著者
北野 浩一
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.16-31, 2020 (Released:2020-01-31)
参考文献数
11
被引用文献数
1

2019年10月中旬に中高生の地下鉄無賃乗車運動から始まったチリの大規模な反政府デモは、瞬く間に社会問題全般に対する改善要求へと変わっていった。特に、高齢者の貧困の問題と年金改革要求は広く国民が支持する要求となった。統計データから見ると、チリの貧困・所得格差の実態は近年改善がみられる。しかし、OECDへの加盟や左派勢力の躍進などにより、貧困・所得格差の問題に関する民衆の不満は急速に高まっている。これまで、チリは比較的安定した政治システムと堅実な経済政策を維持してきたが、躍進する左派勢力と力を増す民衆運動を前に、政策の大転換を迫られている。
著者
坂口 安紀
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.35-48, 2018-07-31 (Released:2019-03-07)
参考文献数
20
被引用文献数
3

ベネズエラは、経済成長率が4年連続マイナス、インフレ率が4万パーセントを超えるなど、想像を絶する厳しい経済状況に直面している。本稿では、ベネズエラの厳しい経済状況を図表によって明示的に示し、その背景要因について概説する。マイナス成長については、国際石油価格の下落の影響も大きいものの、チャベス政権期からの国家介入型経済政策がもたらしたマクロ経済の歪みの蓄積や生産部門へのダメージが重要である。ハイパーインフレや対外債務という切迫した問題も、チャベス期から始まった著しい財政肥大に原因があり、マドゥロ政権の経済運営のみならず、チャベス期からの経済政策そのものに原因があると考えられる。
著者
坂口 安紀
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.44-58, 2019 (Released:2019-07-31)
参考文献数
29

ベネズエラは現在、政治、経済、社会的に国家破綻の状況に陥っている。2019年1月、反政府派が過半数を支配する国会のグアイド議長が憲法の規定に基づき暫定大統領に就任して以降、ベネズエラは「ふたりの大統領」が並び立ち、政治的緊張が極度に高まっている。マドゥロ政権は軍の支持を背景に、反政府派政治リーダーや一般市民、そして離反が疑われる軍人などへの弾圧を強めている。国内ではいまだマドゥロ政権の実行支配が続いているが、マドゥロ政権による人権侵害は国際社会から厳しく糾弾されている。本稿では、ふたりの大統領がたつことになった背景、厳しい経済社会的状況にも限らずマドゥロ政権が継続している理由、ベネズエラ危機に対する国際社会の対応などについて、1月以降の情勢に関して情報を整理し、解説する。
著者
三浦 航太
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.1-15, 2020 (Released:2020-01-31)
参考文献数
22

本稿は、2019年10月中旬以来チリで発生した社会危機を、2011年の学生運動や新しい左派勢力という視点から検討する。軍政下に導入され民主化後も継続してきた既存の政治経済社会システムは、経済格差や社会と政治の乖離を生み出し、それは市民の不満の蓄積、そして近年の抗議行動の増加へとつながった。2011年に大規模な学生運動が発生したことや、そこから生まれた新しい左派勢力である広域戦線が2017年総選挙で台頭したことは、2019年の社会危機の以前から既存のシステムに対する問題提起がなされていたことを示している。これまで学生運動や新しい左派勢力が示してきた変革への意思は、2019年の社会危機を通じてチリの多くの人々からも示され、新憲法制定に向けた合意へとつながった。2020年4月には新憲法をめぐる国民投票が実施される。既存のシステムを修正して維持するのか、新しいシステムへ変革していくのか、チリは大きな岐路に立たされている。
著者
北野 浩一
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.70-83, 2019 (Released:2019-03-07)
参考文献数
14

チリでは2000年代以降近隣国からの移民が拡大していたが、2017年からは首都サンティアゴにおいてハイチとベネズエラからの移民の急増が大きな社会現象となっている。移民のプル要因としては、所得面と治安面で出身国とチリとの格差が拡大していることがあげられる。移民に対して極端な排斥の動きが出ている国もあるが、チリでは高齢化する労働力を補い成長の原動力と位置づける意見が政府から出され、違法滞在者の取り締まりを強化する一方、合法的な受け入れ体制が整備され始めている。労働力不足が顕在化している今のうちに、移民の同化政策をすることが肝要である。
著者
豊田 紳
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.50-63, 2021 (Released:2021-01-31)
参考文献数
23

メキシコの与党・国民再生運動は、その比例区の候補者の一部を選出するにあたって、選挙とくじ引きを組み合わせるという独自の制度を採用している。本稿は、この制度を「選挙くじ引き制」と呼び、それがもたらす効果を検証することを目的とする。具体的には、選挙くじ引き制の採用によって、候補者選出時点での派閥対立が抑制されると同時に、選出された議員の学歴は、メキシコ人の平均学歴に接近することを、議員プロフィールに関する統計分析から示す。
著者
上谷 直克
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.51-70, 2020 (Released:2020-01-31)
参考文献数
15

