著者
内田 茂博
出版者
医学書院
雑誌
理学療法ジャーナル (ISSN:09150552)
巻号頁・発行日
vol.52, no.7, pp.653, 2018-07-15

身体重心(center of gravity:COG)とは身体の質量分布の中心であり,姿勢の変化によって重心の位置は変化する.静的立位姿勢における身体重心の位置は第2仙椎の高さで骨盤の中央と解釈されているが,これはおおよその位置であり姿勢の変化によりその位置は異なってくる.生体力学では合成重心の考え方により身体重心を求めている.合成重心とは,図1に示すように身体の皮膚上に貼付したマーカーより,頭部,体幹部,上腕部,前腕部,大腿部,下腿部,足部などの各体節(セグメント)の位置情報が求められ,各体節の重心位置と質量が計算される.各体節の重心位置,質量より上半身の合成重心,下半身の合成重心が求められ,最後に身体全体の重心の位置が求められる.このように身体重心は各体節の位置によって求められた合成重心であるため,体節の位置関係が変化すれば身体重心の位置も異なってくることを理解する必要がある. 足圧中心(center of pressure:COP)とは,床反力作用点,圧力中心とも表現され,床と身体との接触面に働く力の分布の中心点である.図2に示すように足底が床面に接触した場合,矢印に示すような多くのさまざまな大きさや方向に向かった反力が足底に生じる.多数の足底に生じる床反力を合成し,1つの矢印にしたものを床反力ベクトルとよび,矢印の根本部分が床反力作用点となり足圧中心点を示している.両足で床に接している場合では,右足の床反力作用点が1点,左足の床反力作用点が1点と各々の足圧中心点を示すことができるが,左右の床反力作用点のつりあう点を合成床反力作用点として考え,足圧中心点として求めることがある.
著者
小林 裕生 森田 伸 田仲 勝一 内田 茂博 伊藤 康弘 藤岡 修司 刈谷 友洋 板東 正記 田中 聡 金井 秀作 有馬 信男 山本 哲司
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Fb0802, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 温熱療法は臨床において,加温による生理反応を利用し疼痛軽減,循環改善,軟部組織の伸張性向上などを目的に施行されている.温熱療法は一般に筋力トレーニングや動作練習といった運動療法前に施行される場合が多く,温熱負荷が筋力へ及ぼす影響を理解しておく必要がある.しかし,温熱負荷による筋力への影響についての報告は,種々の報告があり統一した結論には至っていない.本研究の目的は,一般的な温熱療法である HotPack(以下,HP)を使用した際の,深部温の変化に伴う等速性膝伸展筋力への影響を検討することである.【方法】 対象は,骨関節疾患を有さず運動習慣のない健常人9名(男性6名・女性3名,平均年齢29.2±5.2歳,BMI 22.4±3.3)とした.測定条件は,角速度60deg/sec・180deg/secの2種類の等速性膝伸展筋力(以下ISOK60・ISOK180)をHP施行しない場合と施行する場合で測定する4条件(以下 ISOK60・HP-ISOK60・ISOK180・HP-ISOK180)とした. HPは乾熱を使用し,端坐位にて利き脚の大腿前面に20分施行した.温度測定には深部温度計コアテンプ(CT‐210,TERUMO )を使用.皮下10mmの深部温の測定が可能であるプローブを大腿直筋中央直上に固定.安静時と HP 施行直後にプローブを装着し,測定器から温度が安定したという表示が出た時点の数値を深部温として記録した.等速性膝伸展筋力は, CYBEX Norm を使用.測定範囲は膝関節伸展0°・屈曲90°に設定,各速度で伸展・屈曲を3回実施した.なお,測定は筋疲労の影響を考慮し各条件は別日に実施した. 深部温の変化は,HP施行前とHP施行直後の深部温の平均値を算出し,等速性膝伸展筋力はピークトルク値を体重で正規化し平均値を算出した.いずれも統計学的検定は,各速度で HP を施行する場合と施行しない場合を対応のあるt検定で比較した.なお有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 全ての被験者に本研究の趣旨と内容,起こりうるリスクを説明し,書面にて同意を得た者のみ実験を行った.