著者
土原 健雄 井伊 博行 石田 聡 今泉 眞之
出版者
社団法人 農業農村工学会
雑誌
農業土木学会論文集 (ISSN:03872335)
巻号頁・発行日
vol.2006, no.245, pp.755-765, 2006-10-25 (Released:2011-08-11)
参考文献数
26

釧路湿原を流れるチルワツナイ川流域に分布する湧水 (噴火口型・噴砂丘型) を形成する地下水の流動特性を, 地層及び水理水頭分布, 安定同位体比及び放射性同位体測定により明らかにし, その涵養域の推定を行った. 地層及び地下水水理水頭分布より, チルワツナイ川流域の湿原下には鉛直上向きの地下水の流れが存在し, その流れは粘土層の断層付近の亀裂を通じて湧出していると推定された. チルワツナイ川流域の地表水, 地下水及び釧路湿原に流入する河川水の水素, 酸素の安定同位体比の分布より, チルワツナイ川流域に多数分布する湧水は, 地形により識別される流域より上流に涵養域を持つと推定され, 釧路湿原の湧水環境の保全・管理を考える際には, 広域流動系の地下水の影響を考慮する必要があることが明らかとなった.また, チルワツナイ川流域の湧水及び湿原下の地下水のトリチウム濃度は自然発生レベルよりはるかに低く, 湿原内の湧水を形成する地下水は50年以上前の降水が涵養され循環してきたものであることが示された.
著者
石田 聡子
出版者
岡山大学経済学会
雑誌
岡山大学経済学会雑誌 (ISSN:03863069)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.1-21, 2007-06

