著者
中村 二郎 神谷 英紀 羽田 勝計 稲垣 暢也 谷澤 幸生 荒木 栄一 植木 浩二郎 中山 健夫
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.59, no.9, pp.667-684, 2016-09-30 (Released:2016-09-30)
参考文献数
16
被引用文献数
11

アンケート調査方式で,全国241施設から45,708名が集計され,2001~2010年の10年間における日本人糖尿病患者の死因を分析した.45,708名中978名が剖検例であった.1)全症例45,708名中の死因第1位は悪性新生物の38.3 %であり,第2位は感染症の17.0 %,第3位は血管障害(慢性腎不全,虚血性心疾患,脳血管障害)の14.9 %で,糖尿病性昏睡は0.6 %であった.悪性新生物の中では肺癌が7.0 %と最も高率であり,血管障害の中では慢性腎不全が3.5 %に対して,虚血性心疾患と脳血管障害がそれぞれ4.8 %と6.6 %であった.虚血性心疾患のほとんどが心筋梗塞であり,虚血性心疾患以外の心疾患が8.7 %と高率で,ほとんどが心不全であった.脳血管障害の内訳では脳梗塞が脳出血の1.7倍であった.2)年代別死因としての血管障害全体の比率は,30歳代以降で年代による大きな差は認められなかった.糖尿病性腎症による慢性腎不全は,30歳代で,心筋梗塞は40歳代で,脳血管障害は30歳代で比率が増加し,それ以降の年代において同程度であった.50歳代までは脳出血,60歳代以降では脳梗塞の比率が高かった.悪性新生物の比率は,50歳代および60歳代でそれぞれ46.3 %および47.7 %と高率であり,50歳代以降で悪性新生物による死亡者全体の97.4 %を占めていた.感染症のなかでも肺炎による死亡比率は年代が上がるとともに高率となり,70歳代以降では20.0 %で,肺炎による死亡者全体の80.7 %は70歳代以降であった.糖尿病性昏睡による死亡は,10歳代および20歳代でそれぞれ14.6 %および10.4 %と高率であり,それらの年代では悪性新生物に次いで第2位であった.3)血糖コントロールの良否と死亡時年齢との関連をみると,血糖コントロール不良群では良好群に比し1.6歳短命であり,その差は悪性新生物に比し血管合併症とりわけ糖尿病性腎症による腎不全で大きかった.4)糖尿病罹病期間と血管障害死の関連では,糖尿病性腎症の73.4 %が10年以上の罹病期間を有していたのに対して,虚血性心疾患および脳血管障害では10年以上の罹病期間を有したのはそれぞれ62.7 %と50 %であった.5)治療内容と死因に関する全症例での検討では,食事療法単独18.8 %,経口血糖降下薬療法33.9 %,インスリン療法41.9 %とインスリン療法が最も多く,とりわけ糖尿病性腎症では53.7 %を占め,虚血性心疾患での38.9 %,脳血管障害での39 %に比べて高頻度であった.6)糖尿病患者の平均死亡時年齢は,男性71.4歳,女性75.1歳で,同時代の日本人一般の平均寿命に比して,それぞれ8.2歳,11.2歳短命であった.しかしながら,前回(1991~2000年)の調査成績と比べて,男性で3.4歳,女性で3.5歳の延命が認められ,日本人一般における平均寿命の伸び(男性2.0歳,女性1.7歳)より大きかった.
著者
水流添 覚 山元 章 平島 義彰 福田 一起 梶原 伸宏 西田 周平 下田 誠也 荒木 栄一
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.11, pp.837-842, 2014-11-30 (Released:2014-12-01)
参考文献数
16
被引用文献数
1

症例は65歳の2型糖尿病男性で経口薬・インスリン併用中だが,高血糖,肥満が是正されないためSGLT2阻害薬を導入すべく入院となった.メトホルミン,利尿薬内服を中止の上でイプラグリフロジン50 mg開始.血糖改善は良好で2日目から約10 %のインスリン減量を実施.3日目に全身性皮疹,腎機能障害(Cr 1.6 mg/dl),ケトーシス(3-OHBA 626 μmol/l),軽度代謝性アシドーシス(PH 7.348, HCO3- 18.3 mmol/l)に加え高度高K血症(7.3 mEq/l)を来した.症例は高K既往,K高含有食品(昆布)常用,ARB内服など高Kを呈しやすい素地があった.これに利尿薬中止,SGLT2阻害薬開始後の腎機能低下,アシドーシス,インスリン作用不足によるK細胞外シフトが加わり高Kを発症したと推察する.高Kを呈しやすい背景の患者へのSGLT2阻害薬導入ではK値に注意を要する.
著者
糖尿病診断基準に関する調査検討委員会 清野 裕 南條 輝志男 田嶼 尚子 門脇 孝 柏木 厚典 荒木 栄一 伊藤 千賀子 稲垣 暢也 岩本 安彦 春日 雅人 花房 俊昭 羽田 勝計 植木 浩二郎
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.6, pp.450-467, 2010 (Released:2010-08-18)
参考文献数
54
被引用文献数
11

