著者
相場 博明
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.195-203, 2019-07-31 (Released:2019-08-29)
参考文献数
7

本校(慶應義塾幼稚舎)は明治7(1874)年創立の私立小学校であり,古い教材が残されている。その中に,昭和6(1931)年頃に採集された東京都立井の頭恩賜公園産の昆虫標本が102種保管されている。現在の東京都では,絶滅あるいは絶滅危惧種と指定されているものが多数含まれている。そこで,小学校4~6年生にそれらの昆虫の名前を知っているか,また,現在はなぜ減少してしまったのか,その理由を問う調査を実施した。その結果,多くの児童はそれらの昆虫の名前を知らず,またその減少の原因についてもさまざまな意見を持っていることがわかった。なお,比較のために大学生70名にも同じ調査を行ったところ,小学生と同様な認識率であった。そこで,これらの標本を用いて,小学校4年生139名を対象に環境の変化と昆虫のかかわりについて考えさせる授業実践を試みた。その結果,児童は昆虫の生態や特徴を調べて議論を重ねることで,環境の変化が昆虫に及ぼす影響について活発な議論のある授業を構築させることができた。このことから,戦前の昆虫標本は理科教材として有用な教材であることがわかった。さらに新学習指導要領(文部科学省,2017)で新たに追加された第6学年の「人と環境」においても,この教材は利用可能であることが示唆された。
著者
相場 博明
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.129-139, 2015
被引用文献数
3

「月の満ち欠け」は, 平成10年小学校理科学習指導要領において削除されたが, 現行小学校理科学習指導要領では第6学年の内容として取り上げられている。ここでは,地球視点から月の満ち欠けの原理を学習することになっている。そして, 中学校3年では宇宙視点から再度月の満ち欠けを学習することになっている。<BR>しかし, 「月の満ち欠け」の指導に関しては, 多くの先行研究により, 教える側は指導困難であり, また学習する側にとっては理解困難であることが指摘されている。また, 指導する立場の教師自身も十分な理解が得られていないという現状が指摘されている。<BR>本研究は, 現行小学校理科教科書の内容を分析し, それらの理由を考察した。その結果, 地球視点で行った月の観察とモデル実験との整合性をとることが困難であり, 地球から見た月と太陽との位置関係と月の満ち欠けの現象の論理的説明が不十分であることがその原因ではないかと考えた。そこで, 地球視点から月の満ち欠けを論理的に説明する指導法と, またそれを補足する「月の満ち欠け説明器」の教材を開発しその実践を行った。その結果, 十分な教育効果が得られ, 小学生でも無理なく「月の満ち欠け」の原理を理解できることがわかった。