著者
福永 真衣 石村 典久 石原 俊治
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.74, no.10, pp.572-580, 2021 (Released:2021-11-29)
参考文献数
48
被引用文献数
1

セリアック病は小麦などに含まれるグルテンにより惹起される自己免疫疾患であり,十二指腸や空腸を中心とした慢性炎症により,腹痛,下痢といった消化器症状のみならず,抑うつなどの多彩な症状を呈する.欧米諸国では有病率が1%程度とされるが,日本を含むアジア諸国では極めて稀と考えられており,疫学調査はほとんど行われていなかった.われわれは健常成人を対象に調査を行い,日本人における有病率は0.05%程度である可能性を示した.セリアック病の発症にはHLA-DQ2, 8といった遺伝的要因と,小麦の摂取量などの環境要因が影響している.診断は抗組織トランスグルタミナーゼIgA抗体(tTG抗体)測定および十二指腸生検による組織学的評価により行われ,基本的な治療はグルテン除去食である.小麦摂取量の増加を背景に今後日本においても増加する可能性があり,注目すべき疾患である.
著者
天野 祐二 結城 崇史 石村 典久 藤代 浩史
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.54, no.9, pp.3189-3203, 2012 (Released:2012-10-22)
参考文献数
37

食道胃接合部の内視鏡診療は対象疾患の増加により,近年,その重要性が高まりつつある.しかしながら,本邦及び欧米の間には,食道胃接合線の内視鏡診断において診断基準の乖離を認めるという大きな問題が存在する.食道胃接合部観察の基本は,胃内の空気を抜き,大きく吸気させて食道下部を十分に伸展させることであり,本邦ではこの手技により食道胃接合線として食道柵状血管の下端を探ることになるが,欧米では逆に可能な限り食道の空気を抜き,胃のヒダ上端を診断するのが一般的であるためである.現在,食道胃接合部において最も重要と考えられているのは,Barrett食道およびBarrett腺癌の内視鏡診断である.本邦では画像強調内視鏡を用いた診断が主流になりつつあるが,それらの内視鏡分類は臨床応用を考えた場合に未だ不十分なものも多い.今後は,正確な食道胃接合線の診断を基軸とし,同部位の特性がよく理解された画像強調内視鏡による精緻な内視鏡診断・分類が早急に必要とされる.
著者
柴垣 広太郎 三代 剛 福山 知香 高橋 佑典 古谷 聡史 大嶋 直樹 川島 耕作 石村 典久 長瀬 真実子 荒木 亜寿香 門田 球一 石原 俊治
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1287-1298, 2021-09-25

要旨●H. pylori未感染者に発生するラズベリー様腺窩上皮型胃腫瘍とH. pylori既感染者に発生する腺窩上皮型胃癌の臨床病理学的特徴を検討した.前者は萎縮のない胃底腺領域に発生する発赤小隆起で,いわゆるラズベリー様外観を呈し,NBI拡大観察で不整な乳頭状/脳回様構造を呈した.後者は萎縮粘膜に発生する粗大な発赤隆起で,前者より大きく形態も歪であった.NBI拡大観察で乳頭状/脳回様構造を呈したが,形態不整は高度であった.病理組織学的には,前者はよく分化した上皮内病変で,WHO分類では多くがlow-grade dysplasia相当であったが,Ki-67 labeling indexは異型度によらず高値を示した.後者は構造異型・細胞異型が高度で,脱分化や脈管侵襲も認められ,胃型胃癌としての高い悪性度を示した.
著者
柴垣 広太郎 三代 剛 川島 耕作 石村 典久 長瀬 真実子 荒木 亜寿香 石川 典由 丸山 理留敬 石原 俊治
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1043-1050, 2020-07-25

要旨●H. pylori未感染者のラズベリー様腺窩上皮型胃癌32例39病変の臨床病理学的特徴を検討し,8病変の全ゲノム解析を行った.年齢は中央値57(38〜78)歳,男女比は21:11,腫瘍は中央値3(1〜6)mm,すべてUM領域に発生し,6例は多発癌であった.白色光像ではいわゆるラズベリー様外観を呈し,NBI拡大像では不整な乳頭状/脳回様構造を呈した.すべて上皮内病変であったが,Ki-67 labeling indexは中央値62.0(4.4〜96.5)%と高値を示した.腫瘍数(多発vs. 単発)と背景因子の検討では,喫煙(83.3% vs. 34.6%,p<0.05),飲酒(66.6% vs. 30.7%,p=0.12),男性(p=0.059),胃底腺ポリープ併存(100% vs. 57.7%,p=0.059)で多発癌を多く認めた.ゲノム解析ではKLF4遺伝子のDNA結合ドメイン内で共通するSNVsを認め,CNVsは半数以上で染色体1p,9q,17qでの増幅および6qや18qでの欠失を認めた.
著者
野津 巧 足立 経一 石村 典久 岸 加奈子 三代 知子 曽田 一也 沖本 英子 川島 耕作 石原 俊治 木下 芳一
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.183-187, 2021 (Released:2021-02-22)
参考文献数
13

症例は41歳女性.健診目的の上部消化管内視鏡検査にて下部食道に限局した白斑所見を認め,生検組織にて高倍率1視野あたり最大78個の好酸球浸潤があり好酸球性食道炎(EoE)と診断した.当センター受診の15日前から標準化スギ花粉エキスによる舌下免疫療法を受けており,EoE診断までは舌下後の薬液は飲み込んでいた.舌下後に薬液を吐き出すようにしたところ,治療継続3カ月後の内視鏡検査では,下部食道の白斑は消失し,生検所見でも改善を認めた.舌下療法を継続しているにもかかわらず,1年6カ月後の検査では,内視鏡所見,組織所見ともEoEの所見を認めなかった.また,スギ花粉症の症状も軽快傾向となっている.
著者
木下 芳一 石原 俊治 石村 典久
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.114, no.10, pp.1765-1773, 2017-10-05 (Released:2017-10-05)
参考文献数
58

GERDの病態と診療に関しては多くの研究が行われ,その病態がほぼ明らかとなり,治療法も確立されたと考えられてきた.ところが,実際には胸やけや呑酸が一般的な胃酸分泌抑制療法に反応せず,治療に困難を感じることは少なくない.最近,このようなGERD例には食道の知覚過敏が存在していることがあると考えられている.知覚過敏として,中枢性の知覚過敏とともに食道粘膜局所の炎症が末梢性の知覚過敏を引きおこしている可能性が指摘されている.食道粘膜の炎症が知覚神経系に及ぼす影響を詳細に検討するとともに,食道粘膜局所の知覚過敏をターゲットとした治療法の研究と開発が望まれる.