著者
研川 英征 後藤 雅彦 大角 光司 栗栖 悠貴
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2020年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.132, 2020 (Released:2020-03-30)

1.はじめに自然災害伝承碑は,過去に発生した自然災害の教訓を後世に伝えようと先人たちが残した恒久的な石碑やモニュメントで,「過去に発生した自然災害に関する発生年月日,災害の種類や範囲,被害の内容や規模」が記載されたものである.国土地理院では,「自然災害伝承碑」の情報を,ウェブ地図「地理院地図」(https://maps.gsi.go.jp/)に令和元年6月19日から掲載を開始した.令和2年1月15日現在で,自然災害伝承碑の公開数は, 45都道府県139市区町村の416基である.公開した自然災害伝承碑の情報は,防災教育をはじめとする地域の防災力を高めるための様々な用途に活用可能である.そこで,自然災害伝承碑の公開に関するこれまでの経緯のほか,地形特性情報との重ね合わせにより本取組の意義について報告する.2.経緯近年激甚化・頻発化する自然災害に備えるためには,土地の成り立ちを知り,地域の災害に対する危険性を理解することが重要となる.たとえば低地の微地形は,河川の氾濫等の積み重ねで形成されていることを知れば,その土地では浸水のリスクがあることが理解できる.国土地理院では,このような地形特性情報の整備と提供をおこなってきたが,地形等の情報だけでは,十分に伝わりにくいという課題があった.そのため,国土地理院では,地形特性情報だけでなく,その地域で実際に起こった災害そのものの情報を伝える自然災害伝承碑を災害履歴情報として分かりやすく提供し始めた.自然災害伝承碑の情報を伝えることで,身近な災害への理解を深め,土地の成り立ちの理解促進による地域防災力向上への貢献を目指している.3.地形特性情報との重ね合わせ地理院地図上で,自然災害伝承碑を治水地形分類図や標高情報と重ねると,実際にどのような場所で,どのような災害が起こっていたのかを知ることが出来る.たとえば堤防の決壊が発生したことを伝承している場所について,治水地形分類図と自然災害伝承碑を重ね合わせることで,自然災害伝承碑が旧河道に隣接する微高地上に建立されていることや,自分で作る色別標高図及び陰影起伏図を重ね合わせることで,自然災害伝承碑が建立されている土地は,周囲よりも低い土地であることが読み取れた.自然災害伝承碑の情報を通して,当該箇所の災害履歴が分かるとともに,地形特性情報の意味を実感することが可能となる.4.まとめ地形特性情報に,地域の方々によって伝承されている災害履歴情報である自然災害伝承碑を組みあわせることで,具体的にそこで起こった災害の背景を知ることができ,災害をより身近に感じられるきっかけとなる可能性がある.
著者
栗栖 悠貴 後藤 雅彦 田口 綾子 研川 英征
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2020年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.134, 2020 (Released:2020-03-30)

近年激甚化・頻発化する自然災害に備えるためには,地域の災害に対する危険性を我が事として理解しておくことが重要である.国土地理院では,従来から土地の成り立ちに関する情報(地形特性情報等)を通して地域の危険性について発信してきた.しかし,これらは地形分類など専門性が高く,危険性を実感しにくいため,十分に伝わりにくいという課題があった.そこで,国土地理院は,防災意識を高め,地域全体の防災力を底上げするためには防災教育・地理教育が重要であるとの認識にたち,教育現場で活用可能なわかりやすいコンテンツの整備に取り組んでいる.その中で,令和元年6月19日より国土地理院のウェブ地図「地理院地図」(https://maps.gsi.go.jp/)に自然災害伝承碑の掲載を開始した.自然災害伝承碑には災害の様相や被害の状況などが記載されているため,地域に暮らす住民が災害の危険性を身近に感じやすい有力なツールになる.しかし,現在の教育現場では,教材の研究,作成をする時間が少ないことが原因で,有用な情報であってもすぐ使える形になっていないと活用されない傾向がある.そのため,自然災害伝承碑も授業ですぐに使えるコンテンツとして提供する必要がある.本報告では,「地理教育の道具箱」(https://www.gsi.go.jp/CHIRIRIKYOUIKU/index.html)に掲載しているコンテンツを例に自然災害伝承碑を活用した防災・地理教育支援について紹介する.
著者
岡谷 隆基 研川 英征
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2021, 2021

