著者
磯村 毅
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.62-65, 2019-05-31 (Released:2019-06-28)
参考文献数
9

喫煙には他の依存症と共通する神経学的変化(1.依存対象に対する永続する報酬系の過敏化,2.依存対象以外の報酬(食事・金銭など)に対する報酬系の反応性低下,3.前頭葉による制御機能の低下など)がある.しかしこれらの神経学的変化を喫煙者は必ずしも自覚しておらず,認知のゆがみが生じ,心理的にも禁煙が困難となっている(失楽園仮説).特に2の変化は自覚されにくく,ニコチンにより手軽に報酬が得られる喫煙の評価・優先順位が高くなってしまう.例えば食後の喫煙は至福の時と考える喫煙者は多いが,当人たちの認知とは裏腹に,これはニコチンの慢性作用に起因する食事の幸せに対する感受性低下を喫煙で対償しているに過ぎない.また禁煙後の生活を悲観する喫煙者は多いが,逆に禁煙に伴う報酬系機能の回復の可能性も示唆されている.これらの知見は喫煙者に客観的な視点を提供し,自らの喫煙行動を再考し禁煙への内的動機を高める契機となると期待される.
著者
吉井 千春 加濃 正人 磯村 毅 国友 史雄 相沢 政明 原田 久 原田 正平 川波 由紀子 城戸 優光
出版者
The University of Occupational and Environmental Health, Japan
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.45-55, 2006-03-01 (Released:2017-04-11)
被引用文献数
33 26

喫煙習慣は心理的依存と身体的依存から成り立っている. 我々は心理的依存の一要素として社会的ニコチン依存という新しい概念を考え出し, それを評価する新しい調査票として「加濃式社会的ニコチン依存度調査票Version 2」(the Kano Test for Social Nicotine Dependence; KTSND)を作成した. KTSNDは10問30点満点からなるが, その有用性を検討するため製薬会社社員に配布し, 344名から有効な回答を得た. 喫煙者(105名), 元喫煙者(88名), 非喫煙者(151名)の各群で, 総合得点は18.4±5.2, 14.2±6.1, 12.1±5.6と3群間でいずれも有意差を認めた. 設問別の検討では10問すべてで喫煙歴による有意差を認めた. さらに喫煙者をニコチンの身体的依存の指標である「1日喫煙本数」および「朝の1本を起床何分後に吸うか」で亜分類し, 総合得点との関連を検討したが, ほとんど差は出なかった. これに対して禁煙のステージによる亜分類では, 全く禁煙の意志がないimmotives(無関心期)で22.4±6.3, precontemplators(前熟考期)が19.0±3.9, contemplators(熟考期)が16.1±3.8, preparers(準備期)が14.5±5.9と, 各群間で有意差を認めた. これらの結果から, KTSNDは喫煙習慣の有無や禁煙のステージをよく反映し, 喫煙の心理的依存を評価する手段として有用な方法と考えられた.