著者
佐々木 誠 山上 弘義 白鳥 常男
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.17-23, 2000-01-31
被引用文献数
2

本研究の目的は, 下り勾配トレッドミル歩行の呼吸循環器障害患者への臨床応用の可能性の有無を考察することである。若年健常女性27名を対象に, 下り勾配トレッドミル歩行の運動負荷について, 上り勾配トレッドミル歩行のそれとの対比を含めて酸素搬送系の各指標および自覚的運動強度(RPE)から検討するために, 上り勾配と下り勾配でのトレッドミル運動負荷試験を実施した。運動負荷試験プロトコールは勾配0%から±15%まで7段階に2分毎にそれぞれ正負に漸増するものである。上り勾配では全指標が勾配漸増に伴って増加したのに対して, 下り勾配では酸素摂取量(V^^・O_2/kg)は-7%まで漸減した後-10%を境に増加傾向を示したが, 全値とも平地歩行より低値であった。酸素脈(O_2 pulse)もV^^・O_2/kgと同様の推移であったが, 心拍数(HR)は平地よりも僅かに低値のまま不変であり, 二重積(RPP)は平地歩行と同値で推移した。また, 分時換気量(V^^・_E)は-10%を最小とするV^^・O_2/kgと近似した推移を示したが, これは一回換気量(V_T)の漸減が理由と考えられ, 呼吸数(RR)は上り勾配と同様に漸増し続けた。更に, RPEは上り勾配ほど急峻ではないものの漸増した。以上より, 下り勾配歩行は酸素需要量が少ないにもかかわらず, 心筋酸素需要は減少せず浅く速い呼吸がもたらされ, 設定運動強度以上に"きつい運動"と感じられる特性があり, 呼吸循環器障害患者への臨床応用に否定的な要素が多かった。しかしながら, トレナビリティー, 慣れの効果, 筋収縮や歩行形態の相違による末梢効果や応用歩行への適応効果が期待される可能性が残されており, 更なる検討が必要と考えられた。