利用し疼痛軽減,循環改善,軟部組織の伸張性向上などを目的に施行されている.温熱療法は一般に筋力トレーニングや動作練習といった運動療法前に施行される場合が多く,温熱負荷が筋力へ及ぼす影響を理解しておく必要がある.しかし,温熱負荷による筋力への影響についての報告は,種々の報告があり統一した結論には至っていない.本研究の目的は,一般的な温熱療法である HotPack(以下,HP)を使用した際の,深部温の変化に伴う等速性膝伸展筋力への影響を検討することである.【方法】 対象は,骨関節疾患を有さず運動習慣のない健常人9名(男性6名・女性3名,平均年齢29.2±5.2歳,BMI 22.4±3.3)とした.測定条件は,角速度60deg/sec・180deg/secの2種類の等速性膝伸展筋力(以下ISOK60・ISOK180)をHP施行しない場合と施行する場合で測定する4条件(以下 ISOK60・HP-ISOK60・ISOK180・HP-ISOK180)とした. HPは乾熱を使用し,端坐位にて利き脚の大腿前面に20分施行した.温度測定には深部温度計コアテンプ(CT‐210,TERUMO )を使用.皮下10mmの深部温の測定が可能であるプローブを大腿直筋中央直上に固定.安静時と HP 施行直後にプローブを装着し,測定器から温度が安定したという表示が出た時点の数値を深部温として記録した.等速性膝伸展筋力は, CYBEX Norm を使用.測定範囲は膝関節伸展0°・屈曲90°に設定,各速度で伸展・屈曲を3回実施した.なお,測定は筋疲労の影響を考慮し各条件は別日に実施した. 深部温の変化は,HP施行前とHP施行直後の深部温の平均値を算出し,等速性膝伸展筋力はピークトルク値を体重で正規化し平均値を算出した.いずれも統計学的検定は,各速度で HP を施行する場合と施行しない場合を対応のあるt検定で比較した.なお有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 全ての被験者に本研究の趣旨と内容,起こりうるリスクを説明し,書面にて同意を得た者のみ実験を行った.【結果】 深部温の変化は, HP 施行前34.44±0.52℃, HP 施行後37.57±0.24℃であり有意に温度上昇を認めた(p<0.001).等速性膝伸展筋力に関しては,ISOK60で1.9±0.7Nm/Kg,HP-ISOK60で2.0±0.5 Nm/Kg, ISOK180で1.2±0.4 Nm/Kg, HP-ISOK180で1.4±0.5 Nm/Kg という結果を示し, ISOK180と HP-ISOK180で有意差を認めた(p=0.01).【考察】 一般に HP は表在を加温する温熱療法であるが, HP 施行により深部温度は有意に上昇していた.加温による筋への影響について,生理学的には組織温が上昇することで末梢循環では代謝亢進や血流増大,ATP利用の活性化,神経・筋系では末梢神経伝達速度の上昇,筋線維伝導速度上昇に伴う筋張力の増加が期待できるという報告がある.今回の研究では,等速性膝伸展筋力の変化に関して, ISOK60とHP-ISOK60は有意差がみられなかったが, ISOK180と HP-ISOK180で有意差がみられた.したがって,深部温の上昇に伴う組織の生理学的変化はより速い速度での筋収縮に影響することが示唆された.この生理学的背景としては,組織温の上昇に伴う ATP の利用の活性化が第一に考えられる.筋肉は強く,瞬発力を要する筋張力を発揮する場合,運動単位としては速筋線維の活動が初期に起こるとされている. ATP 産生が酸化的に起こる遅筋線維と比較しても速筋線維は ATP 産生が解糖系であるためエネルギー遊離速度が速いといわれていることから,温度上昇により速筋線維の活動が賦活され筋力増加につながったのではないかと考えられる.さらに,神経伝達速度の上昇に伴い筋収縮反応性が向上したことも影響した要因の1つだと予想される. 今後は温度上昇部位の詳細な評価や温熱の深達度に影響を及ぼす皮下脂肪厚測定,誘発筋電図による神経伝達速度の評価を行い,今回の結果を詳細に検討していく必要がある.【理学療法学研究としての意義】 等速性膝伸展筋力は,筋収縮の特異性として速い角速度ほど動作能力に結びつきやすいといわれている.今回の研究において,深部温の上昇に伴いより速い角速度での等速性筋力が増加したことは,温熱療法が筋力へ影響することを示唆する結果となった.このことは,運動療法前に温熱療法を行うことの意義が拡大すると考えられる.
著者
大塚 宏司 田仲 勝一 入船 朱美 井上 里美 北山 哲也 吉田 健太郎 新田 竜司 河野 正晴 廣瀬 友彦
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.C3P1432-C3P1432, 2009

【はじめに】2005年より、理学療法士(以下PT)として社会人サッカーチームに関わりトレーナー活動を行っている.本チームは現在、地域リーグに所属しているが、将来のJリーグ入りを目指して活動している.<BR>サッカー競技は非常に激しいコンタクトスポーツであり、ケガをするリスクも高い.ケガの予防に努めることはトレーナーとして非常に難しい責務でもある.競技スポーツの現場において、実際に起こったケガを調査・分析することで、サッカー選手におけるスポーツ傷害にどのような特徴があるのかを明らかにし、その予防策を示すことを目的とした.<BR><BR>【対象と方法】2005年~2007年の過去3年間に本チームに所属した選手92名の内、当院整形外科を受診した選手は32名で、件数はのべ49件であった.調査データーより(1)各年度の有疾患率(受診件数/各年度在籍選手数)を算出(2)外傷・障害の発生率(3)受傷機転(4)発生部位(5)発生時期(6)ポジション別発生状況(7)試合復帰状況を後方視的に調査した.<BR><BR>【結果】(1)各年度の有疾患率:05年27.5%・06年50.0%・07年85.1%であった.(2)外傷・障害の発生率:外傷が31件(63%)、障害が18件(37%)であった.(3)受傷機転:練習中26件(53%)、試合中23件(47%)に分類された.(4)発生部位:足関節・足部14件(28.5%)、膝関節10件(20.4%)、大腿部4件(8.1%)、下腿部3件(7.5%)であり、筋腱損傷では大腿部、靭帯損傷では膝関節・足関節が多かった.(5)発生時期:月別にみると4月が最も発生件数が多く、3月と5月と8月と続いた.(6)ポジション別発生状況:MFが20件(41%)で最も多く、ついでDFが16件(32.6%)、FWが10件(20.4%)、GKが3件(6%)であった.(7)試合復帰状況:重症度を1週間以内を軽症、1週間以上4週間未満を中等症、4週間以上を重症と分け、軽症:28件(57.1%)、05年5件・06年10件・07年13件、中等症:8件(16.4件)、05年0件・06年4件・07年4件、重症:13件(26.5%)、05年3件・06年4件・07年6件であった.<BR><BR>【考察】ケガの発生状況は下肢に集中しており、サッカーの競技特性と一致し、その6割がコンタクトプレイによる外傷が原因であった.各年度の有疾患率が増加したのは、チームドクターやPTが関わることでケガに対する意識が高まり初期症状のうちに受診してくる選手が増えたためと考えている.年度別にて重症例が増えていることに関しては、試合中におこるアクシデントにて長期離脱が余儀なくされたケースであった.