2019年の5月にV-Dem(Varieties of Democracy)研究所から発行された年報『Democracy Facing Global Challenges-V-Dem Annual Democracy Report 2019』によると、昨年のレポートでここ約10年の世界の民主政の特徴として指摘された、「民主主義の後退(democratic backsliding)」や「専制化(autocratization)」傾向が相変わらず続いているという。中南米地域についても、引き続き「専制化」が指摘されるニカラグアやベネズエラ、「後退」するブラジルに加え、新たにハイチやホンジュラスでも「後退」や「専制化」傾向が認められた。そこで本稿では、そうして「専制化」するホンジュラスや、隣接するグアテマラ、エルサルバドルの、いわゆる中米の北部三角地帯諸国(Northern Triangle of Central America、以下NTCs)の「民主主義」の現状について、V-Demの様ざまな指標の変化に着目しつつ、報告する。
著者
中原 篤史
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.17-34, 2018-07-31 (Released:2019-03-07)
参考文献数
20

ホンジュラスの政権与党である国民党は、憲法で禁止されていた再選を最高裁に対する異議申し立てを通して可能にした。それにより第2期目のエルナンデス政権が誕生した。しかし、この再選は憲法違反とする市民の強い批判に加えて、大統領や政権幹部、国民党も絡んだ汚職問題や無処罰への批判により、市民による反汚職、反政権の抗議行動が発生し始めた。その特徴として、それまでは政治に対する関心が比較的薄く、従来はこうした抗議活動には参加しなかった一般市民が、SNSなどを通じてつながり、社会正義をかかげて参加しているという点が指摘できる。本稿では第1期のエルナンデス政権のガバナンスを振り返ると共に、任期中に発覚した数々の汚職問題、軍・警察の腐敗問題と、市民から憲法違反と批判されながら国民党の強引な手法で実現した大統領の再選問題を取り上げる。そしてそれに対して社会正義を問い抗議活動を行うホンジュラス市民社会の活動を概観する。
著者
舛方 周一郎
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.64-77, 2021 (Released:2021-01-31)
参考文献数
15

ラテンアメリカへの対外進出を強める中国を考えるとき、孔子学院の設置は中国の文化面からの世界展開と各国の警戒感を顕著に映し出す好事例である。2000年代になり中国とラテンアメリカとの関係は緊密化したものの、ラテンアメリカでの孔子学院の設置には不透明な点が多い。中国の文化外交としての孔子学院の設置は、相互依存論または中国脅威論に依拠して認識されている。とくにブラジルでの孔子学院は、文化活動の一環として2008年に初めてサンパウロ州立大学に設置された。しかし中国政府が進める「一帯一路」構想の発表後、この構想に統合されることで、孔子学院の設置は2019年時点で11カ所の大学に拡大した。孔子学院はブラジルでの中国語教育や広報活動だけでなく、中国企業への人材斡旋などの経済活動にも寄与している。設置先地域における中国語教育の普及の遅れなどの諸問題を抱えつつも、孔子学院は中国とブラジルとの文化交流や相互理解の深化に効果を上げている可能性がある。
著者
菊池 啓一
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.1-12, 2019 (Released:2019-07-31)
参考文献数
11

本稿はボルソナロ政権下における大統領・議会関係の特徴を検討したものである。2018年総選挙におけるボルソナロの当選や下院選・上院選での社会自由党の躍進、労働者党・ブラジル社会民主党・ブラジル民主運動の議席の減少は既存の政党政治に対する不信の産物であった。そのため、ボルソナロは比例代表制・多党制・大統領制という組み合わせによって生み出される連立政権に特徴づけられる「連合大統領制」を否定して議員連盟との協力による閣僚任命を行ったが、政党連合を基盤としない大統領・議会関係は不安定であり、議会が政権運営の障害となるケースも出てきている。2019年4月頃から政権側による他党との歩み寄りの模索がみられるが、「連合大統領制」への回帰による大統領・議会関係の安定化と政権の一層の支持率の低下というジレンマの中でボルソナロ大統領がどのような選択をしていくのかを、今後注視していく必要がある。
著者
近田 亮平
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.24-33, 2019 (Released:2019-07-31)
参考文献数
16

本稿は、2019年に誕生したボルソナロ新政権の特徴や施策から、ブラジルの社会福祉が転換しつつある点について考察するものである。はじめに、おもに1990年代以降におけるブラジルの社会福祉の制度や政策の展開を概観し、1985年の民政移管後のブラジルでは1988年憲法を礎石として社会民主主義的な福祉レジームの構築が志向されてきた点を論じる。そして、右派・保守イデオロギー色が強いというボルソナロ政権の特徴、および、同政権がすでに実施した社会分野に関する施策や措置についてまとめ、ボルソナロ政権下のブラジルにおける福祉レジームが家族主義的なレジームに転換しつつあるとの見解を示す。
著者
二宮 康史
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.13-23, 2019 (Released:2019-07-31)
参考文献数
11

