著者
坂口 安紀
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.35-48, 2018-07-31 (Released:2019-03-07)
参考文献数
20
被引用文献数
3

ベネズエラは、経済成長率が4年連続マイナス、インフレ率が4万パーセントを超えるなど、想像を絶する厳しい経済状況に直面している。本稿では、ベネズエラの厳しい経済状況を図表によって明示的に示し、その背景要因について概説する。マイナス成長については、国際石油価格の下落の影響も大きいものの、チャベス政権期からの国家介入型経済政策がもたらしたマクロ経済の歪みの蓄積や生産部門へのダメージが重要である。ハイパーインフレや対外債務という切迫した問題も、チャベス期から始まった著しい財政肥大に原因があり、マドゥロ政権の経済運営のみならず、チャベス期からの経済政策そのものに原因があると考えられる。
著者
坂口 安紀
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.48-60, 2022 (Released:2022-01-31)
参考文献数
26
被引用文献数
1

ベネズエラでは、ニコラス・マドゥロ(チャベス派)、フアン・グアイド(反チャベス派)のふたりが、自らが正統な大統領であると主張して対峙する状況になって約3年が経過した。国際社会も、マドゥロを支持する中国・ロシアなどの国々と、グアイドを支持する米国、EU、南米のリマグループなどに分かれている。米国の経済制裁や中国・ロシアによるマドゥロ支援、またノルウェーなど両者の対話を求める国々、国内の食料・医薬品不足や難民問題などで支援を拡大する国連の機関など、国際社会の関与は、内政にも影響を与える。本稿では、両勢力を支持する大国である米国および中国・ロシアが、ベネズエラに対してどのような政策対応をとってきたのかについて、それぞれの国や政権ごとの特徴に焦点を当てて考察する。
著者
北野 浩一
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.16-31, 2020 (Released:2020-01-31)
参考文献数
11
被引用文献数
1

2019年10月中旬に中高生の地下鉄無賃乗車運動から始まったチリの大規模な反政府デモは、瞬く間に社会問題全般に対する改善要求へと変わっていった。特に、高齢者の貧困の問題と年金改革要求は広く国民が支持する要求となった。統計データから見ると、チリの貧困・所得格差の実態は近年改善がみられる。しかし、OECDへの加盟や左派勢力の躍進などにより、貧困・所得格差の問題に関する民衆の不満は急速に高まっている。これまで、チリは比較的安定した政治システムと堅実な経済政策を維持してきたが、躍進する左派勢力と力を増す民衆運動を前に、政策の大転換を迫られている。
著者
坂口 安紀
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.42-56, 2023 (Released:2023-01-31)
参考文献数
3

ベネズエラは2014年以降7年連続のマイナス成長が累積し、経済規模(GDP)が5分の1に縮小するという未曾有の経済危機を経験した。同時にハイパーインフレにも悩まされた。それが2021年後半以降、経済成長率がプラスに転じるとともにインフレ率が100%台にまで低下した。ベネズエラ経済が好転の兆しをみせている背景には何があるのか。本稿では、「やむにやまれぬ」マドゥロ政権による国家介入型経済政策の緩和と事実上のドル化の広がりを指摘する。
著者
笛田 千容
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.31-43, 2020 (Released:2020-07-31)
参考文献数
11

本稿では、2019年6月に誕生したブケレ政権のおよそ1年の成果を振り返る。まず、閣僚等の人選と政府計画の概要から新政権がめざすものを明らかにする。次に、過去の政権や周辺国との比較をふまえながら、重点政策である治安対策と汚職対策に評価を加える。最後に、昨今浮上した大統領と立法府との対立および新型コロナウィルスによる混乱の背景と、大統領によるそれらへの対処の仕方について述べる。
著者
坂口 安紀
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.1-19, 2021 (Released:2021-01-31)
参考文献数
27

ベネズエラでは経済的にも政治的にも、理解しづらい状況が継続している。国家経済の規模(GDP)がわずか5年で4割弱に縮小、憲法違反のドル化の進展が公的経済制度の不備を補完している。2019年以降は、ふたりの大統領が対峙するのに加え、国会もふたつ立ち、制憲議会とあわせて、見かけ上は三つの立法権力が存在する状況が続いた。本稿では、そのような事態に陥った背景を考察する。カギとなるのは、政治経済両面で広がる公的制度の機能不全(無視)であり、それを補完すべく広がるインフォーマルなものごとの仕切り、運用、そしてそれがさらに公的制度の機能不全、形骸化を深めるという悪循環である。そのような厳しい状況下で2020年には、新型コロナ感染症がベネズエラにも広がった。
著者
上谷 直克
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.1-18, 2022 (Released:2022-01-31)
参考文献数
35
被引用文献数
2

