著者
磯田 沙織
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.28-43, 2021 (Released:2021-07-31)
参考文献数
21

ペルーでは1990年代以降、約30年にわたって新自由主義経済政策が実施されてきた。その過程でマクロ経済は安定したものの、地方を中心に貧困状態が改善されない人々の不満が蓄積されてきた。他方、次々と出現する個人政党が組織化されないまま民主体制が維持され、誰が大統領に当選しようとも新自由主義経済政策が維持される「自動操縦(piloto automático)」であると揶揄されてきた。また、1990年代以降の大統領はすべて汚職などにより実刑判決を受けたり、捜査対象になったり、あるいは捜査の最中に自殺したことで、有権者の政治家に対する不信は強まっている。こうした新自由主義経済政策に対する不満、既存の政治家に対する不信の蓄積により、2021年総選挙において左派の泡沫候補が一次投票を1位通過し、決選投票においても過半数を上回る票を獲得した。本稿では、2021年総選挙の過程でペルーの分断が可視化されたことに関して、フジモリ派と反フジモリ派が二分してきたこと、都市部と農村部の格差が継続してきたことを中心に考察する。
著者
磯田 沙織
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.41-54, 2023 (Released:2023-07-31)
参考文献数
19

1980年の民政移管後のペルーでは、政党内部や政党間の合意形成が困難な状態であり、とくに2000年以降は、有力候補がその場しのぎの選挙運動を組織したり、あるいはいくつかの政党が選挙戦を有利に戦うため場当たり的に有力候補を招待し、選挙後の党内では、招待した政治家と古参の党員とのあいだであつれきが生まれるといった傾向にあった。このため、政党間はおろか政党内部の合意形成も難しいという状態のまま、定期的に選挙が実施されてきた。そのあいだに蓄積された課題は2018年以降の大統領弾劾発議の頻発へとつながり、2022年12月の大統領弾劾裁判中に、大統領が憲法の規定を無視して国会解散を宣言し、国会が大統領の職務停止を可決した。その後の政権は、この職務停止を「国会によるクーデター」であったと批判する反政府デモに直面し、前倒し選挙の実施を模索するも、前倒し選挙に消極的な政治家とのあいだで合意形成ができないままである。本稿では、過去のペルーでの大統領弾劾を類型化しつつ、2022年12月の弾劾裁判中の出来事や、現在の政権に対するペルー国民の不満について、世論調査結果から明らかにする。
著者
畑 恵子 渡部 奈々 近田 亮平 松久 玲子 尾尻 希和 磯田 沙織
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究では文化的同質性が高いにもかかわらず、LGBTの法的権利保障において異なったレベルにあるラテンアメリカ主要6カ国を対象とし、地域横断的な比較分析を行う。政党、カトリック教会・宗教組織、市民組織・当事者団体、ジェンダー・セクシュアリティ研究者等をこの問題に関わる主要なアクターと捉えて、資料調査・聞き取り調査を通して、単なる個別研究の寄せ集めとならないよう配慮しながら、ラテンアメリカ諸国に共通する促進/阻害要因と各国固有の要因を析出する。その成果は積極的な発信に努め、学術的貢献にとどまらず、多様性と寛容さの保障を求められている日本社会への提言へとつなげる。