ボルソナロ政権は経済自由主義を掲げ、市場の役割を重視したいわゆる「小さな政府」への政策転換を表明し、2019年1月に誕生した。ブラジルでは2003年~16年半ばまでの約14年間、政府の役割を重視し「大きな政府」を志向した労働者党(PT)政権が続き、その後、大統領の弾劾により副大統領から昇格したテメル政権へと引き継がれた。大きく政策転換したかの印象を受けるボルソナロ政権だが、選挙戦の公約や発足後4カ月間の経済政策の中身を検証すると、その多くはテメル前政権を踏襲していることがわかる。どこまで市場の役割に委ね、政府の役割を減ずるかは、90年代の自由化でも試みられた歴史的テーマでもあり、ボルソナロ政権が今後どこまでその問題に切り込めるか注目される。
著者
三浦 航太
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.1-16, 2018-07-31 (Released:2019-03-07)
参考文献数
8

2017年末に行われたチリの総選挙で、ピニェラ元大統領が勝利し、4年ぶりに右派政権が誕生した。他方で、2017年総選挙は、新しい選挙制度の導入と新興の左派勢力「広域戦線」の台頭という点で特徴づけられる。第一に、政治不信を生み出す一因とされた旧来の選挙制度にかわって、今回の選挙より新たな選挙制度が導入された。選出方法、区割り、議員定数の改正などを通じて、政党間競争を高め、政治の代表性を改善することが目指された。第二に、学生運動を起源に持ち、既存の政治や経済格差への不満を背景に近年支持を集めてきた、新しい左派勢力「広域戦線」が、今回の選挙を通じて台頭を見せた。チリでは民主化以来、左右の二大政党連合による固定的な政治の構図が続いてきた。新しい選挙制度の導入と、広域戦線の台頭は、そうした従来の政治を変える可能性をもたらすものである。
著者
北野 浩一
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.36-49, 2021 (Released:2021-01-31)
参考文献数
8

チリではコロナ感染症拡大阻止のための外出制限措置が長期にわたっていることから、国民生活の経済面での打撃は非常に大きい。政府は所得補助のための政策を多く実施してきたが、さらなる中間層向けの所得対策を求める政治的圧力は強く、年金基金の積立額10%の早期引出しを認める法案が成立した。短期的には景気回復にプラスの効果がみられるものの、長期的には基金方式の年金制度の弱体化だけでなく、安定的で健全な経済政策を実施してきた国というチリの評価が揺らぐ懸念がある。
著者
坂口 安紀
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.1-19, 2021 (Released:2021-01-31)
参考文献数
27

ベネズエラでは経済的にも政治的にも、理解しづらい状況が継続している。国家経済の規模(GDP)がわずか5年で4割弱に縮小、憲法違反のドル化の進展が公的経済制度の不備を補完している。2019年以降は、ふたりの大統領が対峙するのに加え、国会もふたつ立ち、制憲議会とあわせて、見かけ上は三つの立法権力が存在する状況が続いた。本稿では、そのような事態に陥った背景を考察する。カギとなるのは、政治経済両面で広がる公的制度の機能不全(無視)であり、それを補完すべく広がるインフォーマルなものごとの仕切り、運用、そしてそれがさらに公的制度の機能不全、形骸化を深めるという悪循環である。そのような厳しい状況下で2020年には、新型コロナ感染症がベネズエラにも広がった。
著者
上谷 直克
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.1-25, 2019 (Released:2019-03-07)
参考文献数
19

今年V-Dem(Varieties of Democracy)研究所から発行された年報Democracy Report 2018: Democracy for All?によると、ここ約10年の世界の民主政の様態は、概して「独裁化(autocratization)」傾向を示しているという。もちろん、普通選挙の実施に限れば、常態化している国もみられるため、この場合の「独裁化」は、普通選挙以外の側面、つまり、表現および結社の自由や法の下の平等に関してのものである。現代社会で最も正当とみなしうる政治体制は自由民主主義体制であり、それは慣例的に「自由」を省略して単に「民主主義体制」と呼ばれるが、皮肉にも現在、世界の多様な民主制が概してダメージを被っているのは、まさにこの省略されがちな「自由」の部分なのである。同時期のラテンアメリカ諸国での民主政をみてみると、ここでも選挙民主主義の点では安定した様相をみせているが、自由民主主義指標の変化でみると、ブラジル、ドミニカ共和国、エクアドル、ニカラグア、ベネズエラの国々でその数値の低下がみられた。しかし,世界的な傾向とは若干異なり,これらの国では「自由」の中でも,執政権に対する司法や立法権からの制約の低下が著しかった。本稿では、上記の世界的傾向や近年のラテンアメリカ地域での傾向をV-Demデータを使ってみたところ低下がみられた、ベネズエラを除いた上記4カ国の最近の政治状況について端的に報告する。
著者
加賀美 充洋
出版者
アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカレポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.26-27, 1986-06-20