2019年に大規模な社会騒乱を経験したラテンアメリカ諸国は、そのさなかにCOVID-19に襲われ、感染者や死者が断続的に増加するなか、多くの国で厳格なロックダウンが施行された。しかし、もちろん各国の政治は政治であるがゆえにその動きを止めることはなく、極端にはハイチの大統領暗殺事件など、多様な政治事象が生じている。本稿では、このように「混乱するラテンアメリカ政治」の今を捉えるべく、複数のラテンアメリカ諸国の事例を対象にさまざまなデータを用いつつ、「国家の脆弱性」「政治体制の変動」「代表制の危機」などいくつか政治学の重要テーマに絞って、問題や論点の明確化と整理を試みる。
著者
三浦 航太
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.1-15, 2020 (Released:2020-01-31)
参考文献数
22
被引用文献数
3

本稿は、2019年10月中旬以来チリで発生した社会危機を、2011年の学生運動や新しい左派勢力という視点から検討する。軍政下に導入され民主化後も継続してきた既存の政治経済社会システムは、経済格差や社会と政治の乖離を生み出し、それは市民の不満の蓄積、そして近年の抗議行動の増加へとつながった。2011年に大規模な学生運動が発生したことや、そこから生まれた新しい左派勢力である広域戦線が2017年総選挙で台頭したことは、2019年の社会危機の以前から既存のシステムに対する問題提起がなされていたことを示している。これまで学生運動や新しい左派勢力が示してきた変革への意思は、2019年の社会危機を通じてチリの多くの人々からも示され、新憲法制定に向けた合意へとつながった。2020年4月には新憲法をめぐる国民投票が実施される。既存のシステムを修正して維持するのか、新しいシステムへ変革していくのか、チリは大きな岐路に立たされている。
著者
笛田 千容
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.35-47, 2022 (Released:2022-01-31)
参考文献数
13
被引用文献数
1

2019年の大統領選挙での勝利につづき、2021年2月の国会議員選挙で自身の政党が勝利を収めたエルサルバドルのブケレ大統領は、同年5月1日の新国会発足と同時に違憲審査権を行使する最高裁憲法法廷の掌握を図り、政権の意向に沿って憲法解釈を行う機関に変質させた。つづいて最高裁および裁判所システム全体に対する影響力を強めながら、憲法改正の準備に進んでいる。また、それと並行して、検察長官の交代や汚職事件の捜査にかかわる国際的な協力協定の破棄によって検察を掌握し、「反汚職」を旗印に政敵の排除に邁進している。本稿は、これらの経緯を整理し、そこから導出される長期政権化のシナリオを提示する。
著者
豊田 紳
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.50-63, 2021 (Released:2021-01-31)
参考文献数
23

メキシコの与党・国民再生運動は、その比例区の候補者の一部を選出するにあたって、選挙とくじ引きを組み合わせるという独自の制度を採用している。本稿は、この制度を「選挙くじ引き制」と呼び、それがもたらす効果を検証することを目的とする。具体的には、選挙くじ引き制の採用によって、候補者選出時点での派閥対立が抑制されると同時に、選出された議員の学歴は、メキシコ人の平均学歴に接近することを、議員プロフィールに関する統計分析から示す。
著者
坂口 安紀
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.44-58, 2019 (Released:2019-07-31)
参考文献数
29

ベネズエラは現在、政治、経済、社会的に国家破綻の状況に陥っている。2019年1月、反政府派が過半数を支配する国会のグアイド議長が憲法の規定に基づき暫定大統領に就任して以降、ベネズエラは「ふたりの大統領」が並び立ち、政治的緊張が極度に高まっている。マドゥロ政権は軍の支持を背景に、反政府派政治リーダーや一般市民、そして離反が疑われる軍人などへの弾圧を強めている。国内ではいまだマドゥロ政権の実行支配が続いているが、マドゥロ政権による人権侵害は国際社会から厳しく糾弾されている。本稿では、ふたりの大統領がたつことになった背景、厳しい経済社会的状況にも限らずマドゥロ政権が継続している理由、ベネズエラ危機に対する国際社会の対応などについて、1月以降の情勢に関して情報を整理し、解説する。
著者
上谷 直克
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.51-70, 2020 (Released:2020-01-31)
参考文献数
15

2019年の5月にV-Dem(Varieties of Democracy)研究所から発行された年報『Democracy Facing Global Challenges-V-Dem Annual Democracy Report 2019』によると、昨年のレポートでここ約10年の世界の民主政の特徴として指摘された、「民主主義の後退(democratic backsliding)」や「専制化(autocratization)」傾向が相変わらず続いているという。中南米地域についても、引き続き「専制化」が指摘されるニカラグアやベネズエラ、「後退」するブラジルに加え、新たにハイチやホンジュラスでも「後退」や「専制化」傾向が認められた。そこで本稿では、そうして「専制化」するホンジュラスや、隣接するグアテマラ、エルサルバドルの、いわゆる中米の北部三角地帯諸国(Northern Triangle of Central America、以下NTCs)の「民主主義」の現状について、V-Demの様ざまな指標の変化に着目しつつ、報告する。
著者
近田 亮平
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.24-33, 2019 (Released:2019-07-31)
参考文献数
16

