著者
砂田 洋志
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.81-106, 1996-04-25

効率的市場仮説の反証として取り上げられた曜日効果とはある曜日の収益率の平均が他の曜日の平均と異なるというものである。近年のミクロ経済学の進展によって収益率の分散と市場における価格情報が密接な関係をもつことが明らかにされた。そこで収益率の分散が曜日間で異なることを分散の曜日効果を定めて,日経平均株価指数を対象に収益率の平均と分散の曜日効果の存在をノンパラメトリックな統計的手法で検証した。本稿ではまず収益率の平均ならびに分散の曜日効果に関する理論を紹介した。そして日経平均株価指数を対象にして日本の株式市場のデータを実証分析した。その際に日本の株式市場で平均と分散の曜日効果を確認したので,曜日効果を市場に流入する情報と結び付けて解釈しながら分析した。本稿の結論は以下の通りである。第1に1976-1985年, 1992-1994年という本稿の全標本期間について日本の株式市場において収益率の平均と分散の各々が曜日間で等しいという仮説が棄却された。第2にバブル前の期間では収益率の平均に関する曜日効果が火,水,木曜日という週の中央の曜日と土曜日に存在したことが確認された。分散の曜日効果は火曜日と土曜日に存在することが確認された。一方,バブル後では平均に関する曜日効果が月曜日と木曜日に存在することが確認された。分散が曜日間で等しいという仮説が棄却されると同時に月曜日の分散が大きいものの,分散の曜日効果は統計的に支持されるはど強くない。第3に混合正規分布仮説を踏まえて解釈すると,バブル前の1976-1985年には米国市場の月曜日の取引きの影響を火曜日の日本市場が強く受けていたことが示唆された。第4に日本の株式市場における曜日効果はバブル前の1976-1985年の間,火,水,木曜日という週の中央の曜日,特に火曜日に特徴があった。しかし,バブル経済期を挟んでその中心が火曜日から月曜日に変化したことが確認された。
著者
砂田 洋志
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.5, pp.167-191, 1999-12-25

本稿では1日を4つの時間帯に分けて日本の米国産大豆先物市場における価格変化額と出来高の平均と分散を時間帯毎に計算して,1日のパターンについて1996年から1998年データを用いて分析した。夜間も時間帯として加えたところ,価格変化額の平均には時間帯による差はないが,分散が1日の中で夜間だけで大きくなること,出来高の平均が1日の中で寄り付きと大引けの節で大きくなること,出来高の分散が寄り付きの節で大きく次の前場3節で小さくなることが分かった。日本の米国産大豆先物市場を情報に関する理論に基いて分析すると,情報に基かない取引が存在すると考えられる節があったので,情報に基かない取引をノイズ取引と名づけ,板寄せ法による節取引を行っている商品先物市場に対して情報とノイズ取引という2つの観点から異質的期待に基いて試論的なモデルを構築した。情報とノイズ取引の要素として,節間に流入する情報の個数とノイズトレーダーによる取引の活発さを用いてモデルを構築した。さらに流入する情報の個数をその平均にするという条件付で価格変化額と出来高に関する条件付の平均と分散の式を導出した。その結果,価格変化額の条件付平均は0で,その条件付分散は節間に流入する情報の個数の平均の正の定数倍になることが導出された。次に出来高の条件付平均は節間に流入する情報の個数の平均の平方根の正の定数倍とその節のノイズトレーダーの取引の活発さを示す値の正の定数倍の和になることが導出された。一方,出来高の条件付分散は節間に流入する情報の個数の平均の正の定数倍とその節のノイズトレーダーによる取引の活発さを示す値の2乗の正の定数倍の和になることが導出された。構築したモデルから寄り付きの出来高の平均と分散,そして夜間の価格変化額の分散が大きくなるのは,夜間に流入する情報の個数の平均が大きいことが原因であり,大引けの出来高の平均と分散が大きいのはノイズ取引が大引けで活発化することが原因であると考えられる。