著者
倉島 孝行 松浦 俊也 日野 貴文 神崎 護 キム ソベン
出版者
京都大学フィールド科学教育研究センター森林生態系部門
雑誌
森林研究 (ISSN:13444174)
巻号頁・発行日
no.81, pp.1-11, 2021

本稿ではカンボジアを例に, 集約管理型コミュニティ林業 (以下, CF) 導入・普及の試みが発展途上国の台地・丘陵地帯で直面しうる問題と, その現実的な対策について解明・論述する. 具体的には一地方内の複数のCF区域と各周辺域の土地利用動態, それらの差違の要因, 以上の点から汲み取れる施策上の示唆点を記す. カンボジアでは大規模森林伐採権制度停止後, 国土の11%をCF域とする方針が出された. だが, 森林維持群と耕地拡大群という, 好対照なCF区域が狭い範囲内に出現していた. 特に後者には政府の新たな土地コンセッション発行に基づくゴム園の拡大と, 農民による商品農作物栽培地の拡大とが直接・間接に影響していた. 以上の対照的なCF区域出現の背景として, 村ごとで異なった余剰可耕地の大小と, 新参者の耕地化の動きが重要だった. そこで今後, 森林維持群を増やすためには, 1)CF区域の取捨選択に当たり, CF以外の土地利用政策と農林業の動向, それらに由来する土地需要の変化を踏まえた, 中期的で広範な分析に基づく判断と, 2)CF区域での新参者の耕地化に, 元からいる村人らが追随しないようにする効果的な支援が肝要だと言える.
著者
前迫 ゆり 名波 哲 神崎 護
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.103-112, 2007
被引用文献数
1

奈良市に位置する春日山原始林特別天然記念物指定域(34°41'N,135°51'E;298.6ha)に発達する照葉樹林は,奈良公園一帯に生息するニホンジカの局所個体群の増加を背景に,さまざまな影響を受けている.本研究は700年代に春日大社に献木されたのが起源とされる中国地方以南分布種である国内外来種ナギ(Podocarpus nagi)および1930年代に奈良公園に街路樹として植栽された中国原産の国外外来種ナンキンハゼ(Sapium sebiferum)が,春日山原始林の照葉樹林域に侵入していることから,これら2種の分布を定量的に把握し,外来種の空間分布を示すGIS図を作成することによって,照葉樹林への外来種の侵入を明らかにしたものである.現地調査は2002年7月から10月までの期間に,奈良公園側の春日山原始林域西端から東側に約45haの範囲で調査を行った.当年生実生を含む全個体または個体パッチの位置をGPSを用いて記録するとともに,高さ1.3m以上の個体の胸高直径(DBH)を測定し,両種の分布をサイズ別にGISマップに示した.両種が生育していた林冠タイプをギャップ,ギャップ辺縁,疎開林冠および閉鎖林冠に区分し,個体数比率を算出した結果,ナンキンハゼ(n=4543)はギャップ下において出現頻度が高く(54.4%),ナンキンハゼの侵入はギャップ形成に依存する傾向を示した.一方,ナギ(n=6300)は閉鎖林冠下で出現頻度が高く(57.9%),それぞれの種は異なる光環境の立地に侵入していた.両種をサイズクラスに分けて空間分布を把握した結果,ナギは照葉樹林の西端(天然記念物ナギ群落が成立している御蓋山の北側の調査地域に相当する)に多く分布し,調査地域内において西側から東側への密度勾配を示した.一方,ナンキンハゼは顕著な密度勾配はみられなかった.生態的特性の異なる2種の外来種は侵入時期が異なるものの,照葉樹林に侵入後,広域的に拡大していることが明らかになった.春日山照葉樹林は文化的景観によって世界文化遺産に登録されているが,外来種の拡大によって,今後,組成的にも景観的にも大きく変化する可能性が示唆された.