著者
神代剛典 佐藤寿倫
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌コンピューティングシステム(ACS) (ISSN:18827829)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.43-53, 2004-01-15
参考文献数
35

コントレイルプロセッサは,エネルギー消費効率改善の目的でマルチスレッド技術を利用している.コントレイルプロセッサでは,アプリケーションプログラムは実行中に2 つの命令実行ストリームに分割される.1つは投機流(speculation stream)と呼ばれ,プログラムの主要部分を構成し,高速なパイプラインで実行される.投機流からは,トレースレベルの値予測を利用して,多くの命令実行列が削除されている.実行命令数が削減されているため,投機流でのエネルギー消費効率が改善されている.残りの命令実行ストリームは検証流(verification stream)と呼ばれ,投機流での値予測を検証してその実行をサポートしている.検証流は低速ではあるが電力消費の小さなパイプラインで実行される.したがって,エネルギー消費効率を改善できる.コントレイルプロセッサの鍵は,トレースレベルの値予測を利用することで元々はクリティカルであった命令列を非クリティカルに変え,それらを投機流から検証流に移動させることでエネルギー消費効率の改善を図っている点にある.本稿では,コントレイルプロセッサにおいて重要な役割を果すトレースレベルの値予測機構について検討する.Contrail processors utilize multithreading for improving energy efficiency. In Contrail, an execution of an application is divided into two streams. One is called the speculation stream. It consists of the main part of the execution and is dispatched into the fast functional units. However, several regions of the execution are skipped by utilizing trace-level value prediction. The other stream is called the verification stream. It supports the speculation stream by verifying each data prediction, and is dispatched into the slow units. The key idea is that the trace-level value prediction translates each critical path into non-critical one and moves it from the speculation stream into the verification stream, and then the non-critical instructions are executed on the slow units. In this paper, we investigate a trace-level value predictor for Contrail processors.
著者
足立 恭将 行本 誠史 出牛 真 小畑 淳 中野 英之 田中 泰宙 保坂 征宏 坂見 智法 吉村 裕正 平原 幹俊 新藤 永樹 辻野 博之 水田 亮 藪 将吉 神代 剛 尾瀬 智昭 鬼頭 昭雄
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
Papers in Meteorology and Geophysics (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.64, pp.1-19, 2013 (Released:2013-12-27)
参考文献数
57
被引用文献数
6 67

気象研究所(MRI)の新しい地球システムモデルMRI-ESM1を用いて、1850年から2100年までの大気化学、及び炭素循環を含む統合的な気候シミュレーションを行った。MRI-ESM1は、大気海洋結合モデルMRI-CGCM3の拡張版として開発されたモデルであり、拡張部分の化学的・生物地球化学的過程以外の力学的・熱力学的過程は、両モデルで同設定とした。計算負荷の大きい化学過程を扱う大気化学モデルを低解像度(280km)に設定して、MRI-ESM1の大気モデル部分はMRI-CGCM3と同じ120kmとした。基準実験において、地上気温、放射収支、及び微量気体(二酸化炭素(CO2)とオゾン)濃度の気候ドリフトは十分に小さいことを確認した。MRI-CGCM3による基準実験と比較して、全球平均地上気温が若干高いが、これは対流圏のオゾン濃度がやや高いためであった。次に、歴史実験を行いモデル性能を検証した。このモデルは地上気温と微量気体濃度の観測された歴史的変化を概ね再現出来ていた。ただし、地上気温の昇温とCO2濃度の増加はともに過少評価であり、これらの過少評価は土壌呼吸を通した正のフィードバックが関係していた。大気CO2濃度増加が過少に評価されたことにより昇温量が抑えられ、昇温過少が土壌呼吸を不活発にして陸域での正味のCO2吸収が過剰となり大気CO2濃度増加の過少を招いた。モデルで再現された地上気温、放射フラックス、降水量、及び微量気体濃度の現在気候場は、観測値とよく合っていた。ただし、特に南半球熱帯域では、放射、降水量、及びオゾン濃度に観測値との差異が存在していた。これらは過剰な対流活動によるものと判断され、太平洋低緯度域では所謂ダブルITCZ状態となっていた。MRI-ESM1とMRI-CGCM3を比べると、両者の現在気候場は非常によく似ており、現在気候再現性能は同程度であった。MRI-ESM1によるRCP8.5の将来予測実験では、全球平均地上気温は産業革命前から21世紀末までに3.4℃上昇した。一方、MRI-CGCM3による同昇温予測は4.0℃であった。排出シナリオRCP8.5を用いてMRI-ESM1により予測された21世紀末の大気CO2濃度は800ppmであり、MRI-CGCM3による実験で使用したCO2濃度より130ppmほど低い。これは上述の昇温差と整合的である。全球平均のオゾン全量は2000年から2100年までに約25DU程の増加が予測され、MRI-CGCM3による実験で与えたオゾン変化と同程度であった。最後に、ESMとCGCMとの比較から、オゾンモデルとエーロゾルモデルを結合したことによって20世紀後半のエーロゾル量の変化に差が生じ、この差が両モデルの昇温量の違いに影響していることを確認した。