著者
田辺 弘子 杉本 賢司
出版者
日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.152-162, 2004
参考文献数
6
被引用文献数
2

厳島神社は、593年に海上に建設された特殊建物である。神社の配置計画は、世界的にも独自性の高い設計として認められ、世界遺産に登録された。島全体が、神の領域として守られており、墓地や畑などの建設が許されなかった。そして、長い年月を経過しても宝物類が完全な姿で伝承されている。本研究では、厳島神社の有する独自の建築様式の変遷と配置計画、色彩について調査を行ったものである。厳島神社は、多くの国宝や重要文化財を有し、砂州の上に建ちながらなぜ、これほど健全に維持されて現在に至ったのかを建築的に検証を行った。また、厳島神社はすべてが朱塗りで構成されており、朱色の鳥居と神橋(別名:勅使橋、太鼓橋)は神域を守るために入り口を防備する重要な役割を果たしている。海上に位置する鳥居の構造は、両部鳥居という耐震性の高いものであり、海上にあっても浮き上がらない設計が行われている。さらに、烏居の素材は水に強い楠が採用された。鳥居の接合部の補修は、法隆寺と同じ、継ぎ木という日本の独特の仕口の技術を駆使している。海上という最悪の建築条件のなかでどうしてここまで耐えることができたのか、素材と塗装技術、建築のディテールを検証した。本研究により、今後の維持管理の基礎資料の一部として供することを目的としたものである。
著者
田辺 弘子
出版者
東京大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2016-08-26

ファッションショーモデルおよびモデル経験のない女性に、普段通りの歩行運動と「美しく歩くことを意識した」歩行運動を行わせ、その際の歩行動作計測を行った。この実験課題により、どのような身体運動情報が動きの美しさを伝えるのに関わっているかを検討することを可能にした。モデル経験のない女性が綺麗さを意識して歩行を行うと、膝伸展・体幹部の後傾など全身の関節運動に変化が生じた。モデルの歩行運動はそうしたモデル経験のない被験者の美歩行運動の特徴をさらに強調したものであった。これにより、生物学的に綺麗とされる歩行運動を強調したものがモデルの歩様として確立されていることが示唆された。
著者
田辺 弘子 杉本 賢司
出版者
一般社団法人日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.220-231, 2005-09-01

タージ・マハルは、ムガール帝国時代に5代皇帝シャー・ジャハーンによって建設された霊廟で、1632年から毎日2万人が働き20年の歳月をかけて完成した。この建物はインド・イスラム建築の最高峰のデザインでウッタルプラデシュ州アーグラに位置する。世界遺産のなかでも美しさの点でこれほど抜きん出ている建物はなく、貴石象嵌と赤色砂岩および白大理石を使用した建物は、皇帝の王妃であるムムターズ・マハルのために建造された。国の財力を注ぎ込みすぎた王は、幽閉され亡くなったのちに王妃とともにタージ・マハル廟に祭られた経緯をもつ。皇帝は、タージ・マハル廟が完成後にヤムナ川を挟んだ対岸まで橋をかけ、自分のために同じ形の霊廟を黒大理石で造り二つの霊廟を橋でつなぐ壮大な計画をもっていた。本研究はタージ・マハル廟の白色大理石、赤色砂岩、宝石象嵌、ラコウリー・イートン煉瓦、白色目地などタージ・マハル廟の古代建築と色彩について検討したものである。さらに、この結果を踏まえて、新たに大理石を変色させない高度な吸水切断法を世界に先駆けて確立し、複雑な象嵌を高出力レーザーでつくり巨大な壁画を制作した。