著者
アタロッド ペデラーム 青木 正敏 小森 大輔 石田 朋靖 福村 一成 ブーンヤワット サマーキー トンディノック ピヤホン 横家 将納 パンクンガム ソムニミトル パーコークトム ティワー
出版者
養賢堂
雑誌
農業氣象 (ISSN:00218588)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.93-102, 2006-09-10
参考文献数
7
被引用文献数
3 20

対象地域の実蒸発散量(<i>AET</i>)を算定する一般的な方法として,Penman-Monteith法(PM)を用いて計算した基準蒸発散量(<i>ET<sub>0</sub></i>)に作物係数(<i>K<sub>c</sub></i>)を乗ずる方法が知られている。そこで本研究では,熱帯モンスーン気候であるタイ王国の主要な植生である天水田,キャッサバ畑,チーク林において,熱収支ボーエン比法による長期連続観測データを用い,<i>AET</i>から求めたKcと気象要素(日射,気温,風速,飽差,土壌水分量)の相関を検討し,簡便に<i>K<sub>c</sub></i>を推定できる経験式を開発した。<br>対象3サイトにおいて,<i>K<sub>c</sub></i>と上述した気象要素は非常に高い相関関係があったが,上述した気象要素より土壌水分量を除いた場合でも<i>K<sub>c</sub></i>と同様な高い相関関係が認められた。そこで本研究ではより簡便な推定式開発のため,土壌水分量を除いた四つの気象要素より<i>K<sub>c</sub></i>の経験式を導いた。また,全3サイトの統合データにおいても,<i>K<sub>c</sub></i>と気象要素には高い相関関係が認められた。この経験式より推定した蒸発散量を<i>AET</i>と比較した結果,日平均での標準誤差は0.72 mm/dayで,これは19%の誤差に相当した。この時間スケールを5日,10日,15日,20日とした場合,推定蒸発散量の誤差はそれぞれ15%,12%,11%,10%となった。この結果より,本研究で開発した推定式は10日以上の時間スケールで<i>AET</i>を推定することが可能であることが確認された。
著者
杉浦 俊彦 阪本 大輔 朝倉 利員 杉浦 裕義
出版者
養賢堂
雑誌
農業氣象 (ISSN:00218588)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.173-179, 2010-09 (Released:2011-07-26)

モモにおける自発休眠覚醒期推定技術の開発に向けて、自発休眠覚醒効果の温度間差を‘白鳳’の生態実験により検討した。その結果、次のことが示された。1.自発休眠覚醒に対して最も有効な温度は6℃であった。6℃よりも温度が低下するに従って自発休眠覚醒効果は低下し、6℃の効果を1とすると、3℃では約0.9、0℃では約0.7であった。また、-3℃でも一定の効果が認められたが、-6℃では効果は認められなかった。2.6℃よりも高くなっても効果が低下し、9℃では約0.9、12℃では約0.6、15℃では効果は認められなかった。3.この自発休眠覚醒効果の温度間差について、変温条件下における妥当性を検討するため、これらの結果からチルユニットの係数を策定し、露地での自発休眠覚醒状況に適用したところ、よく適合した。
著者
永田 修 矢崎 友嗣 柳井 洋介
出版者
養賢堂
雑誌
農業氣象 (ISSN:00218588)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.23-30, 2010-03

北海道石狩泥炭地に位置する、排水のみ行われた圃場(Dサイト)および、排水とさらに客土が行われた圃場(D-SDサイト)において亜酸化窒素フラックスの測定を2003年から2005年にかけて行った。D-SDサイトにおける亜酸化窒素フラックスは、-0.01から1.15mgN/m2/hrの範囲にあり、6月、10月に突発的に高くなる傾向がみられた。Dサイトの亜酸化窒素フラックスは、-0.01から1.15mgN/m2/hrの範囲にあり、2004年7月から10月にかけて顕著に高く推移した。この間のフラックスは、0.40から4.47mgN/m2/hrの範囲にあり、他の測定期間の最高値0.30mgN/m2/hrを上回っていた。フラックスが高くなった期間、土壌空気中の亜酸化窒素濃度も同様、顕著に高くなっていた。亜酸化窒素の年間発生量は、3.8から41.7kgN/ha/yrの範囲にあり、近傍の現存する湿原での測定値(0.3kgN/ha/yr)に比べ顕著に高い値であった。本研究から、泥炭土の排水、客土といった農地化は、亜酸化窒素発生量を顕著に増大させることが示された。土壌ガス中の亜酸化窒素濃度は、D-SDサイトに比べ、Dサイトで高く、その傾向は、特に、亜酸化窒素フラックスが高く推移した2004年で顕著であった。2004年は、他の2ヶ年に比べ5月〜8月の余剰降水量が顕著に多く、土壌がより乾かなかった測定年であった。本研究から、泥炭地を排水することによる農地化は、自然湿地に比べ、亜酸化窒素フラックスを顕著に増大させること、さらに、その亜酸化窒素発生量には、気象条件に伴う年次変動があることが示された。
著者
高山 成 木村 玲二 神近 牧男 松岡 延浩 張 興昌
出版者
養賢堂
雑誌
農業氣象 (ISSN:00218588)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.173-189, 2004-09-10
被引用文献数
5 8

黄土高原における砂漠化対処に必要な環境モニタリングを目的として、降水の特性について検討した。まず黄土高原における年降水量について、空間分布、安定性(ばらつき)、トレンドを調べた。次に降水の季節パターンに着目し、夏季を中心とした雨季において、降水がどの程度安定して出現するかについて検討した。はじめに1980年から2000年までの53地点の日降水量データを基に、Boosrap法より年平均降水量の区間推定を行った。さらにこの区間推定値を基準として年降水の時系列トレンドを調べた。次に1年を5日間単位の期間に分け、各期間の期間降水比{PRP(、j)}と降水安定度{PSI(、j)}との関係より、各地点における降水の季節パターンについて検討した。年降水量の平均はengeri(騰格里)砂漠、Wulanbu(ウランブ)砂漠の周辺(N38-41°、E104-107°)で最も少なく、低緯度になるほど降水量は増加した。しかし、2つの砂漠の西側に位置するQuilian(チーリエン)山脈周辺の地域(N37°30'、E101°20')は多降水な地域であった。また、Maowusu(毛烏素)砂漠北部とWulanbu砂漠北東の地域、Wugong(武功)周辺の地域は、年降水量の変動が最も大きいが、Quilian山脈周辺の多降水地域やその南方の山岳地域などは年降水の変動が小さかった。年降水量のトレンドについては黄土高原全域を平均した場合、有意なトレンドは見出せなかった。しかし、個別の観測点について見た場合には、数箇所の観測点で増加または減少のトレンドを有する可能性が示唆された。本研究では期間降水比{PRP(、j)}と降水安定度{PSI(、j)}との関係から雨季安定度{RSS(j)}を提示し、夏季を中心とした雨季における降水の安定度(変動度)を評価した。その結果、黄土高原においては同程度の年降水量の地域であっても、東側地域が西側地域よりも雨季に出現する降水が不安定であることが明らかとなった。