【結果】 深部温の変化は, HP 施行前34.44±0.52℃, HP 施行後37.57±0.24℃であり有意に温度上昇を認めた(p<0.001).等速性膝伸展筋力に関しては,ISOK60で1.9±0.7Nm/Kg,HP-ISOK60で2.0±0.5 Nm/Kg, ISOK180で1.2±0.4 Nm/Kg, HP-ISOK180で1.4±0.5 Nm/Kg という結果を示し, ISOK180と HP-ISOK180で有意差を認めた(p=0.01).【考察】 一般に HP は表在を加温する温熱療法であるが, HP 施行により深部温度は有意に上昇していた.加温による筋への影響について,生理学的には組織温が上昇することで末梢循環では代謝亢進や血流増大,ATP利用の活性化,神経・筋系では末梢神経伝達速度の上昇,筋線維伝導速度上昇に伴う筋張力の増加が期待できるという報告がある.今回の研究では,等速性膝伸展筋力の変化に関して, ISOK60とHP-ISOK60は有意差がみられなかったが, ISOK180と HP-ISOK180で有意差がみられた.したがって,深部温の上昇に伴う組織の生理学的変化はより速い速度での筋収縮に影響することが示唆された.この生理学的背景としては,組織温の上昇に伴う ATP の利用の活性化が第一に考えられる.筋肉は強く,瞬発力を要する筋張力を発揮する場合,運動単位としては速筋線維の活動が初期に起こるとされている. ATP 産生が酸化的に起こる遅筋線維と比較しても速筋線維は ATP 産生が解糖系であるためエネルギー遊離速度が速いといわれていることから,温度上昇により速筋線維の活動が賦活され筋力増加につながったのではないかと考えられる.さらに,神経伝達速度の上昇に伴い筋収縮反応性が向上したことも影響した要因の1つだと予想される. 今後は温度上昇部位の詳細な評価や温熱の深達度に影響を及ぼす皮下脂肪厚測定,誘発筋電図による神経伝達速度の評価を行い,今回の結果を詳細に検討していく必要がある.【理学療法学研究としての意義】 等速性膝伸展筋力は,筋収縮の特異性として速い角速度ほど動作能力に結びつきやすいといわれている.今回の研究において,深部温の上昇に伴いより速い角速度での等速性筋力が増加したことは,温熱療法が筋力へ影響することを示唆する結果となった.このことは,運動療法前に温熱療法を行うことの意義が拡大すると考えられる.
著者
内田 茂博 玉利 光太郎 横山 茂樹 川上 照彦 加藤 浩 山田 英司 有馬 信男 山本 哲司
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.38, no.6, pp.442-448, 2011-10-20 (Released:2018-08-25)
参考文献数
26
被引用文献数
2

【目的】本研究では,術前の身体・精神的機能が人工膝関節置換術後2週の運動機能にどう影響しているかを明らかにすることを目的として縦断的に調査を行った。【方法】変形性膝関節症と診断され人工膝関節置換術が施行された38名(平均年齢75.0 ± 6.1歳)を対象とし,術前の身体・精神的機能および術後2週のTimed Up and Go test(TUG)を計測した。交絡因子の影響を取り除くため,得られたデータは重回帰モデルを用いて分析した。【結果】術後2週の運動機能であるTUGを予測する因子として,術前の安静時痛,自己効力感,交絡因子である非術側膝伸展可動域が抽出された。【結論】術前の自己効力感,安静時痛および非術側膝伸展可動域は,術後早期の運動機能指標であるTUGの予測因子であることが示唆された。
著者
天野 徹哉 玉利 光太郎 内田 茂博 伊藤 秀幸 田中 繁治 森川 真也
出版者
常葉大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では,人工膝関節全置換術(TKA)適用患者の身体機能と運動機能の測定を行い,(1)術後早期の機能回復を明らかにすること,(2)各機能の標準値について検討することを目的とした。本研究の結果より,術後14日目という短期間では,膝関節筋力・膝屈曲ROMと歩行速度は,術前機能まで回復しないことが明らかになった。また,各機能の関連因子を基に階級分けを行い,TKA前の身体機能検査と運動機能検査の標準値を算出した。本研究で得られた知見は,理学療法士が変形性膝関節症患者の機能低下を解釈する際の一助になるとともに,理学療法の効果判定をする際の目標値になると考える。