EU は,域内における地域間の社会的・経済的地域格差の是正を目的とする地域政策を実施している。このEU の地域政策は,各国が個別に取り組んでいる地域政策とは異なり,共同体レベルで取り組む地域政策である。EU の地域政策を実施するための資金提供手段として,欧州地域開発基金(ERDF)・欧州社会基金(ESF)・欧州農業指導保証基金(EAGGF)などから構成される構造基金があり,EU の地域政策の対象地域は,この構造基金からの援助を受けて地域開発プログラムを実行する。構造基金からの援助には,加盟国側からの発案プロジェクトに対する援助と,欧州委員会による発案プロジェクトに対する援助(共同体イニシアチブ)の2種類がある。共同体イニシアチブでは,欧州委員会によって地域開発プログラムのガイドラインが策定され,加盟国は提示されたガイドラインにしたがってプロジェクトの提案を行う。このように,共同体イニシアチブとは共同体が主体となって取り組む地域政策である。本稿で取り上げるInterreg は,共同体イニシアチブ事業の一つであり,国境を越えた地域間協力を促進させることを目的として実施されているプログラムである。Interreg は,Interreg I(1990-1993),Interreg II(1994-1999)を経て、Interreg III(2000-2006)までが実施されている。Interreg III にはA,B,C の区分があり,III A は国境を挟んで隣接する地域間協力(cross−border cooperation),III B はIII A よりも広い範囲を対象とする域内協力(transnational cooperation),III C はヨーロッパを大きく東西南北の4つに区分した地域を対象とする域内協力(interregional cooperation)である。そのうちIII A の主な目は,EU 域内の国境を越えた協力関係を促進することで,EU 域内の統合を深化させることであるが,EU 域外諸国の国境地域との協力関係も対象としている。本稿の対象となるスイスはEU 加盟国ではないが,EU の隣接国としてInterregプログラムに参加している。スイスのInterreg への参加は,ヨーロッパへの統合および地域発展のためのスイス側の政策の一つであり,国境を越えた協力関係の強化,地域の競争力の強化を目的としている。この背景には,EUの拡大およびヨーロッパの政治的・経済的・社会的統合の深化,それに対するスイスの孤立化という状況がある。スイスは,1960年に設立された欧州自由貿易連合(EFTA)の設立当初からのメンバーであるが,EFTA 加盟国が次々にEU に加盟しEFTA を脱退した結果,現在のEFTA 加盟国は,スイス,アイスランド,ノルウェー,リヒテンシュタインの4カ国のみになっている。1994年,EFTA はEC と共に欧州経済地域(EEA)を発足させたが,スイスでは1992年に行われた国民投票によってEEA協定の批准が否決され,EFTA 加盟国の中で唯一のEEA 不参加国となった。また,EEA 協定批准が否決された結果,EU への加盟交渉も棚上げになった。周囲をEU 加盟国に囲まれ,またEU 諸国との関係が深いスイスにとって,ヨーロッパ統合の流れから孤立することは,特に経済的な面から大いに懸念される問題である。このためスイス政府は,EU およびEEA への不参加によって被る不利益を避ける目的で,EU との間で分野別二国間協定を交渉・締結している。スイスのInterreg プログラムへの参加も対EU 政策の一つであり,特に,隣接諸国との国境地域における国境を越えた協力関係を強化することによって,国民のEU への統合に対する否定的な意識を変えようという意図を持っている。スイスの国境地域で展開されているInterreg プログラムには,(1)バーゼルを中心としたドイツ,フランス,スイス国境地域からなるオーバーライン地域,(2) ドイツ・オーストリア・スイス・リヒテンシュタインを含むアルペンライン地域,(3)フランス・スイス国境地域,そして(4)イタリア・スイス国境地域の4プログラムがある。スイスが関与するInterreg の研究としては,(1)について越境地域連携と構造を分析した伊藤(2003),八木・若森(2006),(3)についてジュラ地域とレマン地域の越境地域間協力の実態を示した清水・石田(2006)がある。これらの研究は,各地域での歴史的経緯,地理的条件,経済状況といった地域特性や,これまでの越境協力活動の経験が,国境地域での協力構造やプログラムの実施状況に影響を与えていることを明らかにしている。伊藤(2003)によれば,オーバーライン地域ではバーゼルを中心とした地域経済圏が形成されていたことから,まず民間主導で越境地域連携が組織され,国-州・県レベルといった政府レベルの地域連携へと展開していった。そしてこの地域における連携は,1990年代以降,Interreg プログラムによって発展していったことが指摘されている。この地域の越境協力ガバナンスの特徴としては,ドイツ,フランス,スイスの越境連携組織構造の間の同一性,対等性があげられるが(伊藤,2003),各国ではその運営に差異が見られ,各州の分立性が高いスイス,州政府と自治体(中心都市であるフライブルク市)が中心となっているドイツ,地方の自立性が弱く中央集権的なフランスといった特徴が反映されていることが指摘されている(八木,若森,2006)。フランス・スイス国境地域を研究した清水・石田(2006)では,地理的要因から相互の交流が乏しかったジュラ地域と歴史的にも緊密な関係が存在していたレマン地域とでは,Interreg プログラムの進展や意義に相違があり,ジュラ地域ではInterreg によって協力関係が組織されるようになったのに対し,レマン地域ではInterreg は地域協力をさらに発展させる役割を果たしていることが指摘されている。本稿では主にInterreg II プログラムの事後評価報告書(LRDP,2003b),およびInterreg III A プログラムの事前評価報告書(Region Lombardia et al.,2001),中間評価報告書(IRS,2003)に基づいて,イタリアとスイスの国境地域における地域間協力の実態を示すことにしたい。対象となる地域は,イタリアとスイスの国境地域の全域をカバーしており,フランス・スイス国境のジュラ地域と同様に,山脈が両国を隔てる自然障壁となっている。北部と南部とでは地理的・経済的特性が異なっており,さらに,東西に長く伸びた対象地域内には3つの言語圏が存在しているという複雑な状況を抱えている。同じように地域内に地理的・歴史的特性の違いを持つフランス・スイス・プログラムは2つのサブプログラムに分けられているが,イタリア・スイス・プログラムは単一のプログラムとして実施されている。以下では,イタリア・スイス間のInterreg プログラム対象地域の地理的・経済的特性を説明した上で,第3節ではInterreg II A プログラムを概観し,問題点を示す。第4節ではInterreg III A プログラムのガバナンスと資金管理の構造,Interreg 事業の現状について示す。The Community Initiative Interreg program, regional policies of the EU, started to promote cross−bordercooperation between the constituent countries. By taking up one of them, the Interreg program that covers theItaly−Switzerland border region, this paper examines the actual state of the cross−border cooperation and problems that entail in the implementation. The research suggests that the concerted efforts have made great contribution to the development of the region, where exchanges between the two sides were traditionally hampered by the Alps that divide them. It also suggests a success of the joint administrative structure, which was formed by addressing the problems emerged from other programs implemented earlier. However, the program is considered still on the beginning stage with some problems remained unsolved. Some come from difference in their EU membership status : Financial resources are not equally available to them : For example, Italy, a EU member, receives financial assistance from ERDF(European Regional Development Fund), while Switzerland, a non−member, cannot. Necessity of streamlining of the project implementation is also suggested : Despite the joint administration, specific projects have to go through duel procedures before starting them, where they are required of approval of each county. Thus, the research indicates a need of dealing with these and other problems to further promote the development of the region.
著者
吉本 周平 土原 健雄 白旗 克志 石田 聡
出版者
公益社団法人 日本地下水学会
雑誌
地下水学会誌 (ISSN:09134182)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.227-240, 2016-05-31 (Released:2016-10-25)
参考文献数
43
被引用文献数
1 1
著者
深川 一史 相川 竜一 羽場 一直 北川 良子 樋口 国博 泉 道博 森 秀樹 奥村 浩二 石田 聡 足立 幸彦
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.101, no.6, pp.1680-1683, 2012 (Released:2013-06-10)
参考文献数
5