<p>1.はじめに</p><p> 10年前に発生した東日本大震災は東北地方太平洋岸を中心に未曾有の災害をもたらし,津波が想定浸水範囲を超えて発生したことなどから「想定外」という言葉が多く用いられた。しかしながら,地震や豪雨などに伴う災害は現在の地形や地盤をもたらした土地の成り立ちを強く反映して発生するものであり,地形分類図などの地理情報は人々に起こりうる災害への想像力を「想定外」を超えて働かせることに寄与すると考える。国土地理院はそうした情報を従前より整備してきた。</p><p> 他方,国土地理院は地理空間情報当局として,前身を含めて1世紀以上,地形図を作成,刊行している。当該地形図は,小中学校の社会科や高等学校の地歴科などにおいて,地図を学習する基盤としても長くその役割を果たしてきている。他方,20世紀末からはウェブ地図やカーナビの地図など,我々が普段目にする地図には情報通信技術の急速な発展を背景としたデジタルのものが急速に増えている。国土地理院でもデジタル化の流れに対応すべく,数値地図などのデジタルプロダクトの作成・刊行,電子国土Webシステムや地理院地図などのウェブ地図の整備・公開に取り組んできた。先述した地形分類図なども地理院地図の主要なコンテンツの一つである。</p><p> 本発表は,国土地理院が重点的に改善を行ってきた地理院地図の取組の経緯等について,地理教育や防災教育への波及などを念頭に置きながら報告するものである。</p><p></p><p>2.地理院地図の進化</p><p> 国土地理院は,国土に関する様々な地理空間情報を統合し,コンピュータ上で再現する仮想的な国土として「電子国土」の概念を提唱し,この概念を実現するためのツールとして,平成 15 年に電子国土Webシステムを公開した。以降も改良を重ねる中で,オープンソースソフトウェアの積極的な採用を進め,平成25年に「地理院地図」を公開し,ウェブブラウザのみならずスマートフォンや PC 用の地図表示ライブラリからも地図データが利用できるようになった(北村ほか,2014)。</p><p> 以降も,様々なコンテンツや機能が追加実装され続けているが,地理教育や防災教育に活用できる機能の強化も進んでおり,例えば以下のようなものが追加された(国土地理院,2021a)。</p><p>・空中写真の全国シームレス化,地下震源断層モデルの3D表示の実現(平成28年度)</p><p>・断面図作成,標高段彩機能の実装(平成29年度)</p><p> 地理院地図はhttps://maps.gsi.go.jp/から利用できる。また,教育における活用事例なども地理院地図の使い方ページ(国土地理院,2021b)に示している。地理院地図のコンテンツの拡充や機能強化の取組を通じ,今後起こりうる災害への想像力を働かせることに寄与できると考える。このような取組を通じて,今後も防災・減災に寄与していきたい。</p><p></p><p>参考文献等</p><p>北村京子・小島脩平・打上真一・神田洋史・藤村英範(2014):地理院地図の公開.国土地理院時報,125,53-57.</p><p>国土地理院(2021a):過去のお知らせ.</p><p> https://maps.gsi.go.jp/help/notice.html(最終閲覧日:2021.1.10)</p><p>国土地理院(2021b):地理院地図の使い方.</p><p> https://maps.gsi.go.jp/help/intro/(最終閲覧日:2021.1.10)</p>
著者
辰夫 辰夫 研川 英征 吉田 一希
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2017, 2017

<br><br>平成28年(2016)4月16日にM7.3の内陸直下型の熊本地震が発生し、地震断層・亀裂、液状化などの地表変状、多数の建物の倒壊が生じた。そこで、被害の集中した益城町市街地から熊本市にかけて地震直後の地形分類図の作成と共に、地震後の空中写真により液状化、亀裂などの地表の変状、建物被害の判読、これらの分布と地形との関係について調査を行った。