著者
喜多 祐介 田鶴 寿弥子 竹下 弘展 杉山 淳司
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.171-182, 2020-07-25 (Released:2020-07-30)
参考文献数
25

近赤外分光法は,樹種間におけるわずかな化学成分の違いを検出することにより,顕微鏡観察では不可能であった樹種の識別を可能とする。本研究では,近赤外分光と多変量解析ならびに特徴量選択法を用いることにより,日本の建築用材として重要かつ解剖学的に類似する樹種であるヒノキ・アスナロ属,ならびにツガとベイツガの識別について検討した。これに加えて,ヒノキ・アスナロ属の現生材で構築されたモデルを用いて伝統建築に使われたヒノキ・アスナロ属古材の識別も実施した。現生材の場合は,9割近い精度で識別が可能であることが示され,変数選択により識別に重要な波数域を定量的に示すことに成功した。古材においては,経年劣化による化学成分の変化により現生材に比べて識別率の低下がみられた。しかしながら,モデルが選択した重要変数領域が劣化に対して頑強であったために,既報に比べて高い識別率を維持したと考えられる。
著者
杉山 淳司 今津 節生 小林 加代子 黄 盛煜 毛笠 貴博 金井 いづみ 田鶴 寿弥子 反町 始 鳥越 俊行 赤田 昌倫
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2013-04-01

画像情報に基づく樹種識別を、観察者の目を人工知能に置き換えることで、これまで不可能であった解剖学的な近類種の識別を可能にした。同時に、識別技術の他分野への学際的な展開を可能とした。即ち、人の設計する特徴抽出と判別器の組み合わせに加え、特徴抽出から知的判断までの全てを多層のニューラルネットに委ねる深層学習を木材識別に実装した。応用面では、文化財木製品の非破壊診断に利用できるCT画像による識別モデルを構築した。
著者
田鶴 寿弥子 松本 康隆 中山 利恵 杉山 淳司
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.110-116, 2019

<p>従来の茶室建築研究は,様式,構造,意匠,変遷などに重きを置いたものが多く,使用されている部材の樹種については数寄屋大工や建築家の目視に頼ったものや伝承によるものを主としていた。近年,樹種識別の重要性が周知され,茶室における科学的な樹種調査がようやく行われつつある。本研究では,数寄屋大工笛吹嘉一郎による三重県伊賀市に位置する芭蕉翁故郷塚「瓢竹庵」に注目した。瓢竹庵では,嘉一郎自筆と考えられる茶室見積書が現存しており,柱や構造材,天井や床など,計画段階での部材ごとの樹種や数量などが74点について記されている。本研究ではそのうち32部材について樹種調査を行い,当時の用材観ならびに材料変更について明らかとすることができた。</p>