著者
小野 哲男 水谷 英二 李 羽中 菓子野 康浩 若山 照彦
出版者
日本繁殖生物学会
雑誌
日本繁殖生物学会 講演要旨集 第102回日本繁殖生物学会大会
巻号頁・発行日
pp.1033, 2009 (Released:2009-09-08)

【目的】葉緑体は植物や藻類にみられる細胞内小器官だが、その起源はシアノバクテリアの一種と考えられており、10数億年前に真核生物に1度だけ細胞内共生(1次共生)して葉緑体になったといわれている。本実験では、シアノバクテリアをマウス卵に注入することで人為的に一次共生を再現し、共生の条件検討および胚発生に与える影響を調べた。【方法】まず、注入用培地の検討を行うため、シアノバクテリア(Synechocystis sp. PCC 6803)を10%PVP-H-CZB、H-CZB、NIMに懸濁後、1個、5-10個、20個、それ以上(~100個)をB6D2F1マウスの未受精卵に注入し、生存率、単為発生後の発生率および注入数の影響を調べた。次に注入先の環境の影響を調べるために、未受精卵、単為発生胚(1nあるいは2n)、および受精卵へ注入し、同様な観察を行った。受精卵については細胞質内だけでなく前核内への注入も試みた。注入後に胚盤胞期まで発生した胚は培養を継続し、シアノバクテリアを細胞内にもつES細胞の樹立を試みた。【結果】シアノバクテリアはマニュピュレーターで卵子内へ注入可能であり、またクロロフィルの自家蛍光により染色なしで存在を観察できた。注入用培地の違い、および受容する胚の違いによる胚発生への影響は見られなかった。しかし注入数に関係なく胚の中でシアノバクテリアの増殖は見られず、50個以上のシアノバクテリアを注入した胚の多くは発生が阻害された。さらに、胚盤胞期でシアノバクテリアの存在が確認された胚からES細胞の樹立を試みたが、細胞内にシアノバクテリアの存在が確認できたものの、ここでもやはり増殖は見られなかった。また、発生過程でのシアノバクテリアの細胞質内分布はランダムで、細胞分裂に伴って各娘細胞へ伝わっているのが観察された。今後培養温度や、培養中に光合成可能な光を当てるなどさらなる改良を加えることで卵子内のシアノバクテリアを増殖させることができれば、葉緑体マウスの作出も可能になるかもしれない。
著者
木下 こづえ 稲田 早香 浜 夏樹 関 和也 福田 愛子 楠 比呂志
出版者
日本繁殖生物学会
雑誌
日本繁殖生物学会 講演要旨集 第102回日本繁殖生物学会大会
巻号頁・発行日
pp.1034, 2009 (Released:2009-09-08)

