著者
甲斐 広文 近藤 龍也 荒木 栄一
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.51, no.11, pp.1033-1037, 2015

生体には,外界から曝露される様々な化学的あるいは物理的刺激を感知し,あらゆる環境に適応できるシステムが備わっている.このシステムを最大限に利用した人類の英知の結晶の1つが医薬品(chemical medicine)である.一方,物理的な刺激を応用した医療機器(あるいは医療手段:physical medicine)も臨床の現場で活用されているが,chemical medicineに比較し,その作用メカニズムが分子レベルで解析されているとは極めて言いがたい.ゆえに,著者らはphysical medicineを科学的に評価・検証し,刺激条件を最適化していくことにより,安全かつ効果的な疾患治療法が確立できるのではないかと考えた.<br>本稿は,著者らが創薬研究者のスタンスで,新たな医療機器の開発にチャレンジした約10年間の研究成果を総説としてまとめたものであり,その中でも,特に新しい生体応答刺激(特定条件の微弱パルス電流)について,さらに,その特定の刺激を温熱と併用するという新たな疾患予防および治療法について,基礎・臨床試験の結果をもとに紹介する.
著者
甲斐 広文
出版者
熊本大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

温熱療法関連の研究から, 電流刺激が生体に与える作用についての研究に着手し, パルス幅(持続時間: 0.1ms) を有する短形波の微弱電流には, PI3K-AKT 経路の活性増強効果が認められること,さらに微弱電流がユビキチン/プロテアソーム経路の阻害効果を有していることを見出した(PLoS ONE 2008, 2012; J. Pharmacol. Sci. 2008,2010;Int.J.Hyperthermia 2009; J.Surg.Res. 2009 等で発表). 一般に,細胞膜は電気的抵抗が高いために,細胞内のシグナル分子に影響することはあり得ないことから,細胞の表層を流れる電流がどのようにして細胞内に刺激を伝えるのか, これまでの細胞生物学的アプローチの経験から(EMBO J. 2007; J.Biol.Chem. 2009; Mol.Cell.Biol. 2008; Mol.Cell 2012 など), 様々な角度から微弱電流が生体に与える効果を科学的に検証してきた. その結果, 持続パルス時間が0.1 ミリ秒の電流に対して何らかの受容体が存在すること, ラフトの関与があること等を明らかにした.