著者
山本 美和 金指 巌 横内 亜紀 田村 直子
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.E3O2200-E3O2200, 2010

【目的】地域支援事業の創設に伴い、本市では介護予防一般高齢者施策として運動機能の維持向上を目的とした「高齢者運動支援事業」(以下健康教室)を実施しているが、一般高齢者施策は自主活動組織の育成支援を並行して進めることが事業の要件に挙げられており、参加者の自主活動を育成しながらの事業展開が課題である。そこで今回、自主活動を定着させるために健康教室で実施してきた支援方法と支援過程での課題と今後の方向性について報告する。<BR>【方法】健康教室は、平成18年4月から老人保健法の機能訓練B型を地域支援事業に移行し、65歳以上の要介護認定を受けていない方を対象とした介護予防事業として実施している。実施方法は地域の公民館等を会場にし、隔週で月2回理学療法士が出向き指導していたが、住民より毎週開催の要望が多かったことから自主活動の支援を検討した。当初、自主活動を希望する地域に保健所で養成したボランティアを派遣する方法で取り組んだが、大半の地域でボランティアの定着には至らず継続が困難な状況となっていた。一方でボランティアを派遣していない会場で参加者の中から自然に自主グループが発生し活動が定着した事例があり、それらのグループへの関わりを通し支援方法を検証し、手法の転換を図った。支援は3つの基本方針に基づき行った。1.公民館等の会場や必要物品は行政が提供する。2.運動のメニューは理学療法士が状況に合わせて作成した体操の媒体(CD等)に沿って実施する。3.各会場毎に参加者の中からまとめ役を育成し、自主活動を運営する。以上の支援方法を基本に自主活動を拡大していった。まとめ役の育成が進まない会場は期限を定めて看護師等が補助し、段階的に自主化へと進めていった。<BR>【説明と同意】本研究については参加者に口頭で説明を行い同意を得た。<BR>【結果】このような支援体制の整備により、自主活動の実績は平成18年度:10グループ・延人数2,932人、平成19年度:24グループ・延人数5,675人、平成20年度:31グループ・延人数14,132人と飛躍的に拡大した。同様に健康教室全体の実績も平成18年度:25会場、実人数1,405人、延人数12,207人、平成19年度:31会場、実人数1,533人・延人数20,287人、平成20年度:35会場、実人数1,609人・延人数31,236人と増加し、現在では実施会場のほとんどで並行して自主活動が定着している。<BR>【考察】身近な地域で気軽に参加できる運動の機会を提供することは、介護予防を早期から推進する上で効果的な手法であるが、マンパワーや経費等の問題から実行できない状況も推察される。本市では自主活動に対し様々な支援方法がある中、ボランティアを派遣する方法から参加者自らが主体となって実施する方法にシフトし、基本方針に沿って支援を行うことで安定した自主活動が可能となり、実施会場が大幅に増加した。また自宅から歩いて通える身近な場所に会場を設けることで、顔見知りの参加者同士が協働し準備を行う等まとめ役の負担が軽減されたことや、会場使用料等の経費が発生する部分は全て行政側が負担することで金銭管理等の問題を取り除き、住民側が自主活動に専念できる状況を作ったことも自主活動が定着し増加した要因であると考えられる。自立した高齢者に対して、介護予防に効果的な運動メニューを提供し続けるためには、行政と地域住民がそれぞれの役割を認識し、協働して役割を担うことが重要である。健康教室の実施地域は市街地、山間部、島嶼部等多岐に渡り、同様に支援しても自主活動へ移行できない地域もいくつか存在する。これらの問題に対して地域の特性等を考慮しながら地域に出向き、介護予防を啓発する機会を増やす等、住民の意識を高めるような働きかけや地域包括支援センター等他機関と連携し、介護予防活動が定着する方法の検討も必要である。行政の専門職のマンパワーは限られており、直接指導する手法で拡大するには限界がある。今後、健康教室を地域の高齢者が利用できるポピュレーションサービスとして定着させるためには、自主活動組織の育成・支援をさらに進め、費用対効果の高い手法で多くの地域住民に定期的な運動が定着するような手法を検討することが重要である。<BR>【理学療法学研究としての意義】本研究は理学療法士が地域の一般高齢者に介護予防サービスを提供していく中で、マンパワー不足や運動の継続の難しさという問題等に対して自主活動組織の育成に取り組み、運動の普及啓発を図った方法を報告するものである。近年、介護予防の分野において地域住民や関係機関から運動指導に対する様々なニーズがあり、理学療法士が専門性を活かし地域の健康づくりの分野で活動していくことは職域の拡大を図る大きなチャンスであり、医療費削減や介護給付費の抑制にも繋がると考えられる。<BR><BR>
著者
田村 直子 黒川 直樹 武田 士郎 山本 美和 横内 亜紀 金指 巌
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ed0829-Ed0829, 2012