【背景】ユキヒョウは単独性の季節多発情型交尾排卵動物であるにもかかわらず、国内の飼育下個体群は主に施設面での制約のため雌雄を通年で同居させている場合が多い。このような本来の生態とは異なる状態で飼育すると、繁殖を含めた様々な生理面に悪感作が生じると考えられるが、これを科学的に証明した報告は少ない。そこで本研究では、飼育方法の違いが雌の繁殖に及ぼす影響を内分泌学的側面から詳細に検討した。【方法】妊娠歴のある2頭の雌AとBおよび妊娠歴のない雌Cをそれぞれ2007年4月から1年間および2006年6月から3年間にわたって供試した。前2者は雄と通年別居飼育を行い、本種においてエストラジオール-17β(E2)と正の相関関係にある発情行動(Kinoshitaら, 2009)が見られた日にのみ雄と同居させた。Cについては研究1年目は雄と通年同居飼育を行い、2年目は発情行動が見られてから雄との同居を始め、3年目は再度通年で同居飼育を行った。研究期間中週2~7回の頻度で新鮮糞を採取し、その中に排泄されたE2およびコルチゾールの含量をKinoshitaら(2009)の方法に準じてEIA法で測定した。【結果】通年同居飼育を行わなかった場合の年間糞中E2濃度の変動幅は、雌A、BおよびCがそれぞれ0.13~5.44、0.11~12.03および0.19~13.05μg/gであり、Aは1月からBとCは10月から上昇し始め、3頭ともで上昇期間中に交尾行動が確認された。一方、通年同居飼育を行ったCのE2濃度は、初年度が0.11~6.45で、3年目が0.07~4.44μg/gであり、ともに通年同居飼育を行わなかった2年目よりも低く明確な上昇も見られず、常に雄が居たにもかかわらず両年とも交尾行動はなかった。またCにおいて、通年同居を行った年の糞中コルチゾール濃度は0.26~11.20μg/gの範囲で変動し、通年同居飼育を行わなかった年の0.05~6.58μg/gに比べて有意に高い値を示した。以上の結果から、ユキヒョウでは本来の生態に反する通年同居飼育を行うと個体にストレスが掛り、繁殖能力も低下する可能性が高く、種の保存を目的とした飼育下個体群管理には別居飼育が有用であると考えられた。
著者
竹尾 透 有馬 英俊 入江 徹美 中潟 直己
出版者
公益社団法人 日本繁殖生物学会
雑誌
日本繁殖生物学会 講演要旨集 第102回日本繁殖生物学会大会
巻号頁・発行日
pp.1091, 2009 (Released:2009-09-08)

【目的】体外受精は、効率的に受精卵を作製する技術として、医学から農学分野に至るまで幅広く利用されている。我々は、先に精子の前培養培地中にウシ血清アルブミン (BSA) の代替物として、メチル-β-シクロデキストリンを添加することにより、マウス凍結/融解精子の受精能が劇的に向上するという興味深い知見を見出した。そこで本研究では、精子に対するシクロデキストリン (CDs) の受精能賦活作用について、詳細な機序を明らかにするために、構成グルコース数の異なる3種類のCDsを比較することで、CDsの立体構造と受精能賦活作用の関係について検討した。【方法】C57BL/6マウスの精巣上体尾部精子を前培養培地中 (修正クレブス-リンガー炭酸緩衝液 (TYH)、BSA非添加: コントロール) あるいは、各種CDs添加培地中(TYH + CDs; 構成グルコース数、6個: α-CD, 7個: β-CD, 8個: γ-CD) で前培養した。前培養した精子は、体外受精により受精能を評価した。また、受精卵の発生能は、胚移植により評価した。さらに、 各種CDsとコレステロールの相互作用の有無を確認するために、精子生体膜中コレステロール量 (Filipin 染色)、コレステロールの包接能について検討した。【結果】体外受精において、β-CD及び γ-CD は、顕著に受精率を増加させた (コントロール: 3%、1.5 mM β-CD: 69%、10 mM γ-CD: 70%) 。一方、α-CDの受精率は低値 (6%) であった。 β- 及び γ-CDを用いた体外受精により得られた胚は、正常に産子へと発生した (β-CD: 47%, γ-CD: 52%)。また、 β-及び γ-CDは、精子の生体膜中コレステロール量の減少、及びコレステロール包接による可溶化の促進が認められた。以上、本研究により得られた知見から、CDsにおける受精能賦活作用は、立体構造に依存したコレステロールの包接能が関与する可能性が示唆された。今後、β- 及び γ-CDは、精子に対する受精能賦活化剤として、体外受精への幅広い応用が期待できる。
著者
楠田 哲士 松田 朋香 足立 樹 土井 守
出版者
公益社団法人 日本繁殖生物学会
雑誌
日本繁殖生物学会 講演要旨集 第102回日本繁殖生物学会大会
巻号頁・発行日
pp.1022, 2009 (Released:2009-09-08)

