著者
木下 こづえ 稲田 早香 浜 夏樹 関 和也 福田 愛子 楠 比呂志
出版者
日本繁殖生物学会
雑誌
日本繁殖生物学会 講演要旨集 第102回日本繁殖生物学会大会
巻号頁・発行日
pp.1034, 2009 (Released:2009-09-08)

【背景】ユキヒョウは単独性の季節多発情型交尾排卵動物であるにもかかわらず、国内の飼育下個体群は主に施設面での制約のため雌雄を通年で同居させている場合が多い。このような本来の生態とは異なる状態で飼育すると、繁殖を含めた様々な生理面に悪感作が生じると考えられるが、これを科学的に証明した報告は少ない。そこで本研究では、飼育方法の違いが雌の繁殖に及ぼす影響を内分泌学的側面から詳細に検討した。【方法】妊娠歴のある2頭の雌AとBおよび妊娠歴のない雌Cをそれぞれ2007年4月から1年間および2006年6月から3年間にわたって供試した。前2者は雄と通年別居飼育を行い、本種においてエストラジオール-17β(E2)と正の相関関係にある発情行動(Kinoshitaら, 2009)が見られた日にのみ雄と同居させた。Cについては研究1年目は雄と通年同居飼育を行い、2年目は発情行動が見られてから雄との同居を始め、3年目は再度通年で同居飼育を行った。研究期間中週2~7回の頻度で新鮮糞を採取し、その中に排泄されたE2およびコルチゾールの含量をKinoshitaら(2009)の方法に準じてEIA法で測定した。【結果】通年同居飼育を行わなかった場合の年間糞中E2濃度の変動幅は、雌A、BおよびCがそれぞれ0.13~5.44、0.11~12.03および0.19~13.05μg/gであり、Aは1月からBとCは10月から上昇し始め、3頭ともで上昇期間中に交尾行動が確認された。一方、通年同居飼育を行ったCのE2濃度は、初年度が0.11~6.45で、3年目が0.07~4.44μg/gであり、ともに通年同居飼育を行わなかった2年目よりも低く明確な上昇も見られず、常に雄が居たにもかかわらず両年とも交尾行動はなかった。またCにおいて、通年同居を行った年の糞中コルチゾール濃度は0.26~11.20μg/gの範囲で変動し、通年同居飼育を行わなかった年の0.05~6.58μg/gに比べて有意に高い値を示した。以上の結果から、ユキヒョウでは本来の生態に反する通年同居飼育を行うと個体にストレスが掛り、繁殖能力も低下する可能性が高く、種の保存を目的とした飼育下個体群管理には別居飼育が有用であると考えられた。
著者
木下 こづえ 稲田 早香 荒蒔 祐輔 関 和也 芦田 雅尚 浜 夏樹 大峡 芽 楠 比呂志
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.59-66, 2009-03

飼育下の雌ユキヒョウ(Uncia uncia)と雌チーター(Acinonyx jubatus)における性行動と発情ホルモンの関係を調べる目的で,週に2〜7回の頻度で,同一日に行動観察と採糞を行った。糞中エストロゲン(E)濃度はエンザイムイムノアッセイによって測定し,ユキヒョウでは25項目の行動の回数を,チーターではRollingについてのみ回数を記録した。その結果,ユキヒョウでは,糞中E濃度との間に有意な正の相関関係が見られた行動は,Locomotion(r_s=0.4305, P<0.01),Flehmen(r_s=0.3905, P<0.01),Sniffing(r_s=0.3588, P<0.01),Rubbing(r_s=0.2988, P<0.01),Lordosis(r_s=0.2621, P<0.01),Pace(r_s=0.2335, P<0.01),Rolling(r_s=0.2285, P<0.01),Prusten(r_s=0.2216, P<0.01),Spraying(r_s=0.1876, P<0.01),Pursuing(r_s=0.1793, P<0.01),Attacking(r_s=0.1732, P<0.05)およびApproaching(rs=0.1423,P<0.05)の12項目であった。また糞中E値とこれらの行動の頻度は,共に季節的に変動し初冬から晩春にかけて高値を示した。チーターでも,糞中Eのピーク日やその直前にRollingが頻発し,両者の間には有意な正の相関関係が認められた(r_s=0.2714, P<0.05)。以上の結果から,飼育下の雌ユキヒョウと雌チーターにおいて,発情ホルモン動態と関連したこれらの行動を観察することで,適切な交尾のタイミングを予測できる可能性が示唆された。