【はじめに、目的】 本市では、介護保険制度の開始と並行して一次予防事業対象者に対する介護予防事業を地域で実施しながら、事業内容や展開方法等の検討を行ってきた。そして平成18年の地域支援事業創設に伴い高齢者運動支援事業(以下健康教室)を企画し、市内全域での事業展開を図ってきた。今回本市で実施するこれらの介護予防事業について紹介すると共に、行政機関の理学療法士が限られたマンパワーの中で地域においてどのような役割を果たすべきか、課題や今後の方向性について報告する。【方法】 健康教室は65歳以上の要介護認定を受けていない高齢者を対象に市内の公民館等で実施しており、血圧測定等の健康チェック、理学療法士による体幹・下肢を中心としたストレッチや筋力強化等の運動プログラムを地域の会場で継続的に実施している。当初は月2回の開催(隔週)であったが、参加者からの要望を受け週1回の開催に変更し、その際にマンパワーを増加しないまま実施回数を増やすために、参加者の運動グループ(以下自主グループA)を育成するとともに、音声媒体(CD等)と音響機器を準備し、理学療法士なしでも同様の運動が行えるように運動プログラムを作成した。さらに、参加者の増加で受け入れが困難になってきた会場は、開催時間を分けて二部制とし、より多くの希望者が継続的に参加できる状況を整備した。健康教室は参加者の大半を女性が占め、男性が参加し難い状況であったため、男性の要望を調査した上で、男性限定での会場を新たに設置した。事業を継続して実施する中で、公民館等よりもっと身近な、団地の自治会や町内会等の単位で運動を継続して行いたいとの要望を受けるようになってきたため、参加者自身が会場を確保し、そこに行政が側面から技術的な支援を行うというグループ(以下自主グループB)が誕生した。なお、本事業に従事している理学療法士の数は8名(常勤5名、雇い上げ3名)で、開始された平成18年度から現在まで増員はしていない。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究については参加者に目的等について口頭で説明し同意を得た。【結果】 健康教室の実績は、平成20年度:35会場、実人数1,609人、延人数31,236人、自主グループA数32、自主グループB数4、平成21年度:39会場、実人数1,877人、延人数33,788人、自主グループA数33、自主グループB数6、平成22年度:41会場、実人数1,945人、延人数36,664人、自主グループA数37、自主グループB数6であった。健康教室が開始された平成18年度は、25会場、実人数1,405人、延人数12,207人、自主グループA数10、自主グループB数1であった。【考察】 介護予防を目的として理学療法士が介入する最大のメリットは、高齢者の運動機能の維持・向上に対して専門的にアプローチできることであると思われる。そのためには、継続的に運動を実施する機会と場所を保障することと、具体的な運動方法を提供することが重要なポイントであると考えられる。健康教室は当初、行政主体で事業展開を図ってきたが、参加者の中から自主グループAが発生し、その育成支援を図るとともに、市内全域での事業展開へと拡大していった。自主グループBが誕生した要因は、住民が健康教室に参加することで運動の効果や介護予防の重要性を認識し、さらに自主グループAで培われた運営のノウハウを得たことで、会場まで来られない近隣の人にも運動を提供したいという意識が住民に芽生えたものと考えられる。このように自ら希望し教室を運営するグループが増加することは、移動能力の低い虚弱な高齢者への運動機会の提供にもつながり、本市の介護予防事業が地域社会の中に根差していく上で効果的な活動であると認識している。行政主体で開始した事業をきっかけに、住民のニーズに応じて理学療法士がその専門性を発揮しながら、事業形態を変化させ、住民と協働して事業を実施することによって、様々な形の自主的な活動が誕生している。さらにこのような活動を広げることで限られたマンパワーでも多くの高齢者に介護予防サービスを提供することが可能となり、医療費削減や介護給付費の抑制にもつながると考えられる。今後も、介護予防に対する住民の意識の向上を図るとともに、住民の声を事業に積極的に反映させることによって、行政と地域住民がそれぞれの役割を認識し、より効果的な介護予防事業が展開できると考えられる。【理学療法学研究としての意義】 理学療法士が従来の対患者という個々に対する関わりから、行政の実施する住民サービスの中で専門性をどのように発揮し、かつ効果をあげることができるか。介護予防に資する運動の定期的な実践や住民の意識啓発等の取り組みを通して、集団に対する具体的なアプローチを考える上で有用であると思われる。
著者
田村 直子
出版者
言語文化教育研究学会:ALCE
雑誌
言語文化教育研究 (ISSN:21889600)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.63-83, 2018-12-31 (Released:2019-05-12)

毎年,大学院の授業で被爆者の証言ビデオのスクリプトを翻訳しているが,学生は非常に熱心に授業活動に取り組む。この学生の熱意は証言に内在する共感を呼ぶ力に起因すると思われる。本稿では被爆者を「歴史の証人」の一種と位置づけ,次の三つの側面を踏まえ,被爆者証言を証言というよりは,語りと捉える。被爆者証言とは,歴史学上は原爆投下に関する社会的・歴史的出来事について述べたものである。心理学的には,原爆の記憶を再構築し新たな自己を形成するという個々の被爆者の心的過程の結果である。社会学的には,自分の存在意義に関わる語りであり,当人の社会行動の前提となるものである。語りについて文学分析で提案されているナラティブ共感論で指摘されている特徴を被爆者証言の構成要素と翻訳過程の内部に検証したところ,被爆者証言にも証言の受け取り手の共感を呼ぶ力があることが分かった。語りの共感力には大きな可能性があるが,限界もある。語りに傾聴し,語りを深く理解し,受けとめた語りを自分の語りとして語り継ぐサイクルを促すべきだ。