【目的】排卵様式を知ることは、その種の繁殖生理を正確に理解する上でも、また希少種の飼育下繁殖計画を進める上でも重要である。例えば、イエネコは交尾排卵動物であるが、個体によっては飼育環境等により稀に自然排卵することが報告されている。野生ネコ科動物も同様であると考えられているが、報告例が少なく不明な点が多い。排卵調査には、定期的に超音波等で卵巣検査を行うか、頻回採血からLHサージを捉える方法があるが、これらの方法を野生種に適用するのはほぼ不可能である。そこで本研究では、糞中の卵巣ステロイドホルモン代謝物の動態と性行動の観察から排卵状況を間接的に調査した。また、本法の妊娠判定への有用性についても検討した。【方法】動物園飼育下のトラ18頭(アムール、ベンガル、スマトラの各亜種含む)から糞を週1~3回採取し、凍結乾燥後にステロイドホルモン代謝物をメタノールにて抽出後、卵胞活動の指標としてエストラジオール-17β(E)またはアンドロステンジオン(AD)、黄体活動の指標としてプロゲステロン(P)含量を酵素免疫測定法により定量した。また、内2頭で採血を行い、血中P濃度を測定した。【結果】血中と糞中の各P動態を比較した結果、類似した変動傾向が確認でき、両値間に高い正の相関(r=0.95,n=61)が認められた。発情期中に雄からの乗駕や交尾行動がみられた個体では、その翌日には発情兆候が消失しP値が上昇した。非妊娠時のP上昇期間は46.6 ±1.6日間(34例)であったのに対し、妊娠した場合には、妊娠期間である104.3日間(4例)高値が維持された。一方、交尾がみられなかった場合や単独飼育個体のP値は、ほぼ基底を維持し(稀に上昇あり)、EまたはAD、発情兆候に約1ヶ月の周期性が認められた。以上のことから,1)トラは稀に自然排卵が起こるが、通常交尾排卵型で、2)排卵を伴う約2ヶ月と排卵を伴わない約1ヶ月の2種類の発情周期があり、3)最終交尾から約40~50日後に、糞中P含量が高値を維持していることを指標に妊娠を判定できることが示された。
著者
河野 友宏 塚平 俊貴 川原 学
出版者
日本繁殖生物学会
雑誌
日本繁殖生物学会 講演要旨集 第102回日本繁殖生物学会大会
巻号頁・発行日
pp.136, 2009 (Released:2009-09-08)

[目的] 寿命に性差が認められることは良く知られており、ヒトでは女性が男性に比べ長命である。しかしながら、長命性において性差が生じる理由は良く理解されていない。哺乳類では、雌ゲノムのみを持つ単為発生胚は致死であることから、その寿命を正常個体と比較することは出来ない。しかし、我々が作出した二母性マウスは父性ゲノムを持たないことから、寿命と父母ゲノムの関係を探る上で良いモデルとなり得る。そこで、雌ゲノムのみから誕生した二母性マウスの寿命を調べた。[方法] 2005年10月から2006年3月の間に生まれた二母性マウス13個体を使用し、寿命を調べた。なお、二母性マウスは既報(Nature protocols, 2008)に従い作出した。対照区には同時期に誕生した受精卵由来の雌マウス13匹を用いた。実験に用いたマウスの系統は共にB6D2F1xC57BL/6である。すべての被検マウスは、単飼ケージで飲水および餌とも自由摂取としSPF環境で飼育した。 [結果] 二母性マウスの平均寿命は841.5日で、対照群の655.5日と比べ185.9日間も長く、Kaplan-Meier analysisにより(p<0.01)有意差を認めた。すべてのマウスは同一の飼養管理条件下で飼育されたにも係わらず、二母性マウスは対照より約30%長く生きたことになる。二母性マウスは父方発現インプリント遺伝子Rasgrf1の発現を欠くことから小型で、出生後20ヵ月における二母性マウス体重をコントロールと比較すると有意に軽かった(29.4g vs 44.9g)。また、血液の生化学的検査から、好酸球が有意に増加していた。これらの結果から、母性ゲノムが長命性に何らかの役割を果たす可能性が示唆される。