著者
堀江 淳 直塚 博行 田中 将英 林 真一郎 堀川 悦夫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.DbPI2373, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】 呼吸困難感受性(Borg Scale Slope(BSS))、運動時呼吸困難閾値(Threshold Load of Dyspnea(TLD))と身体機能、運動耐容能との関係を分析し、BSS、TLD評価から推測できる影響要因とその対応策について検証すること。【方法】 対象は、病状安定期にある慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者13例(全例男性)、平均年齢71.1±6.9歳、BMIは22.5±4.2kg/m2)であった。肺機能検査は、%FVCが97.8±20.6%、FEV1.0%が51.2±22.7%、%FEV1.0が57.3±24.3%であった。modified Medical Research Council(mMRC)息切れ分類は、Grade1が7名、Grade2が6名であり、GOLD病期分類はstage 1が3名、stage 2が4名、stage 3が4名、stage 4が2名であった。除外対象は、重篤な内科疾患を合併している者、歩行に支障をきたすような有痛性疾患を有する者、研究の主旨が理解出来のない者とした。 BSS、TLDは、1分間に10wattのramp負荷で心肺運動負荷テスト(CPX)を実施、1分ごとに修正ボルグスケールにて呼吸困難感を聴取し算出した。また、CPXの測定項目は、最高酸素摂取量Peak V(dot)O2、酸素当量、炭酸ガス当量、Dyspnea Index(DI)、O2 pulse変化量、SpO2変化量とした。その他の測定項目は、気道閉塞評価(FEV1.0%、%FEV1.0)筋力評価(握力、大腿四頭筋力、呼吸筋力)、6分間歩行距離テスト(6MWT)、漸増シャトルウォーキングテスト(ISWT)、長崎大学呼吸器疾患ADLテスト(NRADL)とした。 統計解析方法は、BSS、TLDとCPXの測定項目、その他の測定項目の関係をPearsonの積率相関係数で分析し、相関係数0.5以上を相関ありとした。また、mMRCのgrade 2と3の比較をPaired t検定で分析した。なお、帰無仮説の棄却域は有意水準5%未満とし、統計解析ソフトはSPSS version 17.0を使用した。【説明と同意】 本研究は、ヘルシンキ宣言に沿った研究として実施した。対象への説明と同意は、研究の概要を口頭及び文章にて説明後、研究内容を理解し、研究参加の同意が得られた場合のみを本研究の対象とした。その際参加は任意であり、測定に同意しなくても何ら不利益を受けないこと、また同意後も常時同意を撤回できること、撤回後も何ら不利益を受けることがないこと、個人のプライバシーは厳守されることを説明した。【結果】 TLDは、FEV1.0%(r=0.61)、%FEV1.0(r=0.56)、6MWT(r=0.90)、SWT(r=0.85)、NRADL (r=0.87)と有意な相関が認められ、V(dot)O2(r=0.53)、DI(r=-0.56)は有意ではないものの相関が認められた。一方BSSは、全ての項目と有意な相関が認められなかった。mMRCのgrade 2と3の比較において、TLDは、grade 2がgrade 3より有意に息切れの出現が遅かったものの(p<0.05)、BSSは、grade 2とgrade 3に有意な差は認められなかった。【考察】 COPD患者の運動耐容能、ADLを改善させるためには呼吸困難感の感受性ではなく、呼吸困難感の閾値を低下させること、所謂「感じはじめてからの強くなり易さではなく、如何に感じはじめることを遅らせるか」の重要性が示唆された。TLDを鈍化させる対策として、運動時の気管支拡張剤を有効に活用し気道閉塞の程度を可及的に改善すること、換気予備能をもたせることが考えられ、それにより運動耐容能、ADLを改善させる可能性を有するのではないかと考察された。【理学療法学研究としての意義】 COPD患者の運動耐容能トレーニングの重要性は認識され、多くの施設で理学療法プログラムに取り入れられている。しかし、運動時の呼吸困難感を詳細に評価し、患者個人に合わせた気管支拡張剤の有効活用を行いながら、理学療法を実施している施設はごく一部である。本研究は、少数例ながら運動時の呼吸困難感を詳細に評価し、その影響要因を明確にし、今後の運動耐容能、ADL改善のための呼吸困難対策について考察できたことは、意義深い研究となったものと考える。
著者
阿波 邦彦 堀江 淳 長江 真弥 村田 伸 林 真一郎 今泉 裕次郎 市丸 勝昭 直塚 博行 白仁田 秀一 江越 正次朗 堀川 悦夫
