著者
神林 翔太 張 勁 柴沼 成一郎 成田 尚史
出版者
一般社団法人日本地球化学会
雑誌
日本地球化学会年会要旨集 2015年度日本地球化学会第62回年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.181, 2015 (Released:2015-09-03)

福島第一原子力発電所事故により飛散し,陸上に沈着した放射性セシウム(Cs)は水・物質循環に伴う移動で海洋へ移行するため,今後は海洋への移行予測が重要になる。水・物質循環の経路において,汽水域は河川水と海水の混合領域であり,塩分の急激な変化に伴う吸着・溶脱等により化学物質の濃度が大きく変化するため,海洋への移行を考える上で汽水域での放射性Csの動態把握は重要である。しかし,先行研究では大河川や沿岸域での動態把握に留まり,汽水域での挙動は明らかにされていない。本研究では,汽水域での放射性Csの動態を把握し,「河川-汽水-海洋」の系における移行挙動を明らかにするため,幅広い塩分変動をもつ海跡湖「松川浦」において現場観測を行った。
著者
神林 翔太 張 勁 成田 尚史
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

陸域から海洋への放射性セシウム(Cs)の供給源として河川水以外に海底地下水湧出(Submarine Groundwater Discharge: SGD)の存在が指摘されている。しかし,採取が容易な河川水に対し,SGDは一般的に目に見えない現象であるため試料採取が困難であり、これまで定量的な評価が行われていなかった。本研究では,汽水湖「松川浦」で収集した海底堆積物中の間隙水の化学分析を通じてSGDを含めた陸域から沿岸域への放射性Csの流入量を見積もることを目的とした。間隙水及び同地点の直上水に含まれる137Cs濃度はそれぞれ1,398 mBq/L, 117.7 mBq/Lであった。この結果は,海底堆積物から間隙水中に有意な量の放射性Csが溶脱していることを示している。また,フィックの法則を用いてフラックスの計算を行った結果,堆積物表層から直上水へ11.3 mBq/cm2/hの137Csの逸出が起きる事が推定された。さらに,本研究で得られた堆積物-間隙水間の分配比と松川浦の表層堆積物に含まれる137Cs濃度の平均値を用いて湖水中に逸出される137Cs フラックスを見積もると0. 08 GBq/dayと推定され,松川浦に供給される137Csの大部分を占めていることが明らかになった。本研究の結果から,沿岸海域には海水が海底下に潜り,堆積物間隙水の逸出という形で再び海洋へと流出する再循環水(Recycled Submarine Groundwater Discharge: RSGD)によって多量の放射性Csが供給されており,今後,沿岸海域や外洋における放射性Csの評価に供給源としてSGDを把握する重要性が示唆された。