- 著者
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古賀 純一郎
- 出版者
- 茨城大学人文学部
- 雑誌
- 人文コミュニケーション学科論集 (ISSN:1881087X)
- 巻号頁・発行日
- no.9, pp.25-46, 2010-09
メディア界の最近のトピックを挙げるとしたら政権交代によって初めて白日の下に曝された日米核密約に象徴される権力の情報操作と、深刻な危機に陥っている日米欧の新聞の経営の立て直し策、具体的にはネット情報への有料課金制であろう。情報操作は、権力の監視を担うメディアにとって避けては通れない課題である。分厚いこの壁を乗り越えてこそ報道は輝きを増すし、この過程を白日にさらすことが情報操作を抑止する原動力になる。透明性の高い政府は、民主主義の円滑な運営にとって欠くべからざる要件でもある。この実現のための権力への監視、情報操作の抑止は、メディアに課された重要な責務の一つと言える。2009 年夏の政権交代によって明らかになった沖縄返還をめぐる核関連の日米密約は、情報操作の最たるものである。国家の"犯罪" を裏付ける電信文を当時入手した毎日新聞記者西山太吉が突き付けた、「まぎれもなく密約は存在している」、との指摘に対し政府は、国会などの答弁で「そうした事実はない」とシラを切り続けて来た。裁判の過程でも、否定し続け、この結果、有罪の刑が西山に下された。密約はないと情報操作し続けた政府の行為。これは主権者である国民に対する悪質な背信行為に他ならない。スクープした西山は、機密漏えい罪で起訴され、有罪判決に服した。毎日新聞も西山をかばい切れず、退社を余儀なくされた。これは、まさに、言論弾圧である。"戦後最大"と表現してもよいのではなかろうか。メディアは、なぜ、西山を当時守り切れなかったのか。戦後最大の言論弾圧に一致して団結し、圧力に抗することができなかったのだろうか。今一度、約40 年前を振り返り、問題を整理し、政府の不正、情報操作を厳しく検証、指弾。責任の所在を明確化させることが必要であろう。もちろん、メディア側の責任の整理も重要だろうし、判決を下した司法の責任も検証されてしかるべきだろう。この論文が考察するもう一つのテーマ。オンライン情報への課金制は、実現すれば、ネット社会に突入して以来最大の、歴史的画期と位置付けられよう。当然のように受け入れられてきた「ネット情報は無料」という考え方が180 度転換するからである。まさに、革命的な変化である。これが、本当に実現するのか。ここ1 ─ 2 年の推移は、注意深く見守る必要があろう。アマゾン・ドット・コムの「キンドル」やアップルの「iPad(アイパッド)」に代表される新たな電子情報端末が売り出された。これを通じて閲覧可能な有料の新聞記事、書籍、雑誌の情報が課金制にどういう影響力を及ぼすのか。目が離せないところである。最近の情報操作の実態と課金制に対するメディアの動きなどを分析した。