著者
野崎 貴博 本多 一平 相良 優太
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
雑誌
九州理学療法士学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.2019, pp.52, 2019

<p>【目的】当院では、2017年より医師、理学療法士らが中心となり小・中学生ソフトボール・野球競技者に対して、投球障害予防フォーラム(以下フォーラム)と称し医学知識の啓発、メディカルチェック、コンディショニング指導などの障害予防活動を行っている。そこで今回、中学野球選手に対して障害実態の把握を行い、今後の障害予防の啓発活動に役立てる事を目的にアンケート調査を実施した。</p><p> </p><p>【方法】対象は2017年と2108年の12月に当院で2度実施したフォーラムに参加した中学野球選手100名(13.4歳、全例男性)、保護者74名(41.7±5.2、男性34名、女性40名)の計174名とした。方法は集団調査法を用いた記名方式でのアンケート調査とした。選手に対しては投球数と練習頻度・時間、疼痛部位及び対応・報告相手を、保護者に対しては疼痛発生時の活動休止期間や対応、試合への出場判断、医学的知識の必要性について調査し、選手の障害の実態と保護者の障害認識を調査した。</p><p> </p><p>【結果】</p><p>①中学野球選手における障害の実態</p><p>フォーラムに参加した選手100名中、複数回答による疼痛部位は肘関節が47%と最多であった。疼痛時の対応として「練習を継続する」と回答した者は56%であり、痛みがある事を誰かに伝えたかの質問に対して「親に伝えた」の回答が45.1%であった。1日の全力投球数で70球を超える者は7%にみられ、練習時間・頻度は5.5日/週、平日2.26時間であった。</p><p>②保護者の障害認識</p><p>選手の疼痛発生時の対応として、「医療機関を受診させる」と回答した者が62.7%であり、その第一選択として「病院」が77%であった。痛みがある時の試合出場についてでは「ポジション変更」「子どもの希望があれば」「無理にでも」などの疼痛を有したまま出場させている者が47.1%であった。また、トレーナーの必要性を感じるかの質問に対して98.6%が「感じる」という回答であった。</p><p> </p><p>【考察】入江らは、中学野球選手の障害調査において2260名中41.1%に肘痛がみられたと報告し、平山や竹中らは投球障害の発症要因として投球数増加や練習時間の過多などを報告している。今回の調査において、肘痛保有者が47%と入江らの報告と類似した結果であった。また、投球数や練習時間の制限が順守されていた一方、56%の選手が疼痛を有したまま競技を継続していた。保護者の対応として医療機関の受診を促すものの、試合の出場に関しては疼痛を有したまま出場させていた。これらの問題は医学的病態理解の乏しさや現場での障害状況判断の困難さによるものではないかと推測している。</p><p>今後の課題として、医学的観点からの安静・休止と現場での活動休止の認識共有が必要であると考えられる。そのためには、保護者や指導者に対し障害に対する正しい知識と理解が求められ、中学生の指導現場においても医学的知識を持った理学療法士の介入が疼痛保有者の症状慢性化を予防できるものと思われた。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本研究はヘルシンキ宣言に基づき対象者の保護には十分留意し、チームの指導者及び対象者の保護者に本研究の主旨を書面で説明し同意を得た。また本研究への参加は自由意志によるものとし、同意を得た後でもその撤回が可能であり、たとえ同意しなくとも不利益を被ることがない旨を説明した。</p>
著者
相良 優太 乾 泰大 小川 孝 西川 仁史 池田 均
出版者
一般社団法人 日本臨床整形外科学会
雑誌
日本臨床整形外科学会雑誌 (ISSN:18817149)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.39-47, 2017

<p>目的:投球障害肩にみられる投球側の肩甲骨位置異常と,肩関節90°外転位での内旋,外旋(第2肢位すなわち2nd planeでの内旋,外旋;以下2nd内旋,2nd外旋)可動域の変化との関連性について検討した.</p><p>方法:対象は,投球障害肩を加療した37人の小学生と中学生である.理学療法開始前には,全例に肩甲骨位置異常が認められた.肩甲骨の位置が左右対称となるように理学療法を行い,理学療法開始前と肩甲骨の位置が左右対称となった時点での2nd内旋,2nd外旋および全回旋可動域を投球側と非投球側とで比較した.</p><p>結果:理学療法開始前には,投球側の2nd内旋可動域の有意な制限と2nd外旋可動域の有意な拡大が認められた.全回旋可動域には有意差はなかった.一方,肩甲骨の位置が左右対称となった時点では,すべての項目で投球側と非投球側との間の有意差はなかった.</p><p>考察:骨性の要因や軟部組織性の要因以外に肩甲骨位置異常が,2nd内旋可動域と2nd外旋可動域の変化に関連していると考える.</p><p>結論:肩甲骨位置異常は,2nd内旋可動域の制限と2nd外旋可動域の拡大を引き起こす一因である.</p>