概念:糖尿病は,インスリン作用の不足による慢性高血糖を主徴とし,種々の特徴的な代謝異常を伴う疾患群である.その発症には遺伝因子と環境因子がともに関与する.代謝異常の長期間にわたる持続は特有の合併症を来たしやすく,動脈硬化症をも促進する.代謝異常の程度によって,無症状からケトアシドーシスや昏睡に至る幅広い病態を示す.
著者
小川 渉 荒木 栄一 石垣 泰 廣田 勇士 前川 聡 山内 敏正 依藤 亨 片桐 秀樹
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.64, no.11, pp.561-568, 2021-11-30 (Released:2021-11-30)
参考文献数
31

本報告ではインスリン抵抗症の新たな疾患分類と診断基準を提唱する.インスリン抵抗症は,インスリン受容体またはその情報伝達に関わる分子の機能障害により高度のインスリン作用低下を呈する疾患と定義し,遺伝子異常によって起こる遺伝的インスリン抵抗症と,インスリン受容体に対する自己抗体によって起こるB型インスリン抵抗症の2型に分類する.遺伝的インスリン抵抗症にはインスリン受容体遺伝子異常によるA型インスリン抵抗症やDonohue/Rabson-Mendenhall症候群,PI3キナーゼ調節サブユニット遺伝子異常によるSHORT症候群,AktやTBC1D4の遺伝子異常などによるものに加え,原因遺伝子が未同定のものも含む.B型インスリン抵抗症は,インスリン受容体に対する自己抗体により高度のインスリン作用低下を呈する疾患と定義され,受容体刺激性抗体によって低血糖のみを示す例はB型インスリン抵抗症には含めない.
著者
清野 裕 南條 輝志男 田嶼 尚子 門脇 孝 柏木 厚典 荒木 栄一 伊藤 千賀子 稲垣 暢也 岩本 安彦 春日 雅人 花房 俊昭 羽田 勝計 植木 浩二郎
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.7, pp.485-504, 2012 (Released:2012-08-22)
参考文献数
59
被引用文献数
10 1