急性感染性心内膜炎は黄色ブドウ球菌や表皮ブドウ球菌などの強毒性菌によって引き起こされ,高齢者に多いことが知られている.2症例は,20歳と36歳といずれも重度のアトピー性皮膚炎を有する若年患者で,発熱,炎症反応上昇を伴った.経胸壁心エコーにて疣腫と僧帽弁付近の乱流を認め,血液培養検査にてmethicillin-sensitive Staphylococcus aureus(MSSA)が検出され,感染性心内膜炎と診断した.特に症例2では,血液培養と皮膚培養の結果より,感染経路としては皮膚と考えられた.
著者
石田 聡 吉本 周平 幸田 和久 小林 勤 白旗 克志 土原 健雄
出版者
農業・食品産業技術総合研究機構農村工学研究所
雑誌
農村工学研究所技報 (ISSN:18823289)
巻号頁・発行日
no.217, pp.1-12, 2015-03

トンガ王国ババウ群島ババウ島およびハアパイ諸島リフカ島において,淡水レンズ地下水中の電気伝導度(EC)測定およびイオン濃度分析を行った。調査の結果,ババウ島においては一部の揚水井戸で150mS/mを超えるECが観測された。リフカ島においては,水道水源施設である暗渠(ギャラリー)および井戸のECは150mS/mを下回っていたが,塩水化によって揚水を停止した施設が存在した。測定結果と既往の記録等により地下水塩水化の要因を分析したところ,ババウ島ではそれまで分散して配置されていた揚水用の井戸が減少し,1箇所あたりの揚水量が増加したことでアップコーニングが発生したと推定された。リフカ島では,ギャラリーの一部が海岸近くに配置されていることでECが高くなっていると推定された。塩水化の抑止のためには,ババウ島においては井戸の分散が,リフカ島についてはギャラリーを淡水域の中心部に再配置することが有効であると考えられた。
著者
石田 聡 土原 健雄 吉本 周平 皆川 裕樹 増本 隆夫 今泉 眞之
出版者
農業・食品産業技術総合研究機構農村工学研究所
雑誌
農村工学研究所技報 (ISSN:18823289)
巻号頁・発行日
no.210, pp.1-9, 2010-03
被引用文献数
1

淡水レンズは、島や半島において海水を含む帯水層の上部に、密度差によってレンズ状に浮いている淡水域を指し、カリブ海、太平洋、インド洋などの低平な島嶼や、我が国における沖縄県大東島や多良間島などの南西諸島などでは重要な水資源となっている。淡水レンズは降雨浸透水と海水の微妙な圧力バランスによって形成されていることから、降水量の変化、揚水量の変化、海水準の変化に対して、その賦存量が大きく影響を受け、水資源として脆弱である。一方で、我が国では沖縄県を対象として淡水レンズを水源として保全・開発する予定であること、アジア・太平洋諸国の経済成長によって島嶼地域においても水需要量の増加が予想されることなどから、淡水レンズ水資源への関心は国内外で高まりつつある。淡水レンズは井戸からの取水によって利用されるが、揚水に伴って井戸周辺の圧力が低下するため、揚水量が大きいと帯水層下部から塩水がくさび状に浸入し(アップコーニング)、やがて井戸水が塩水化する。帯水層が一度塩水化してしまうと、粒子間の微小間隙に塩水が残留すること、塩水浸入の水みちが形成されることなどから地下水環境は復元せず、当該帯水層からの淡水利用が不可能になる。この様な帯水層の塩水化は近年の生活様式の近代化・人口増などで揚水量が増加した島嶼で起こっており、地下水環境の保全と水資源の持続的利用を両立させることが重要な課題となっている。筆者らは沖縄県多良間島を対象として淡水レンズの賦存状況を調査するとともに、電磁探査法の琉球石灰岩帯水層への適用性について評価を行った。形状。