- 著者
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石井 禎基
角野 康郎
- 出版者
- 日本生態学会
- 雑誌
- 保全生態学研究 (ISSN:13424327)
- 巻号頁・発行日
- vol.8, no.1, pp.25-32, 2003-08-30
- 被引用文献数
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6
兵庫県東播磨地方の109ケ所のため池の水生植物相の変化を約20年間にわたって追跡調査した.1回目(1979-1983), 2回目(1990), 3回目(1998-1999)の3回の調査を通じて,個々の池では新たに記録される種も少なくなかったが,全体として,大半の水生植物は出現するため池数が大きく滅少していた.ヒシTrapa japonica,オニビシTrapanatans var.japonica,マツモCeratophyllum demersum,ウキクサSpirodela polyrhizaのように水質の富栄養化に耐えられる種の残存率は高かったが,ジュンサイBrasenia schreberiやヒツジグサNymphaea tetragonaのように主に貧栄養水域に生育する種や多くの沈水植物では過去約20年間の残存率は10-35%になっていた.ヒメコウホネNuphar subintegerrimum,フトヒルムシロPotamogeton fryeri,コバノヒルムシロPotamogeton cristatus,ホッスモNajas gramineaは3回目の調査時には確認されなかった.また個々の池における優占度の経年変化をみると,多くの種で低下傾向にあり,消滅への道をたどっている実態が浮かび上がった.各ため池における種の多様度の指標として,浮葉植物・沈水植物・浮遊植物のひとつの池あたりの生育種数を比較した.3回の調査を通じて水生植物の全く見られない池は5ケ所から27ヶ所に増えた.水生植物が見られたとしても1-2種しか見られないため池が多くなり,種の多様度に富んだ池は激減した.水生植物の消滅は,水質悪化とともにため池の埋め立てや改修工事などによってもたらされていた.この結果は,ため池の水生植物のみならず,他の生物部も含む生物多様性全体の危機的状況を示しており,ため池の環境保全が急務であることが明らかになった.