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Db1202-Db1202, 2012

【はじめに、目的】 COPDの骨格筋筋力低下は、全身持久力、ADL、健康関連QOLの低下、予後にも影響している。今回、外出に制限が生じ始める6分間歩行距離400mをもとに、大腿四頭筋筋力を体重で除した体重支持力指数(WBI)のカットオフ値を求めた。そして、そのカットオフ値でCOPD患者を2群に分け、身体機能、身体能力、ADL、健康関連QOLの比較をすることでWBIのカットオフ値の有用性を検討した。【方法】 対象は、研究の参加に同意が得られた男性COPD患者116名であった。平均年齢は74.4±8.7歳、BMIは20.6±3.8、%FEV<sub>1.0</sub>は50.8±23.6%であった。なお、対象の選定は、歩行に支障をきたすような骨関節疾患、脳血管障害や重篤な内科的合併症の有する者、理解力が不良な者、測定への同意が得られなかった者は対象から除外した。主要測定項目はWBIとした。副次測定項目はmMRC息切れスケール、呼吸筋力検査(PImax、PEmax)、握力、片足立脚時間、5m最速歩行時間、Timed Up and Go Test(TUG)、30秒椅子立ち上がりテスト(CS-30)、6分間歩行距離(6MWD)、漸増シャトルウォーキングテスト(ISWT)、長崎大学呼吸ADL質問票(NRADL)、健康関連QOLはSt George's Respiratory Questionnaire(SGRQ)とした。予後指標はupdated BODE indexとした。統計学的解析は、外出に制限が生じ始めるWBIのカットオフ値を6MWD-400m以上群と未満群に分け、ROC曲線にて分析した。また、分析されたWBIのカットオフ値でWBI高値群と低値群に分け、2群間にて副次測定項目の比較をStudents' t-testで分析した。なお、帰無仮説の棄却域は有意水準5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、佐賀大学研究倫理審査委員会の承認を得て実施し、ヘルシンキ宣言に沿った研究とした。なお、対象には研究の主旨、方法、同意の撤回などについて文書を用いて口頭にて説明したうえで同意を得て実施した。【結果】 外出に制限が生じ始めるWBIのカットオフ値は54.7であった。なお、ROC曲線下面積は0.798、感度は0.735、1-特異度は0.348であった。WBI高値群とWBI低値群における副次測定項目の比較は、mMRC息切れスケール(1.8±1.0vs2.3±1.0、p=0.008)、PImax(85.1±35.3vs56.0±28.8cmH<sub>2</sub>0、p<0.001)、PEmax(82.4±37.5vs54.4±32.1cmH<sub>2</sub>0、p=0.001)、握力(33.5±7.2vs 25.5±7.8kg、p<0.001)、片足立脚時間(67.0±42.0vs 22.7±30.2秒、p<0.001)、5m最速歩行時間(2.9±0.9vs3.9±1.5秒、p=0.001)、TUG(6.0±1.8vs9.1±4.6秒、p<0.001)、CS-30(18.3±4.5vs13.4±5.0回、p<0.001)、6MWD(416.7±110.6vs281.0±139.4m、p<0.001)、ISWT(411.9±170.4vs247.3±149.5m、p<0.001)、NRADL(78.7±20.3vs63.9±26.7点、p=0.001)、updated BODE index(3.7±3.0vs7.4±4.8、p<0.001)に有意差が認められた。しかし、SGRQ(39.3±17.5vs45.9±18.1、p=0.06)には有意差は認められなかった。【考察】 COPD患者における外出に制限が生じ始めるWBIは中等度の予測能を認めた。WBI低値群は、WBI高値群よりも各身体機能、身体能力、ADL、予後指標において有意に低値を認めた。これは先行研究と同様の結果であった。しかし、健康関連QOLに有意差は認められなかった。その原因として、健康関連QOLには筋力などの身体機能以外にも不安や抑うつなどの精神的症状も関与しているためと考えられる。今回の研究では、外出制限を6MWDの測定値で検討しているため、想像の域を脱していないことである。そのため、今後の課題は外出制限の具体的な設定や患者背景を検討してゆく必要がある。【理学療法学研究としての意義】 本研究は、外出に制限を生じ始めるWBIのカットオフ値を推定する一つの指標となりうる可能性が示唆された。しかし本研究では検討課題も多く残された。そのため今後も研究を重ねていき臨床の場面にて活用できるような指標に展開したいと考える。