本稿は、2019年に誕生したボルソナロ新政権の特徴や施策から、ブラジルの社会福祉が転換しつつある点について考察するものである。はじめに、おもに1990年代以降におけるブラジルの社会福祉の制度や政策の展開を概観し、1985年の民政移管後のブラジルでは1988年憲法を礎石として社会民主主義的な福祉レジームの構築が志向されてきた点を論じる。そして、右派・保守イデオロギー色が強いというボルソナロ政権の特徴、および、同政権がすでに実施した社会分野に関する施策や措置についてまとめ、ボルソナロ政権下のブラジルにおける福祉レジームが家族主義的なレジームに転換しつつあるとの見解を示す。
著者
中原 篤史
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.17-34, 2018-07-31 (Released:2019-03-07)
参考文献数
20

ホンジュラスの政権与党である国民党は、憲法で禁止されていた再選を最高裁に対する異議申し立てを通して可能にした。それにより第2期目のエルナンデス政権が誕生した。しかし、この再選は憲法違反とする市民の強い批判に加えて、大統領や政権幹部、国民党も絡んだ汚職問題や無処罰への批判により、市民による反汚職、反政権の抗議行動が発生し始めた。その特徴として、それまでは政治に対する関心が比較的薄く、従来はこうした抗議活動には参加しなかった一般市民が、SNSなどを通じてつながり、社会正義をかかげて参加しているという点が指摘できる。本稿では第1期のエルナンデス政権のガバナンスを振り返ると共に、任期中に発覚した数々の汚職問題、軍・警察の腐敗問題と、市民から憲法違反と批判されながら国民党の強引な手法で実現した大統領の再選問題を取り上げる。そしてそれに対して社会正義を問い抗議活動を行うホンジュラス市民社会の活動を概観する。
著者
北野 浩一
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.70-83, 2019 (Released:2019-03-07)
参考文献数
14

チリでは2000年代以降近隣国からの移民が拡大していたが、2017年からは首都サンティアゴにおいてハイチとベネズエラからの移民の急増が大きな社会現象となっている。移民のプル要因としては、所得面と治安面で出身国とチリとの格差が拡大していることがあげられる。移民に対して極端な排斥の動きが出ている国もあるが、チリでは高齢化する労働力を補い成長の原動力と位置づける意見が政府から出され、違法滞在者の取り締まりを強化する一方、合法的な受け入れ体制が整備され始めている。労働力不足が顕在化している今のうちに、移民の同化政策をすることが肝要である。
著者
三浦 航太 北野 浩一
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.1-16, 2023 (Released:2023-01-31)
参考文献数
8

2022年9月4日に行われた新憲法案承認をめぐる国民投票の結果、1年にわたり制憲会議で作成されてきた新憲法案は否決された。本稿の目的は、なぜ新憲法案が否決されたのかを検討することにある。まず、制憲会議には市民社会組織での活動経験をもつ多様な関心テーマや政策提案をもつ議員が多数選出された。制憲会議では、そうした特徴をもつ議員たちによる個別の発議をもとに、議論が進められた。その結果、多民族国家の規定、上院の廃止、私的所有権の制限、社会保障、教育、ジェンダーといった社会変革をめざす各論点が、グランドデザインを欠いたまま浮上した。左派寄りの議員構成もあり、それほど合意形成を経ることなく、新憲法案に盛り込まれた。当初から新憲法制定に否定的な右派や保守的な層の国民の反対だけでなく、とくに多民族国家の規定に対する国民の懸念は大きく、政治的立場、価値観で中道に位置する国民の支持を大きく失い、国民投票での大差の否決に結び付いたと考えられる。
著者
舛方 周一郎
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.64-77, 2021 (Released:2021-01-31)
参考文献数
15

ラテンアメリカへの対外進出を強める中国を考えるとき、孔子学院の設置は中国の文化面からの世界展開と各国の警戒感を顕著に映し出す好事例である。2000年代になり中国とラテンアメリカとの関係は緊密化したものの、ラテンアメリカでの孔子学院の設置には不透明な点が多い。中国の文化外交としての孔子学院の設置は、相互依存論または中国脅威論に依拠して認識されている。とくにブラジルでの孔子学院は、文化活動の一環として2008年に初めてサンパウロ州立大学に設置された。しかし中国政府が進める「一帯一路」構想の発表後、この構想に統合されることで、孔子学院の設置は2019年時点で11カ所の大学に拡大した。孔子学院はブラジルでの中国語教育や広報活動だけでなく、中国企業への人材斡旋などの経済活動にも寄与している。設置先地域における中国語教育の普及の遅れなどの諸問題を抱えつつも、孔子学院は中国とブラジルとの文化交流や相互理解の深化に効果を上げている可能性がある。