本稿は,2010年6月発表の「糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告」以降の我が国におけるHbA1c国際標準化の進捗を踏まえて,同報告のHbA1cの表記を改めるとともに国際標準化の経緯について解説を加えたものである. 要約 概念:糖尿病は,インスリン作用の不足による慢性高血糖を主徴とし,種々の特徴的な代謝異常を伴う疾患群である.その発症には遺伝因子と環境因子がともに関与する.代謝異常の長期間にわたる持続は特有の合併症を来たしやすく,動脈硬化症をも促進する.代謝異常の程度によって,無症状からケトアシドーシスや昏睡に至る幅広い病態を示す. 分類(Table 1,2,Fig. 1参照):糖代謝異常の分類は成因分類を主体とし,インスリン作用不足の程度に基づく病態(病期)を併記する.成因は,(I)1型,(II)2型,(III)その他の特定の機序,疾患によるもの,(IV)妊娠糖尿病,に分類する.1型は発症機構として膵β細胞破壊を特徴とする.2型は,インスリン分泌低下とインスリン感受性の低下(インスリン抵抗性)の両者が発症にかかわる.IIIは遺伝因子として遺伝子異常が同定されたものと,他の疾患や病態に伴うものとに大別する. 病態(病期)では,インスリン作用不足によって起こる高血糖の程度や病態に応じて,正常領域,境界領域,糖尿病領域に分ける.糖尿病領域は,インスリン不要,高血糖是正にインスリン必要,生存のためにインスリン必要,に区分する.前2者はインスリン非依存状態,後者はインスリン依存状態と呼ぶ.病態区分は,インスリン作用不足の進行や,治療による改善などで所属する領域が変化する. 診断(Table 3~7,Fig. 2参照): 糖代謝異常の判定区分: 糖尿病の診断には慢性高血糖の確認が不可欠である.糖代謝の判定区分は血糖値を用いた場合,糖尿病型((1)空腹時血糖値≧126 mg/dlまたは(2)75 g経口糖負荷試験(OGTT)2時間値≧200 mg/dl,あるいは(3)随時血糖値≧200 mg/dl),正常型(空腹時血糖値<110 mg/dl,かつOGTT2時間値<140 mg/dl),境界型(糖尿病型でも正常型でもないもの)に分ける.また,(4)HbA1c(NGSP)≧6.5 %(HbA1c(JDS)≧6.1 %)の場合も糖尿病型と判定する.なお,2012年4月1日以降は,特定健康診査・保健指導等を除く日常臨床及び著作物においてNational Glycohemoglobin Standardization Program(NGSP)値で表記されたHbA1c(NGSP)を用い,当面の間,日常臨床ではJDS値を併記する.2011年10月に確定した正式な換算式(NGSP値(%)=1.02×JDS値(%)+0.25 %)に基づくNGSP値は,我が国でこれまで用いられてきたJapan Diabetes Society(JDS)値で表記されたHbA1c(JDS)におよそ0.4 %を加えた値となり,特に臨床的に主要な領域であるJDS値5.0~9.9 %の間では,従来の国際標準値(=JDS値(%)+0.4 %)と完全に一致する. 境界型は米国糖尿病学会(ADA)やWHOのimpaired fasting glucose(IFG)とimpaired glucose tolerance(IGT)とを合わせたものに一致し,糖尿病型に移行する率が高い.境界型は糖尿病特有の合併症は少ないが,動脈硬化症のリスクは正常型よりも大きい.HbA1c(NGSP)が6.0~6.4 %(HbA1c(JDS)が5.6~6.0 %)の場合は,糖尿病の疑いが否定できず,また,HbA1c(NGSP)が5.6~5.9 %(HbA1c(JDS)が5.2~5.5 %)の場合も含めて,現在糖尿病でなくとも将来糖尿病の発症リスクが高いグループと考えられる. 臨床診断: 1.初回検査で,上記の(1)~(4)のいずれかを認めた場合は,「糖尿病型」と判定する.別の日に再検査を行い,再び「糖尿病型」が確認されれば糖尿病と診断する.但し,HbA1cのみの反復検査による診断は不可とする.また,血糖値とHbA1cが同一採血で糖尿病型を示すこと((1)~(3)のいずれかと(4))が確認されれば,初回検査だけでも糖尿病と診断する.HbA1cを利用する場合には,血糖値が糖尿病型を示すこと((1)~(3)のいずれか)が糖尿病の診断に必須である.糖尿病が疑われる場合には,血糖値による検査と同時にHbA1cを測定することを原則とする. 2.血糖値が糖尿病型((1)~(3)のいずれか)を示し,かつ次のいずれかの条件がみたされた場合は,初回検査だけでも糖尿病と診断できる. ・糖尿病の典型的症状(口渇,多飲,多尿,体重減少)の存在 ・確実な糖尿病網膜症の存在 3.過去において上記1.ないし2.の条件がみたされていたことが確認できる場合は,現在の検査結果にかかわらず,糖尿病と診断するか,糖尿病の疑いをもって対応する. 4.診断が確定しない場合には,患者を追跡し,時期をおいて再検査する. 5.糖尿病の臨床診断に際しては,糖尿病の有無のみならず,成因分類,代謝異常の程度,合併症などについても把握するよう努める. 疫学調査: 糖尿病の頻度推定を目的とする場合は,1回の検査だけによる「糖尿病型」の判定を「糖尿病」と読み替えてもよい.この場合,HbA1c(NGSP)≧6.5 %(HbA1c(JDS)≧6.1 %)であれば「糖尿病」として扱う. 検診: 糖尿病を見逃さないことが重要で,スクリーニングには血糖値をあらわす指標のみならず,家族歴,肥満などの臨床情報も参考にする. 妊娠糖尿病: 妊娠中に発見される糖代謝異常hyperglycemic disorders in pregnancyには,1)妊娠糖尿病gestational diabetes mellitus(GDM),2)糖尿病の2つがあり,妊娠糖尿病は75 gOGTTにおいて次の基準の1点以上を満たした場合に診断する. (1)空腹時血糖値 ≧92 mg/dl (2)1時間値 ≧180 mg/dl (3)2時間値 ≧153 mg/dl 但し,上記の「臨床診断」における糖尿病と診断されるものは妊娠糖尿病から除外する.
著者
荒木 栄一 近藤 龍也
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.125, no.3, pp.120-124, 2005 (Released:2005-04-26)
参考文献数
11
被引用文献数
1 1

