著者
福田 晋平 江川 雅人
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.212-218, 2014 (Released:2015-08-06)
参考文献数
10

【目的】鍼治療による歩行障害の改善が携帯型歩行計 (PGR) により客観的に示されたパーキンソン病 (PD) の 1 例を報告する。 【症例】症例:72 歳女性。 主訴:歩行困難、 頸肩部の重だるさ、 大腿前面部のこわばり感。 現病歴:64 歳時に右手の振戦が出現し、 PD と診断された。 抗 PD 薬の服薬によって症状は軽減したが、 71 歳時に頸肩部の重だるさや大腿前面部のこわばり感を自覚し歩幅が狭くなったため鍼治療を開始した。 現症:歩行は小刻みですくみ足、 日に 5 回の転倒を認めた。 頸肩部の重だるさは、 頸部から肩甲上部に認め、 重だるさが増悪すると前傾姿勢となり歩幅も狭くなった。 こわばり感を自覚する両側の大腿四頭筋に筋緊張亢進を認めた。 [鍼治療]後頸部や両側の大腿部の筋強剛に伴う筋緊張の緩和を目的に、 筋緊張亢進領域で圧痛の認めた経穴 (天柱、 風池、 伏兎、 血海、 梁丘等) に鍼治療を行った。 治療頻度は 1 回/週とした。 【評価】歩行は PGR で 「歩行の力強さ」 「歩行速度」 「歩幅」 を測定した。 歩行バランス機能は TUGT で、 PD 症状は UPDRS で評価した。 評価は初診時と鍼治療期間終了時に行った。 【結果】鍼治療は 12 週間に 12 回行った。 4 診時より、 頸肩部痛や大腿部のこわばり感は軽減し、 転倒回数は 1 日 5 回 (初診) から 3 回 (4 診)、 1 回 (7 診) と減少した。 歩行の力強さは 0.15 から 0.17 (m/sec2)、 歩行速度は 49 から 53 (m/分)、 歩幅は 47 から 49 (cm) となり、 TUGT は 11.8 から 9.5 (秒) と短縮し、 歩行障害の改善が客観的に示された。 UPDRS は 41 点から 28 点と低下し、 PD 症状の改善を認めた。 【考察と結語】鍼治療により、 筋強剛に伴う筋緊張による頸肩部の重だるさの軽減が姿勢を改善させ、 下肢の筋緊張の緩和が歩行機能の改善に寄与したと考えられた。 また、 本症例は、 歩行障害以外の PD 症状に対しても改善を認めた症例であった。