著者
石原 道博 世古 智一
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.27-32, 2007-03-31 (Released:2016-09-10)
参考文献数
30
被引用文献数
1

表現型可塑性は、昆虫では翅多型や季節型および光周期による休眠誘導などの現象として一般的に知られ、季節適応にきわめて重要な役割を果たしている。これらの可塑性は異なる季節に出現する世代の間で見られ、季節的に変動する環境条件に多化性の昆虫が適応した結果、進化したと考えられている。しかしながら、これまでの研究は、可塑性が生じる生理的メカニズムについて調べたものばかりが目立ち、適応的意義まで厳密に調べた研究は少ない。表現型可塑性に適応的意義があるかどうかを明らかにすることは、表現型可塑性の進化を考えるうえでも重要なことである。この総説では、イチモンジセセリとシャープマメゾウムシの2種の多化性昆虫を対象に、世代間で見られる表現型可塑性が寄主植物のフェノロジーに適応したものであることを紹介する。シャープマメゾウムシでは、春に出現する越冬世代成虫は繁殖よりも寿命を長くする方向に、夏や秋に出現する世代の成虫は寿命よりも繁殖に多くのエネルギーを配分している。イチモンジセセリでは、秋に出現する世代のメス成虫は春および夏に出現する世代のメス成虫に比べてかなり大きな卵を産む。また、この世代が野外で遭遇する日長・温度条件下で幼虫を飼育すると、他の世代のものよりも大卵少産の繁殖配分パターンを示す。これらの表現型可塑性は、世代間で生活史形質問のエネルギー配分量の割合が変化するものであり、寄生植物のフェノロジーおよび寄主植物の質の季節変化に対する適応と考えられる。
著者
大串 隆之 高林 純示 山内 淳 石原 道博
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2003

植物-植食性昆虫-捕食者からなる多栄養段階のシステムを対象にして、フィードバック・ループの生成メカニズムとしての植物-植食者相互作用の重要性を実証し、その高次栄養段階に与える影響とメカニズムの生態学的・化学的・分子生物学的基盤を明らかにした。さらに、植食者の被食に対する植物の防衛戦略とその結果生じる間接効果についての理論も発展させた。これまでの3年間の総括を行い、間接効果と非栄養関係を従来の食物網構造に組み込んだ新たな「間接相互作用網」の考え方を提唱した(Annual Review of Ecology, Evolution, and Systematics 36:81-105)。さらに、「間接相互作用網」の生態学的意義とその概念の適用について世界に先駆けて単行本の編集を行った(Ohgushi, T., Craig, T. & Price, P.W. 2006. Ecological Communities : Plant Mediation in Indirect Interaction Webs, Cambridge Univ. Press)。本プロジェクトの成果の多くは、すでに国際誌に公表されている(研究発表リストを参照)。これらの成果に基づいて、植物の形質を介した間接効果が植物上の昆虫群集における相互作用と種の多様性を生み出している重要なメカニズムであることを指摘し、間接相互作用網に基づく生物群集の理解のための新たなアプローチを確立した。このように、本プロジェクトは陸域生態系の栄養段階を通したフィードバック・ループの実態解明と理論の確立に大きな貢献を成し遂げた。
著者
石原 道博 世古 智一
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.27-32, 2007-03-31

表現型可塑性は、昆虫では翅多型や季節型および光周期による休眠誘導などの現象として一般的に知られ、季節適応にきわめて重要な役割を果たしている。これらの可塑性は異なる季節に出現する世代の間で見られ、季節的に変動する環境条件に多化性の昆虫が適応した結果、進化したと考えられている。しかしながら、これまでの研究は、可塑性が生じる生理的メカニズムについて調べたものばかりが目立ち、適応的意義まで厳密に調べた研究は少ない。表現型可塑性に適応的意義があるかどうかを明らかにすることは、表現型可塑性の進化を考えるうえでも重要なことである。この総説では、イチモンジセセリとシャープマメゾウムシの2種の多化性昆虫を対象に、世代間で見られる表現型可塑性が寄主植物のフェノロジーに適応したものであることを紹介する。シャープマメゾウムシでは、春に出現する越冬世代成虫は繁殖よりも寿命を長くする方向に、夏や秋に出現する世代の成虫は寿命よりも繁殖に多くのエネルギーを配分している。イチモンジセセリでは、秋に出現する世代のメス成虫は春および夏に出現する世代のメス成虫に比べてかなり大きな卵を産む。また、この世代が野外で遭遇する日長・温度条件下で幼虫を飼育すると、他の世代のものよりも大卵少産の繁殖配分パターンを示す。これらの表現型可塑性は、世代間で生活史形質問のエネルギー配分量の割合が変化するものであり、寄生植物のフェノロジーおよび寄主植物の質の季節変化に対する適応と考えられる。