インスリンは生体において代謝調節を司る代表的なホルモンである.肝臓や筋肉などインスリンの主要な標的臓器において,インスリンシグナルは分子レベルで解明されつつある.一方,中枢におけるインスリン作用に関しては不明な点が多い.食欲を制御する視床下部において,インスリン,レプチンはともに食欲を抑制する.両ホルモンの刺激によって,視床下部においてPIP3が誘導される細胞群が存在し,このような細胞ではインスリン受容体の基質であるIRS-2も発現している.神経細胞特異的にインスリン受容体を欠損したマウスの視床下部では,インスリンによるPIP3の誘導が著明に減弱していたが,レプチン刺激ではPIP3の誘導は正常に認められた.2型糖尿病では食欲の亢進が認められる事が多く,これは中枢におけるインスリン抵抗性が関与する可能性がある.このような中枢におけるインスリン抵抗性に対して,レプチンの有効性が示唆される.
著者
城谷 哲也 宮村 信博 荒木 栄一 七里 元亮
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

糖尿病における膵β細胞疲弊の一因として、β細胞のグルコース応答性のインスリン生合成や分泌障害が生じることが知られている。本研究では、高血糖におけるグルコース応答性のインスリン遺伝子転写が、atipical PKC(PKCζ)を介して転写因子のPDX-1(pancreatic and duodenal homeobox gene-1)を修飾して影響をおよぼしているかを分子レベルで解析した。膵β細胞でのPKCの関与、またPDX-1のリン酸化に関わるPKCのfamilyを同定するため、MIN6細胞にPKCの阻害剤であるCalphostin CやGo6976を反応させ、EMSA及びCAT assayを施行した結果、グルコース応答性のPDX-1のリン酸化にはatipical PKCが関与している可能性が示唆された。抗PKCζ抗体を用いたwestern blotの結果、MIN6細胞の核抽出物中にPKCζが存在することを確認し、免疫染色でもMIN6細胞の核内にPKCζの存在を確認しえた。さらに、低(2mM)及び高(20mM)グルコースにおけるPKCζの活性の変化を基質を用いて測定した結果、20mMグルコース培養下でのPKCζ活性は有意に増加していた。また、atipical PKCを特異的に阻害するCalphostin Cを反応させると、この20mMグルコース培養下でのPKCζ活性を完全に抑制した。最後に、atipical PKC(PKCζ)のグルコース応答性インスリン遺伝子転写への関与をより詳細に解析するため、ラットatipical PKC(PKCζ)cDNAを基にdominant negative PKCζを作成し、発現vectorに組み込んだ後、MIN6細胞に発現させwestern blotにて、その発現蛋白を確認した。さらに、dominant効果の確認後、in vitro及びトランスジェニックマウスを作成し、より詳細な解析を行う予定である。
著者
甲斐 広文 近藤 龍也 荒木 栄一
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.51, no.11, pp.1033-1037, 2015

生体には,外界から曝露される様々な化学的あるいは物理的刺激を感知し,あらゆる環境に適応できるシステムが備わっている.このシステムを最大限に利用した人類の英知の結晶の1つが医薬品(chemical medicine)である.一方,物理的な刺激を応用した医療機器(あるいは医療手段:physical medicine)も臨床の現場で活用されているが,chemical medicineに比較し,その作用メカニズムが分子レベルで解析されているとは極めて言いがたい.ゆえに,著者らはphysical medicineを科学的に評価・検証し,刺激条件を最適化していくことにより,安全かつ効果的な疾患治療法が確立できるのではないかと考えた.<br>本稿は,著者らが創薬研究者のスタンスで,新たな医療機器の開発にチャレンジした約10年間の研究成果を総説としてまとめたものであり,その中でも,特に新しい生体応答刺激(特定条件の微弱パルス電流)について,さらに,その特定の刺激を温熱と併用するという新たな疾患予防および治療法について,基礎・臨床試験の結果をもとに紹介する.
著者
荒木 栄一
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.109, no.3, pp.419-426, 2020-03-10 (Released:2021-03-10)
参考文献数
8
被引用文献数
1