著者
佐藤 奏衣 矢部 和夫 木塚 俊和 矢崎 友嗣
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.153-171, 2022-03-17 (Released:2022-04-20)
参考文献数
47

近年,高濃度の栄養素やミネラルによる人為負荷が湿原に与える影響が深刻化している.本研究の目的は,地下水経由の人為負荷がワラミズゴケの出現と分布に与える影響を明らかにすることである.2014 年 8 月,北海道勇払湿原群で,流域に畑地のある負荷区と畑地のない対照区を設置した.次に,群落と地下水の水文化学環境を調査し,ワラミズゴケの出現と群落分布を規定する環境因子の関係を解析した.Cl-で標準化した各イオン当量比より,負荷区の Ca2+, Mg2+,および K+の降水寄与率が対照区より低かったことから,これらのイオンの負荷区の地下水への人為負荷が示された.nMDS の結果,ワラミズゴケ群落の分布は pH,ミネラル(Na+,Ca2+,Mg2+,K+,Cl-),および無機態窒素(IN)に対して負の関係を示した.また,ロジスティック回帰分析は,ワラミズゴケの出現は pH,ミネラル,IN,競争種,水位に対して負の関係を示し, nMDS の結果とおおよそ一致した.ロジスティック回帰分析から 9 つの環境因子に関するワラミズゴケの出現可能範囲の推定値が得られた.ワラミズゴケの一部は出現可能範囲外の高濃度ミネラル域にも出現し,ハンモック内部で地下水とは異なる水質が維持されていることが示唆された.パス解析の結果,ワラミズゴケの出現に対する各水文化学環境因子の効果は,競争種の競争排除による間接効果より直接効果のほうが高かった.したがって,ワラミズゴケ保全のためには,水文化学環境を出現可能範囲に維持することと,競争種を抑制することが重要である.
著者
永田 修 矢崎 友嗣 柳井 洋介
出版者
養賢堂
雑誌
農業氣象 (ISSN:00218588)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.23-30, 2010-03

北海道石狩泥炭地に位置する、排水のみ行われた圃場(Dサイト)および、排水とさらに客土が行われた圃場(D-SDサイト)において亜酸化窒素フラックスの測定を2003年から2005年にかけて行った。D-SDサイトにおける亜酸化窒素フラックスは、-0.01から1.15mgN/m2/hrの範囲にあり、6月、10月に突発的に高くなる傾向がみられた。Dサイトの亜酸化窒素フラックスは、-0.01から1.15mgN/m2/hrの範囲にあり、2004年7月から10月にかけて顕著に高く推移した。この間のフラックスは、0.40から4.47mgN/m2/hrの範囲にあり、他の測定期間の最高値0.30mgN/m2/hrを上回っていた。フラックスが高くなった期間、土壌空気中の亜酸化窒素濃度も同様、顕著に高くなっていた。亜酸化窒素の年間発生量は、3.8から41.7kgN/ha/yrの範囲にあり、近傍の現存する湿原での測定値(0.3kgN/ha/yr)に比べ顕著に高い値であった。本研究から、泥炭土の排水、客土といった農地化は、亜酸化窒素発生量を顕著に増大させることが示された。土壌ガス中の亜酸化窒素濃度は、D-SDサイトに比べ、Dサイトで高く、その傾向は、特に、亜酸化窒素フラックスが高く推移した2004年で顕著であった。2004年は、他の2ヶ年に比べ5月〜8月の余剰降水量が顕著に多く、土壌がより乾かなかった測定年であった。本研究から、泥炭地を排水することによる農地化は、自然湿地に比べ、亜酸化窒素フラックスを顕著に増大させること、さらに、その亜酸化窒素発生量には、気象条件に伴う年次変動があることが示された。