著者
皆川 裕樹 増本 隆夫
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集
巻号頁・発行日
vol.25, 2012

気候変動の影響により豪雨規模の強大化が予想され、特に排水が困難な低平地域においては将来的に洪水や農地湛水等の被害リスク増加が懸念される。対応策の検討に向けて、これらの影響を定量的に評価することが重要である。一方、実際の豪雨被害の発生リスクやその度合いには、雨量とともに降雨波形の違いも密接に関係すると考えられる。そこで、解析の入力豪雨について様々な内部波形パターンを想定することで、被害の発生リスクの変化を定量的に評価した。本手順では、影響を評価するために構築した排水モデルに、模擬発生法によって作成した様々な降雨波形を持つ豪雨を入力することで影響を評価する。現在と将来の総雨量値は、これまでの成果より220 mm/3dおよび270 mm/3dと仮定した。それぞれの雨量値について、総雨量は一定で降雨波形の異なるデータを300パターン模擬発生させ、そのすべてを入力し解析を行った。得られる300個の解析結果のうち水位がある基準を超える割合を抽出し、その雨量に対する被害の発生リスクとして評価する。これを現在と将来で比較することにより、気候変動による影響を評価した。対象地区内の排水が集中する潟のピーク水位に注目すると、将来は現在と比較し大きな水位の出現頻度が増加しており、同地点で規定されている氾濫危険水位を超過する確率は現在で17%であるのに対し将来では32%と、15%のリスク増加となった。また、水稲の減収に関連する水田の湛水時間(30cm以上)を指標として農地被害の発生リスクを評価した。各水田の平均湛水時間を比較した結果、雨量の増加に対して脆弱な水田地区が推定でき、特に潟周辺や干拓により造成された低標高部の水田において湛水時間の増加が予測された。 このように、模擬発生法を活用することで様々な降雨パターンを想定でき、内部波形に注目した低平地排水への気候変動影響評価が可能となった。今後は、排水計画の見直しも視野に入れ、想定される対応策の検討とその効果を具体的に評価することが課題となる。
著者
石田 聡 土原 健雄 吉本 周平 皆川 裕樹 増本 隆夫 今泉 眞之
出版者
農業・食品産業技術総合研究機構農村工学研究所
雑誌
農村工学研究所技報 (ISSN:18823289)
巻号頁・発行日
no.210, pp.1-9, 2010-03
被引用文献数
1

淡水レンズは、島や半島において海水を含む帯水層の上部に、密度差によってレンズ状に浮いている淡水域を指し、カリブ海、太平洋、インド洋などの低平な島嶼や、我が国における沖縄県大東島や多良間島などの南西諸島などでは重要な水資源となっている。淡水レンズは降雨浸透水と海水の微妙な圧力バランスによって形成されていることから、降水量の変化、揚水量の変化、海水準の変化に対して、その賦存量が大きく影響を受け、水資源として脆弱である。一方で、我が国では沖縄県を対象として淡水レンズを水源として保全・開発する予定であること、アジア・太平洋諸国の経済成長によって島嶼地域においても水需要量の増加が予想されることなどから、淡水レンズ水資源への関心は国内外で高まりつつある。淡水レンズは井戸からの取水によって利用されるが、揚水に伴って井戸周辺の圧力が低下するため、揚水量が大きいと帯水層下部から塩水がくさび状に浸入し(アップコーニング)、やがて井戸水が塩水化する。帯水層が一度塩水化してしまうと、粒子間の微小間隙に塩水が残留すること、塩水浸入の水みちが形成されることなどから地下水環境は復元せず、当該帯水層からの淡水利用が不可能になる。この様な帯水層の塩水化は近年の生活様式の近代化・人口増などで揚水量が増加した島嶼で起こっており、地下水環境の保全と水資源の持続的利用を両立させることが重要な課題となっている。筆者らは沖縄県多良間島を対象として淡水レンズの賦存状況を調査するとともに、電磁探査法の琉球石灰岩帯水層への適用性について評価を行った。形状。